No,18 次の国、『リナルート』
朝日が出る頃、1台のジープが埃っぽい土の上を走っていた。
「・・・シェリー、リナルートって国、まだ?」
ロバートは助手席に座って、ナイフの柄が突き出た右肩を押さえている。
「わ、私が来た時と同じなら、もうすぐだと思うけど・・・・・・。傷、大丈夫なの?」
「結構、いや、モノスゴク痛い。血はもう止まってるけど、このナイフ抜いていい?」
「いや、ダメだよ!? 一気に血が出ちゃうよ!?」
「いーや、抜いちゃお」
ロバートはナイフの取っ手に手をかける。
「ちょっ、タンマ! 向こうに国が見えてきたよ! ロバート、手ストップ!!」
見ると、向こうには小さく城壁のようなものが見える。
「・・・どうせ、治療できないのに・・・・・・」
ロバートはポツリと呟く。だが、その声はシェリーには届かなかったらしい。
「あの国で治療してもらお!」
ロバートは小さくため息を吐く。
「・・・もうしばらくは、このままかぁ・・・・・・」
「え・・・・・・!? この国では治療できないんですか!?」
シェリー達はリナルートのホテルに泊まることになったが、ホテルの支配人に呼び止められ、意外なことを聞かされる。
「ええ、そうなのよ・・・・・・。この国の宗教の教えで、『人は自然に生き、自然に死ぬべきだ』って感じのが。法律的にも、治療は認められていないの」
中年のデップリした感じのおばちゃんがそう言うと、シェリーはがっくりと肩を落とす。
そんなシェリーの様子を見て、おばちゃんがなんとか励まそうとする。
「まっ、まぁ元気出して!! 一緒にいた彼、なんとかなるわよ!!」
そうは言っても、一晩肩にナイフを刺したままで居たのだ、普通は大丈夫ではないだろう。
ま すます大きなため息をつくシェリーに、おばちゃんは1つの提案を出す。
「薬とかなら、その辺にでも売ってるわよ? 彼の治療に使えるものがあるかは分らないけど・・・・・・」
「どこに売ってるの!?」
シェリーは身を乗り出して尋ねる。
「さ、さぁ・・・・・・。あの宗教の信者に見つからないように、どこかで隠れて売ってるって噂があるけど・・・・・・」
「場所は分んないの!?」
「さすがにそこまでは分からないわ」
シェリーは、またもガックリと肩を落とす。
「・・・じゃあ、もういいです・・・・・・」
シェリーはそう言うと、トボトボとロバートがいったほうへと歩いていった。
『ガチャッ』
「あ、シェリー。遅かったね」
シェリーは、盛大なため息をつきながら部屋に入る。
あのあと、シェリーはロバートに頼まれたものを買いに出ており、今ようやく帰ってきたのだった。
ちなみに、ホテルのお金は先にロバートが払っていた。
「・・・疲れてるね、何かあったの?」
「・・・・・・」
「んー・・・・・・。とりあえず、こっち座ってよ」
ロバートは、ナイフの刺さっていない左手で、左隣のソファをポスポスと叩く。
顔は笑っているが、やはり右手の傷は相当痛むようだ。あまり右手を使わないのが、目に見えて分かる。
「・・・・・・」
『ボスッ』
「え・・・・・・?」
シェリーは荷物の入った紙袋を抱きながら、ロバートの右隣に座る。
「この国の宗教で、”人は自然に生き、自然に死ぬべきだ”って感じのがあるらしくて、この国では治療できないらしい・・・・・・」
「あ、うん。知ってるよ」
ロバートはシェリーの言葉を遮る。
「あの家にいた頃、シェリーみたいに道に迷う人が何人かいたんだ。その人たちをたまに家に泊めたりする事もよくあったんだけど、近くの国や珍しい国の話を聞くことがあったんだ。
その中で、リナルートの話はよく出たよ」
シェリーは唖然とする。
「じゃあ、最初から知ってたの?」
「当然」
ロバートはフッと笑う。
「それじゃ、どうやって治療するの!? 知ってたんなら、何で違う国に行かなかったの!?」
シェリーは心配気に言う。
「・・・シェリー、ちょっとおバカ? 治療は自分でする。ちゃんと針と糸、買ってきたよね?」
ロバートは、シェリーが買ってきた荷物の中をガサゴソと探り出す。
「う、うん・・・・・・。一応買ったけどさ・・・・・・」
シェリーはよく理解できない様子で言う。
ロバートはそんなシェリーの話をあまり聞いていない様子で、治療用のではない針と糸を探り当てる。
「お、あった。これだこれだ」
「・・・あのさー、まさかとは思うけどさ、それで傷口縫うなんて言わないよね?」
シェリーは、恐る恐る聞く。
ロバートは、とてもいい笑顔でニッコリと笑う。