ナンバー34 おやすみなさい♪
「あの・・・でも・・・」
「・・・? ・・・どうかしましたか?」
「眠くなってきたから、やっぱ明日にしない?」
『ガクッ』
グレイは、シェリーの言葉に多少ズッコケてしまう。
「そ・・・そうですね、じゃあ、寝ましょうか」
そう言うとグレイは、もそもそとベッドに潜り込み、反対のかけ布団のすそをめくり上げる。
「さ、どうぞ」
軽く笑いかけるグレイに、シェリーはなんとなく身構えてしまう。
「・・・そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。ロバートの恋人に手を出すつもりはありませんし」
そんなグレイの言葉を聞くと、シェリーは顔を真っ赤にして否定する。
「ちっ、違うよ!! 私とロバート、付き合ってないよ!!」
「あれ? そうだったんですか? 私はてっきり、2人は恋人同士なのかと・・・・・・」
「だから違うって!! 私とロバートは旅をする仲間ってだけで・・・・・・!!」
「・・・ロバートのこと、嫌いなんですか?」
グレイは、さも自分のことを聞くように言っている。
恐らく、この上目使いはシェリーがたまにやるものとは違い、グレイの自覚ありの行動だろう。
オリジナルナンバー女スパイ役、恐るべし。
「い、イヤ、嫌いじゃないけど・・・・・・、って言うより、むしろ好きって言うか・・・・・・」
女装してからやった訳ではないがグレイの上目使いの効果は抜群で、言うつもりもなかったはずの言葉が、ついポロッと口から出てしまう。
「やっぱり好きなんじゃないですか」
「だっ、だから違うって・・・・・・!!」
「まぁどちらにしても、私はシェリーさんを襲うつもりはありませんので、安心して寝て下さい」
「・・・お、襲うって・・・・・・」
シェリーは苦笑いをしながらベッドに入り、やがて、ボフッと音をたてて枕に頭を落とす。
「・・・ッハ――・・・・・・。なんか今日は疲れたな――・・・・・・」
「ロバートの話は、そんなに疲れましたか?」
「なんて言うか、内容が濃かったって言うかなんて言うか・・・・・・。・・・でも、なんとなく今までの謎が一気に解けた気がする。でも、さ・・・・・・、なんか1つだけ納得いかないことがあったの」
「・・・なんですか?」
シェリーは少し迷って言う。
「『ルーディーと弟のクラウドの脱走を手伝う為』って言ってたけど・・・・・・、・・・まぁ、1回目の脱走はそうかも知れないけど、2回目に脱走した時の理由も、同じなのかな・・・・・・。なんか違うんじゃないかなぁって・・・・・・」
シェリーは、虚ろな表情で天井を見つめている。
そんなシェリーをチラリと見て、グレイは言う。
「・・・シェリーさんって、意外と周りやそこにいる人物を見る目が敏感なんですね」
「え? なんで?」
「・・・私を男だと気づいたときもそうだし、ロバートの言葉を聞いた時に違和感を感じるなんて・・・・・・。・・・私達オリジナルナンバーは、偽装のプロです。ロバートの話したように、人を騙して殺すのを主としていた人は、嘘をつくのが上手いんです。・・・それなのに、そんな嘘や偽装を見破るのは、並みの観察力では出来ませんよ」
シェリーは少し考えて、言う。
「んー・・・・・・。そんな気にしたことはなかったけど・・・・・・。なんだろ、癖かな?」
そんなシェリーを見て、グレイはフッと目を細める。
(そんな簡単に、とてもあんな癖がつくはずがない。・・・旅の間についた習慣か、それとも・・・・・・)
「・・・? ・・・どうしたの?グレイ?」
「いえ、なんでもありません。・・・そろそろ遅いですし、もう寝ましょうか」
グレイは、やわらかく微笑む。
その笑みは、任務で男をオとす時のものとは意味がまったく違う意味のモノだった。
「うん、そだね! ・・・んじゃ、おやすみグレイ!」
グレイは、サイドランプに手を伸ばし、カチリと明りを消す。
「おやすみなさい」
暗くなった部屋の中は静まり返り、それから2人は眠りについた。