ナンバー22 縫合、叫び
シェリーは、まず一針目を入れる。
『ブツッ・・・ズッ』
「・・・ぐっ・・・うぅ!!」
ロバートは、喉まで出かかった悲鳴を噛み殺す。
シェリーは、苦痛に歪んだロバートの顔を見て、とても胸が苦しくなる。
(今は縫う事だけに集中! 他は気にしない!)
シェリーは深く深呼吸をして、続きに取り掛かる。
『ブツッ・・・ズッ・・・・・・ブツッ・・・ズッ・・・・・・』
「・・・んぅっ! ううぅっ! んうぅっ!」
ロバートが痛みで身をよじると、シェリーがそれを制止する。
「動かないで! 違うところに刺しちゃう!」
それでも痛みが引かない為、それは出来ない。
シェリーは仕方なく、右肩だけを押さえつけ、縫合を再開する。
ロバートは息が上がり、口からタオルが落ちる。
シェリーはタオルを直そうかと思ったが、少し考えてやめた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・!」
『ブツッ・・・ズッ・・・・・・ブツッ・・・ズッ・・・・・・』
「うっうぁっ! うああああぁあああぁああああああああっ――――――!!」
しばらくして、右肩の縫合が終わった。
シェリーは1度、血だらけの傷口を拭い、グルグルと包帯を巻く。
ロバートは最後に水を飲んで、そのままソファの上で寝た。
シェリーは、寝ているときに熱が出たらと心配になり、そのまま起きて片付けやら看病やらをする事になった。
「・・・・・・あれ?」
シェリーは、ふとあることに気が付く。
その視線の先には、床に滴り落ちるロバートの血と、そのロバートの血色が悪いのに気が付く。
「輸血・・・しないとかな・・・・・・?」
そう呟くとあたりをキョロキョロと見回し、ある一点に視点を定める。
そこには、縫合する前に使った注射器があった。
シェリーはおもむろにそれを手に取り、まじまじと見つめる。
「・・・どうやって輸血すんだろ・・・・・・?」
シェリーは自分の血が入った注射器を、ギッと睨み付ける。
「・・・・・・」
だが、何も起こらない。起こるはずがない。
シェリーはしばらく悩んだ後、赤い血管、動脈から輸血する事になった。
「え――っとぉ・・・動脈、でいいんだよね・・・・・・? ほっ、他にもなにか大切なことがないでもないようなぁ――!? ・・・・・・意味不明・・・・・・。ぅえ――い! 適当バンザーイ!」
シェリーは少し・・・、いや、かなり混乱してしまい、意味のわからないことを言い出す。
シェリーは両手で注射器を持ち、注射針をロバートの腕に向ける。
「じっ・・・じゃあ、いきますっ・・・・・・!」
「針を入れるトコは青い血管、つまり静脈。
気を付けることは、注射器に空気が入らないよう、 注射針を上に向けて、数滴垂らす」
ロバートは目を閉じたままい言う。
「なぁ〜るほ・・・・・・どぅあぁ――――――!!?」
「おいおい・・・・・・女が、『どぅあぁ――!!?』なんて叫び方はないだろぉ〜?」
ロバートは薄く目を開き、ニヤリと笑う。
その顔は、やはり先程の疲労が残っているため、少し眠そうに見える。
・・・だがシェリーはそんなことにはお構いなし。
「こっ・・・んのアホヤロ――!!」
『ブシュッ』
「んぎゃあ!! 少し目に入ったぁ――ッ!!」
シェリーは持っていた注射器をロバートの眉間に発射する。
「ふ・・・ふんっ! いいザマよ!」
「なんちゃって。目には入ってないよ〜?」
ロバートは少しバカにしたように言う。
シェリーはブチ切れる直前。2発目を構えている。
「ちょっ! ちょっとストップ! それ一応輸血用のだよ!?」
ロバートが言うと、シェリーはハッとしてその注射器をロバートに渡す。
「ご・・・ごめんごめん、忘れちゃってた!」
「忘れてたって・・・・・・。って、え!? 俺に、自分で輸血しろっての!?」
ロバートは勢いよくソファから起き上がる。
「っちょ・・・・・・! 急に起きたら・・・・・・」
『ドサッ』
「・・・危ないって言おうとしたのに・・・・・・」
ロバートは目眩を起こし、再びソファに倒れ込む。
注射器はロバートの手から離れ、シェリーが慌ててそれを取る。
「起きなきゃよかった・・・・・・。頭がモノスゴクグラグラする・・・・・・」
ロバートは額に手を乗せ、う――っと唸る。
「ん――・・・・・・。この状況では、私が注射するってことになるの?」
「ゴメン・・・・・・。あ、嫌なら別にいいけど・・・・・・」
明らかに血の足りてなさそうな青白い顔を見て、シェリーは少し悩む。
「私がやっても、たぶん失敗するし・・・・・・、じゃあ、ロバートがまた起きた時にやり方教えて?・・・今はまだ、心の準備が・・・・・・」
「ん――・・・。ん、わかった。じゃあまた寝るから、起きたらやろっか」
そう言ってロバートは、ニコッと笑う。
「よかったぁ〜! ・・・私も疲れたから、そこの部屋で寝てるね。部屋のカギは開けとくから、何かあったら起こしてね!」
「ん、わかった。おやすみィ〜」
「うん! おやすみ〜!」
そう言ってシェリーが部屋のドアを閉めると、ロバートのいる場所は一気に静かになった。
「シェリー、一応女なんだから、カギくらい閉めろよ・・・・・・」
ロバートは1人呟くと、フ――ッと息を吐く。
「・・・・・・寝よ・・・・・・」
ロバートはしばらく何かを考えているようだったが、やがて目を閉じると、深い眠りに落ちていった。