なんばー41 「選択肢は与えました。・・・さぁ、あなたはどうしますか?」
「じ・・・銃だ!! あの男、銃を持っていったぞ!!」
「いやー!! 殺される!!」
国の住人達は悲鳴を上げながら散り散りに逃げ出すが、間髪入れずにロバートはハンマーを上げ、引き金を引く。
『ドォンッ・・・ドンッドンッ』
「動くな!! 誰も、そこから動くな!!」
ロバートは叫びながら、やたらめったらマグナムを打ちまくる。
撃った弾は正確に国の住人の二の腕や太腿に命中し、その血や肉を削ぎ落として、貫通する。
撃たれたのは、若い女性や子供ばかり。
倒れた人へと駆け寄る者は、一人も撃たなかった。
「・・・・・・」
そのうち弾切れになり即座に装填しなおすが、また撃ち出す事はなく、弾の入ったマグナムの銃口を下に降ろすだけだった。
「うぅ・・・っうぁっ!!」
「たっ、助けて・・・・・・!! あなたぁっ・・・痛いぃ・・・・・・!!」
「ひっく・・・わっ私、もう死ぬ・・・死んじゃうぅ・・・・・・!!」
ロバートに撃たれた者は地面にひれ伏し、今から自分が辿るであろう未来に絶望する。
その傍に付き添う者は、自分の愛する者の行く末とこの国の制度を、そして己の非力さを呪った。
ロバートはその者全てを無表情で見下ろし、やがてシェリーに、小さな声でボソボソと喋りだす。
「え? ・・・何?」
「早く。この国の住人全員に伝えて」
「う・・・うん・・・・・・」
シェリーはゴクリと唾を飲み下し、少し緊張した面持ちで顔を上げる。
「銃の弾は、大きくて貫通力のある物を使いました。その分傷口も大きいので、出血量も並みじゃありません。放っておけば血はドンドンと流れ、そのうち死んでしまいます」
ロバートが横で言うのを、シェリーは完璧に伝える。
すると、傷付いた者の側に寄り添っていた男性が、シェリーに向かって怒鳴る。
「なんてことしやがるんだお前等!!」
「助けたいですか?」
叫んだ男性に言ったのは、ロバートだった。その目は鋭く、冷たい。
怒鳴った男性は、治療してはいけないこの国民の前でどう答えていいのか分からず、黙り込む。
ロバートは構わず、続けてシェリーに言葉を伝える。
「えっと・・・この国の南側の城門の近くに、治療できる家があります。その家に住んでいる人は、国の外から来た旅人しか治療はしてくれません。“人は自然に生き、自然に死ぬ”というこの国の住人に見つからないよう、その家族だけで暮らしています」
シェリーがそこまで言うと国の住人は僅かに騒ぎ出す。
同時に、出血多量で死にかけた、愛する者の名を呼び続ける声。
「・・・・・・!」
その時、シェリーこれ以上ないくらいの罪悪感でいっぱいだった。
目の前には死にかけている者、そしてその者に寄り添っている者、自分を睨みつけてくる幾つもの瞳、横にいるロバートの、それら全てを見つめる冷静な瞳・・・
「 」
最後の一言を、ロバートがシェリーに呟く。
シェリーは、瞳に僅かに滲んだ涙を、手の甲でグッと振り払う。
「・・・その家にる人達に治療を頼むのか・・・それとも、国の法律に則って、その家族を罰するか・・・・・・選択肢は与えました。あとはあなた方の自由です」
言い終わるのを見計らって、ロバートはマグナムをホルスターに戻し、シェリーの背を押しながら颯爽と踵を返す。
ロバートに背を押されながら歩くシェリーは、ほんの少し少し振り返って国の住人の様子を窺う。
そこには、今すぐにでも女性や子供を連れて走り出そうとする男性や、それを制して「国の法律で」「お前は神に逆らう気か」など、治療を反対する者、そして「南側の城門の近く・・・その家族に罰を」と唱える者までいた。
シェリーはやるせない気持ちになり、そこから目を逸らすように前を向く。
その瞳には、振り払ったはずの涙がうっすらと滲んでいた。
やがてその涙は零れ落ち、柔らかなその頬を伝う。
(どうか・・・どうか、誰もロバートを人殺しにしないで・・・・・・!!)