No,20 シェリーの軽いウソが・・・・・・
「さてっと」
ロバートは右肩に刺さったままのナイフのグリップを握り、少しずつ引き抜いていく。
『・・・ズッ・・・グチュッ・・・』
「ぐッ・・・う・・・うぁ・・・・・・!」
ナイフは、徐々にロバートの体から抜き出されていく。
それと同時に、今までロバートの中で抑えられていた痛みが訴えられる。
『・・・ズグッ・・・ズッ・・・ズズッ・・・』
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・。ッう、ああッ!!」
長いナイフが、少しずつ姿を現し始める。
「うあッ! あああああぁああああああああああああぁああッ!!」
『ズズズっ・・・ズッ、グチュッ・・・ズボッ』
ナイフはロバートの血を刃先に滴らせ、完全にその姿を現す。
「ぶはっ! はぁ・・・はぁ・・・はぁっ・・・・・・。いっ痛ぇ――っ!!」
ロバートは出血を止めようと左手で傷口を押さえるが、傷口からは容赦なく真っ赤な血が溢れ出し、その細い指を赤く染めていく。
急に、部屋の外に軽い足音が鳴り響く。
ロバートは目を閉じて耳を澄まし、小さな声で言う。
「シェリー、か・・・・・・」
そう言うとスッとソファから立ち、ドアの前まで歩いていく。
『ガチャッ』
「ただい・・・んぎゃあ!!」
シェリーは帰ってきて早々、血だらけでドアの前に立っていたロバートを見て悲鳴をあげる。
「ん、おかえりー・・・・・・。もうナイフ抜いといたから、早く輸血の準備しよっか」
あくまで冷静なロバートに対し、少しグロテスクなロバートの傷口を見て、とても動揺しているシェリー。だがその手には、ロバートに頼まれた白い箱が、しっかりと抱えられている。
「ちっ、ちち血がァ! きっ、傷口っ、ちりょっ、治療しなきゃっ!?」
「血、傷口、治療・・・・・・? 血が出てる、治療しなきゃ、で当たってる?」
「・・・・・・!?」
「ま、いっか」
「っあ、ちょっと!」
ロバートはシェリーの手から白い箱を取り上げ、中を探り出す。
「んーと、注射器はーっと」
ロバートは血がベットリと付いたままの手で、中にあるらしい注射器を探している。
そのせいで、中に入っている器具や包帯が、血で汚れていく。
「ロっ、ロバート! あの、私が探すから、ちょっと待ってて」
「ん〜・・・・・・。ん。わかった」
そう言うとロバートは、白い箱の蓋を開けたままシェリーに手渡し、ヨロヨロとソファへと戻っていく。
床には、ロバートの血が点々と続いている。
「・・・・・・」
「どうしたの? シェリー?」
ロバートはシェリーの視線に気付き、尋ねる。
「え!? いやっ、ただそのっ・・・・・・」
「・・・? ・・・・・・何?」
(うっ・・・・・・! 血まみれの姿に見とれてた、なんて言えない!)
「っその、・・・・・・傷、痛くないのかなぁって思って、さ・・・・・・」
シェリーは目を泳がせながら、変な笑いを浮かべる。
「ふぅ〜ん・・・・・・。んで、本当はぁ?」
「うぇ!? なんで知って・・・いや、違くてっ・・・・・・! あ! ほら! 注射器あったよ!」
シェリーは、途中で話を変える。
「あぁ、ありがとう。それ持って、こっち来てー」
ロバートは左隣をポスポスと叩く。
シェリーはその様子を見て、とりあえずホッと胸をなでおろす。そして、ボフッと音をたててソファに座り、注射器と左腕を差し出す。
「んじゃ、血ィ取るよー」
そう言うとロバートは、ゴムのようなものでシェリーの左腕を縛り、手早く消毒液で拭く。
「少し痛いけど、まぁ我慢してね」
『プスッ』
「ったぁ・・・・・・やっぱり痛い・・・・・・!」
「ん〜・・・もう少し・・・・・・。・・・はいっ、終了〜」
ロバートはそう言うと、シェリーの腕から注射針を抜き、少し血の出たところに、ガーゼを宛がう。
「輸血はこんな感じかな・・・・・・。・・・ところでシェリー、さっきのウソは何だったの?」
シェリーは一瞬硬直し、ぎこちない笑みを浮かべる。
「そっ、それはなんの事かしら〜!?」
ロバートはニッコリ笑って、シェリーに問いかける。
「・・・さっきのウソは、ナ〜ニ?」