No,17 悲鳴と逃走
そしてグレイは音をたてずに懐に手を伸ばし、もう1本のナイフを取り出す。
「ロバート・・・いや、No,0117。ナイフはもう1本あります」
「えっ?」
『ドスッ』
ロバートが振り返ると同時にナイフがロバートの右肩に突き刺さる。
それは、グレイの手から放たれたモノだった。
「ぐっ・・・うあああああああぁああああああああっ!!」
ロバートは右肩を下にして倒れ込む。
グレイは悶え苦しむロバートを見下ろす。
「いや・・・いやぁああああ!!」
いつの間にかジープから降りていたシェリーが、泣きながらハンドガンの銃口を、グレイに向けている。
「すみません、シェリーさん・・・・・・――でも」
『パンッ、パンッパンッパンッ』
グレイはシェリーが撃った弾をすべて斬り落とし、少し悲しげに言う。
「これが、私の任務なのです・・・・・・」
シェリーはヘタリと座り込むと、ハンドガンを草の上に落とし、泣きじゃくる。
グレイはシェリーを見下ろし、言う。
「でも・・・、っ私はっ・・・・・・!」
グレイは震えるシェリーの肩にそっと手を添えようとする。・・・だが。
『ドンッ』
それはロバートのマグナムによって阻止される。
ロバートは片膝を付いた状態で左手にマグナムを持ち、それを発砲したのだった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・っシェリーに・・・ッ触れるなッ・・・・・・!」
弾はロバートが狙ったこめかみからはからは外れ、少し下の左肩に直撃する。
「ぐっ!!」
グレイは小さくうめき声を上げ、右に倒れる。
今まで泣きじゃくっていたシェリーは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、ロバートを見る。
ロバートは疲労と痛みで、少し息切れしている。
その右肩から下は、己の血で、指先まで赤く染まっている。
「ロ・・・・・・っ、ロバート!!」
シェリーは袖で涙を拭いながら、ロバートの下へと走り寄る。
「大丈夫!? 大丈夫なの!? ロバート!!」
「い・・・・・・急いで・・・・・・!」
「えっ!? なに!?」
「グレイがッ・・・あいつだッ! グレイが・・・無線機で、仲間を呼んだかも知れない・・・・・・ッ! いっ・・・急いでジープに戻ろうッ!」
ロバートは、先程グレイがもたれていた木の近くを指差す。そこには無線機が落ちていた。
痛みのせいか、声や息が絶え絶えになっている。
「わっわかった! ロバート、立てる?」
ロバートは少し苦しそうに、ゆっくりと立ち上がる。
「ん・・・・・・大丈夫」
ロバートは、フ――っと息を吐く。
「よし! 急いで逃げるぞ!」
シェリーは、ロバートの右腕を気にしながらジープに乗り込む。
ロバートはいつの間に取ってきたのか、その手にはグレイのナイフがぶら下げられていた。
ロバートもジープに乗り込むと、シェリーが車のカギを回す。だが・・・。
『キュルルルル・・・』
「うそ!? スターターの調子が・・・・・・!?」
ロバートが外を見ると、林の中から装備兵の男達がぞくぞくと出てくるのが見える。
「クソッ! ・・・アイツらっ・・・やっぱ来たか・・・!」
『キュルルルル・・・ブホッボボボボボボ』
「あっ、エンジン掛かったよ!」
「よし! 速く出して!」
ロバートは、いつの間にかアサルトライフルを左腕に抱えていた。
『ガガガガガガガガガガ・・・』
ロバートは、動き出すジープの窓からアサルトライフルを撃ちまくる。
『ダダダダダッ』
『パンッパンッパンッパン』
『バララララララララララッ』
装備兵達が撃った弾が、何発かジープに当たる。
「ちっ・・・・・・!」
ロバートは持ってきたバッグの中から、手榴弾を取り出す。
ピンを口にくわえてカチンッと外し、それを持ったまま時間を計る。
「1・・・2・・・3・・・」
ロバートは3秒まで数えると、窓の外にいる装備兵に向かって思い切り投げる。
「4・・・5」
『ドガ――――――ンッ』
手榴弾は装備兵達の近くで、大きな音をたてて爆発する。
ロバートは小さく口笛を吹く。
「スゲー爆発ッ・・・!」
「すっごぉ〜い!」
ロバートはサイドミラーに目をやる。すると、後ろから何かが飛んでくる。
ロバートは、それを迷わず受け止める。
『パシッ』
それは、ナイフだった。取っ手には、何かが結び付けられている。
「ナイフに手紙・・・・・・? ・・・グレイか」
ロバートはナイフに付いていた手紙を開き、読む。
「なんて書いてあるの?」
ロバートはニッと笑う。
――任務は中止になりました。ありがとうございます――
「・・・だってさ」
2人を乗せたジープは、真夜中の森を、いつまでもいつまでも走っていった。