なんばー44 そして、一歩。
「・・・これが、リナルートの歴史。俺が前ここで任務があってちょっと怪我した時、偶然近くに薬草使う家が・・・代々薬草を使い、リナルートの隅で暮らす家があったから、治療してもらいながら聞いてたんだ、この話。なんでも、民族だった先祖から受け継がれてきた話らしい。リナルートの正規の歴史に綴られている話より、こっちの方がより実際起きた真実と近いんだって」
ロバートは顔を俯けたまま淡々と喋り、終わるとそのまま黙り込む。
最後まで静かに話を聞いていたシェリーも特に言う事もなく、次の国へ向かって車を走らせていく。
しばらくジープのエンジン音だけが響き、沈黙が続いた。
「・・・あのさ、シェリー・・・・・・」
ポツリと呟き、沈黙を破ったのはロバート。
「俺が撃った人達を・・・あの国民は、助けるかな・・・・・・?」
ロバートは正面の景色を見るように顔を上げるが、その表情は前髪で隠れていて窺う事は出来ない。
「どうだろう・・・・・・? 私にはそれは解らないけど・・・・・・、私は、助けてくれるといいな、とは思ってる」
シェリーは、自分の思うことを嘘偽りなく告げる。
それを聞いたロバートはシェリーの方を向き、一言。
「ん・・・・・・。そうだといいけどね・・・・・・。全て、うまくいくといいけどね・・・・・・」
その表情は切なげな笑みに歪められ、今にも泣き出しそうだ。
「・・・ね、ロバート。今一番近い国はカルラノンだけど・・・・・・行こっか!」
「そ・・・う、だね・・・・・・。ん、行こうか!」
雰囲気を変えようと明るく喋り出すシェリーに、ロバートはフッと柔らかに笑って、声高らかに言った。
もうすっかり日の落ちた荒野。
その静かな空間を、ロバートとシェリー乗せたジープだけが音をたてて走り抜けていた。
その次の日。
「・・・ああ、起きましたか。具合はどうですか? 傷口はどうなっていますか? ・・・良かった、ちゃんと薬草が効いてきたようですね・・・・・・」
リナルートの南側の城門の近く。
今のロバート達には知る由もないが、優しげな声が怪我をした患者に話し掛ける声が、朝を迎えるリナルートに響いていた。
リナルート編 終わり