No,16 争い
『ドンッ』
ロバートがマグナムを撃つと同時に、グレイのナイフが斬り上げられる。
「っ・・・・・・!!」
グレイのナイフは、ロバートの右腕を斬る。
傷口は親指の付け根から肘近くまで達していて、ソコからは真っ赤な血が次々に流れ出る。
「クソッ・・・・・・!!」
『ドンッドンッ』
ロバートはマグナムを左手に持ち直し、2発続けて撃つ。
1発目はグレイの右手を貫通し、2発目はよけられる。
「グッ・・・・・・!!」
グレイは後ろに飛び退き、地面に左手を付ける。
「2発目が左手に当たらなかった・・・・・・」
「ナイフで右腕を斬り落とせませんでした。それに、・・・」
2人はそれぞれ自己反省をし、グレイは右手を少し上げ、傷口を見る。
「利き腕が使えなくなりましたし、何より痛いです・・・・・・」
丸く大きな穴からは、ダラダラと血が流れ出ている。流れる血は中指へと筋をひき、雫となって草の上に落ちていく。
ロバートの傷口からも同様、ダラダラと血が流れ出ては落ちていく。
それでも、ロバートはマグナムに弾をこめていく。
シルバーの輝くマグナムは、ロバートの血によって汚れていく。
『ガチンッ』
「装填終了〜。俺もグレイもこんな状態だけど、まだ続ける?」
グレイは、ナイフをギュッと持ち直して言う。
「当然です・・・・・・」
ロバートは軽くため息をつく。
「シェリー、まだかな〜・・・・・・」
グレイは首をかしげ、ロバートの一人言に質問する。
「シェリーさんというのは、先程まで一緒にいた方ですか?」
「え? ・・・あぁ、そうだけど、それが?」
「その方は今、どこにいるんですか?」
「イヤそれが、俺も今どこを走ってんのかさっぱり・・・・・・」
ロバートの話の最中に、遠くから車のエンジン音が聞こえる。
グレイもすぐに気づき、音のするほうに顔を向ける。
「なんですか・・・? 車!? この辺一帯は、全部封鎖しているはずなのに、どこから・・・・・・?」
『ジャリッ・・・』
ロバートはグレイの左手首を地面に踏みつけ、その手の甲を打ち抜く。
『ドンッ』
「あの車は俺のモノ。乗ってるのはシェリー、俺の仲間」
ロバートは悶え苦しむグレイの左手首を踏み付けたまま、ニッと笑って言う。
『ガラガラガラガラガラッ』
シェリーが乗ったジープは、砂利を踏みつけながら、2人の近くに止まる。
シェリーは助手席のドアを開けて言う。
「ゴメン! ロバート遅くなっちゃっ・・・って血ィ――!? けっ、怪我してるの!?」
シェリーはロバートの右腕の血を見て、心底驚く。
「後で何とかするからさ、ほら落ち着いてー」
「後でじゃないよ! 今だよ!」
「ヤダ。今忙しい」
2人の会話の様子を見ていたグレイが、シェリーに尋ねる。
「シェリーさん、といいましたよね・・・・・・。・・・なぜあなたは、ロバートのことをずっと忘れないのですか?」
「えっ? 私そんなこと知らな・・・・・・って、あなたも血ィ――!? あっ! ロバートに撃たれたんですね!? わっ、穴開いてる・・・・・・!! 手当てするんで、待っててくださいね!」
「はっ!? イヤちょっと・・・・・・。」
グレイは唖然とする。
シェリーはジープの方へ走り、少ししてすぐに戻ってくる。
「応急処置ですけど・・・・・・」
そう言うとシェリーは傷口を消毒したりした後、グルグルと包帯を巻く。
「これで一応は大丈夫! ・・・なはずです!」
シェリーはニッコリと笑い、すぐに立ち上がる。
グレイはいまだ唖然としたままだ。
「あの・・・・・・、まだどこか痛いんですか?」
グレイはハッとして返事をする。
「あっ・・・大丈夫ですよ。治療、どうもありがとうございます」
グレイもニコッと笑い、礼を言う。
「あの、この人達は・・・・・・」
シェリーは、その辺でうめいている装備兵を指して言う。
「あぁ、あとの者は大丈夫ですよ」
「あ・・・そうですか、それじゃ!」
「はい。さようなら」
グレイがふんわりと笑うと、シェリーはジープへと戻っていく。
「終わった? グレイの手当て。」
「うん! ・・・っていうか、止めないんだね、一応敵なのに・・・・・・」
「怪我人の手当てするのは当然でしょ? ・・・俺はしないけど」
「・・・確かに、ロバートはしないね・・・・・・」
シェリーはジープに乗り込み、バンッとドアを閉める。
ちなみに、運転席にいるのはシェリーだった。
「もう行く?」
「・・・・・・んー」
ロバートはドアを開けっ放しのまま、木にもたれて座っているグレイを見る。
いや、正確には、そのそのすぐ横に落ちているナイフだった。
「・・・・・・」
ロバートはジープから降りて、自分の血がベッタリと付いているナイフを拾い上げる。
「・・・また襲われるのは嫌だからな・・・・・・。これ、もらってくよ」
ロバートはそう言い残し、ナイフを手にぶら下げて、ジープへと歩いていく。
「・・・・・・」
グレイは無言で胸ポケットに手を入れ、無線機を取り出す。
「予備判、お願いします」
そう一言、ロバートに聞こえないように小さな声で言うと、プツリと切る。