ナンバー36 副作用は?
『すみません、夜中に急な任務が入ったので、帰ります。シェリーさん、今度任務以外でまた会う事があれば、またあの話の続きをしましょう。ロバート、久しぶりにちゃんとした形で会ったのに、こんな用事で勝手にいなくなる私を、許して下さい。ロバートがいない間に私が作った絶対記憶の抗剤、とても少ないですが、必要なら使って下さい。全部で、10錠あります。
それでは、また。 グレイ』
最後に、『P,S ロバート、傷の手当てはちゃんとして下さい。一応、寝てる間に一度包帯代えておきました。』と、付け加えられていた。
「・・・グレイ、帰っちゃったんだ・・・・・・。ロバート、絶対記憶の抗剤って、何?」
シェリーは、首をかしげてロバートを見る。
「抗剤は・・・俺の絶対記憶の効力を打ち消す力がある薬。簡単に言えば、飲めば俺のことを憶えていられる薬。・・・アレの元の材料は相当貴重だから、一部の関係者ぐらいしか持っていないハズなのに・・・・・・」
「・・・? ・・・それって、どういうモノなの? 何かの・・・薬品とか、そんな感じのモノ?」
「・・・現時点では、実験塔はまだそれが分かっていない。分かってはいないけど・・・それでも使って、こうなった」
そう言うとロバートは、自分のことを指すように肩をすくめて見せる。
(・・・絶対記憶の薬と、その抗剤は同じモノでできているんだ・・・・・・)
なぜかシェリーは、ロバートが口にしていないことさえも、
ほんの少しは分かるようになってきた。
「・・・・・・」
そのせいか、シェリーはある1つの言葉を飲み込んだ。
それは、今のロバートを見て少し考えれば、すぐにわかることだったから、だろう。
もしくは、その答えを知った上で、あえて訊かなかったのか。
「ま、いいや。さっさと朝ご飯食べて、後で外出よっか。体調もよくなったし」
訊いて、その答えがどう言うモノであっても、ロバートが言いにくそうな、少し悲しそうな顔をする事は知っていた。
「うん・・・・・・。でもその前に、包帯代えようか?」
「いい。自分でやる」
「えぇ!? ひどい!! 私だってできるのに、そのくらい!!」
「いいよ、別に・・・・・・。って言うより、ヤダ」
「そんなぁ・・・・・・」
――その薬に、副作用はなかったの?――
副作用があればロバートの体のどこか、もしくは中のどこかに異常がある。
それは、どのくらいのものかは想像がつかない。
なければないで、その薬は副作用がなくなるくらいに被験体の命を使って完成度を高めた、完璧な薬、ということになる。
(・・・なかったとしても、あったとしても、結局は悲しいんだ、ロバートにとっては・・・・・・)
そうして2人はしばらくふざけあった後、そのままの笑顔で朝食を食べ終えた。