No,14 合図は銃声
その頃、山の中、ロバートの家のすぐ側では――・・・・・・。
「相変わらず、察しのいい人ですね」
グレイは、暗闇の中では目立ちすぎるその銀髪を隠すように、今は黒いニットの帽子を被っている。
右手で、刃渡り30cmほどのサバイバルナイフを握っている。
「そろそろ、襲撃しますか? グレイ様」
グレイの隣にいた黒装束の男が尋ねる。
「No,0117は、最初から気づいてましたよ。今ごろ中では、銃撃戦に備えて色々と準備をしてると思います」
「なら、その準備が終わる前にこちらから攻め入れば・・・・・・」
「確かに準備が終われば、彼らの注意はこちらに向けられます。そうなれば、こちら側は多少不利な状況になってしまいますね」
グレイは、他人事のように話す。
「なら今すぐにでも・・・・・・」
「あ――・・・・・・。やめといたほうが良いですよ」
「なぜですか?」
黒装束の男は不思議そうに尋ねる。
「なぜって・・・No,0117に殺されるからです」
「コレでよしっ・・・と」
ロバートは外から見えないよう、窓の横に立っている。
その手には、リボルバー式のマグナムが握られており、ロバートはその安全装置をカチリと上げる。
そして左手には、サブマシンガンよりも大きなアサルトライフルが抱えられている。
持ち方を見ると、結構重さはありそうだ。
「アサルトライフルの弾は〜・・・500くらいか。マグナムは〜・・・100発あれば十分か」
ロバートは、静かに窓の外を覗く。
見ると、解りやすい人影が見えたり、家の光を反射して現れる銃の姿がハッキリと見えたりしている。
ロバートは呆れて言う。
「ホントに、あいつら俺と戦う気か・・・・・・?」
ロバートは小さくため息を吐き、そして大きく息を吸う。
「おぉ〜い!! No,0118だろぉー!!」
ロバートは外の茂みに向かって大声で叫ぶ。
「はいっ! 確かにNo,0018ですが。そんなに大声出さなくても、聞こえてますよ」
茂みの中から、グレイの返事が聞こえる。
姿は、茂みに隠したままだ。
「なんとなくは解るけど、何でずっと尾けて来たの?」
「この度、脱走した被験体達の捕獲の任務を受けたんですよ。こちらとしても、No,0117を相手にするための弾の量がとてももったいないので、おとなしく捕獲されてくれませんか?」
ロバートは、
「ん〜・・・・・・」
少し、いや、かなり考えている。
だが、一瞬ニヤリと笑う。
『ドンッ』
ロバートは右手に持っていたマグナムを一つの木に向け、撃つ。
「これが返事。意味は・・・解るよね?」
グレイは、やれやれ・・・。とため息をつく。
「やっぱり、戦って連れ帰れってことですか?」
「ん〜・・・まぁ、そうなるね」
「・・・・・・」
グレイは、無言で茂みから出てくる。
すぐ横の木には、ロバートが先程撃った弾が命中している。
「カンや腕は鈍ってないようですね」
グレイはクスリと笑う。
ロバートは、フ――・・・っと息を吐く。
「・・・また、髪伸びたな」
「そりゃそうですよ、ロバートのいない間も、ずっと伸ばしてましたから」
グレイは、肩をすくめて見せる。
「・・・久しぶり」
ロバートは、やんわりと笑う。つられて、先程まで無表情だったグレイも、やわらかく笑う。
その2人の表情は、なかなか敵にというものに見せるモノではない笑顔だった。
昔からの親友に笑いかけるような笑顔。
「グレイ様!!」
黒装束の男が叫ぶ。
グレイがハッとしてその黒装束の男を見ると、その男は茂みから立ち上がり、鬼のような形相でグレイを睨んでいる。
「グレイ様、我々の今回の任務は、その男の捕獲ではないのですか!?」
いつのまにか、グレイの顔はいつもの無表情になっていた。同時に、ロバートも。
「・・・そうでしたね。それでは今から始めましょうか」
グレイは茂みに向かって、右手を上げる。
「装備兵、標的に向かって、死なない程度に撃ってください」
グレイは凛とした声で、指示を出す。と同時に、様々な銃声が鳴り響く。
『バララララララララララララララララララッ』
『パンッパパパパパンッ』
『ドウッ・・・ドウッ・・・』
ロバートは窓の横に隠れたままだが、装備兵と呼ばれた男達は、皆、思い思いに撃ちまくっている。