ナンバー40 石の雨
「さっきから見ていたが・・・そこの女性は、先日この国に怪我人を連れてきて治療しようとしていた人なんじゃないのか?」
「その連れはどうした!? もう治療したのか!?」
「まさか・・・この男が連れなのか!? 怪我を治療したのか!?」
道を立ち塞ぐ男達が一気にまくし立てると、ロバートは小さくため息をつき、包帯を巻いた肩が見えるように、自分のコートの右側をはだけさせる。
「怪我をしたのは俺です。・・・一応この国のことは知っているので、すぐにでも出て行くつもりです。迷惑はかけません」
包帯が巻かれたその肩を見た国の住人が騒ぎ出す。
子供を連れた母親らしき人は、ロバートの姿を子供に見せないように畏怖するような目で通り過ぎる。
それら全てをロバートは、無言ではだけたコートを直す。
だが、一向に騒ぎがやむ様子はない。
「・・・シェリー、行こう・・・・・・」
ロバートは小さく振り返り、すでに泣きそうになっているシェリーの手を引いて歩き出そうとする。
「おいっ、待てよ異教徒の女!」
「え・・・・・・? っキャア!!」
いきなり、10も年のいかない子供に、少し大きな石を投げられる。
シェリーは咄嗟に手で頭を庇ったが、石はその腕に勢いよくぶつかり、小さく跡が残る。
「痛った・・・・・・!!」
「神様の意思に背く奴なんか、死んじゃえ!」
「そうだそうだ!」
「神様は、人間が自分で治療してまで生き残る事を望んでないんだ!」
その辺にいた子供等全員が一箇所に集まり一斉にシェリーをいくつもの石が飛び交っている。
「・・・・・・!!」
ロバートは咄嗟にシェリーを自分の手元まで引き寄せてその頭を抱き、飛んでくる石からシェリーを庇う。
「・・・痛っ・・・・・・!! ・・・シェリー、腕大丈夫? 他にどこか当たってない?」
そう小さく呟いたロバートの背や腕には、容赦なく大小様々な石がぶつかっていく。
シェリーがロバートの呼びかけに顔を上げると、その瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
必死に唇を噛み締め、今にもこぼれ落ちそうな涙を耐えている。
「大・・・丈夫・・・・・・。腕も・・・平気、だよ・・・・・・」
シェリーが怪我をしたのは、左腕だった。
右腕はギュッとロバートのコートの襟をつかみ、左腕では、ゴシゴシと自分の目元を拭っている。
その左腕を見ると、傷口からはわずかに血が出ていたが、跡が残るようなモノではないようだ。
「よかった、対した傷じゃない。・・・今すぐにでもジープに戻って・・・つ・・・さっさと消毒しよう・・・・・・」
(・・・傷口が、開いた・・・・・・!)
ロバートとシェリーに投げられた石・・・少し大きい石が、丁度ロバートが怪我をした右肩にぶつかり、ほんの少し開いた傷口から流れた血が真っ白な包帯を赤く染め上げていく。
ロバートの腕に抱かれているシェリーは外の様子は見えないが、ほんの少し力がこもった腕と、ロバートの苦痛に歪んだ顔を見て疑問に思う。
「ど、どうしたの!? ・・・石!? どこかに当たったの!?」
心配そうに見上げるシェリーを安心させるように柔らかく笑い、ポンポンと頭を撫でてやる。
「ん・・・大丈夫。シェリー、今から俺が言うことをこの国の住人全員に伝えて。・・・俺が言っても、誰も憶えないから」
「え? ちょっ、ロバート何言って・・・・・・」
言い終わると、ロバートはコートで隠れていた右腿のホルスターからマグナムを抜き、空に向かって高々と掲げる。
『ッドォン』
「ひっ!!」
シェリーは、いきなりのことに身をすくめてしまう。
石を投げ続けていた国の住人も、突然の銃声にその身を固まらせる。