No,11 忍び寄る白い影
「おっ、シェリーさん。頑張ってるね〜! ・・・・・・ん? そちらは誰さんで?」
果物屋のオヤジは、ロバートを指して言う。
ロバートは、この日何回目かのため息をついて、笑顔で答える。
「俺はシェリーと旅をしている者です。さっきやっと見つけて、手伝っているんですよ」
「おぉ、そうかい、どうもありがとさん! だが、そろそろ店閉めるから、もう終わっていいぞぉ。はいよっ、これはちょっとした礼だよ!」
そう言って果物屋のオヤジは、小さな布の袋を取り出す。
受け取ると、ジャラっと重みのある音がした。
「・・・・・・ありがとう、オヤジさん」
ロバートは少し悲しそうに、そしてとても嬉しそうに笑う。
「そろそろ行こうか、ロバート」
「・・・ん、行こうか」
ロバートは先を歩くシェリーを追い、果物屋のオヤジに背を向ける。
「旅人のロバートさんよぉ!」
あまりの声の大きさに、ロバートは驚いて振り向く。
「世界ってぇのは、とてつもなくデケェらしいぞ!俺は欠片くらいしか見たこたぁねぇが、旅を終えてその時、ここに帰ってきて、みやげ話でもしてくれや!じゃあ、元気でな〜!!」
ロバートは、とても晴れた笑顔で返事をする。
「ああ! そのときまでオヤジさんも・・・・・・親父も、元気で居ろよな!!」
果物屋の親父は、ロバートとシェリーの姿が山の中へ消えるまで、大きく手を振る。
やがてその姿が夕方の暗闇に、完全に溶け込むのをみて、大きく振りつづけていた手を止め、下に下ろす。
「いい人達、だったなぁ・・・・・・みやげ話が楽しみだな」
その影に、一人の男が忍び寄る。
「うぐっ・・・・・・!!」
急に後ろから口を塞がれ、近くの路地裏に引き込まれる。
そこにはいたいけな姿をした少年が、果物屋のオヤジと同じく、黒い装束をした男達にによって捕まっていた。
男達の黒装束は見た通り、全体的に黒色で、見方によれば学生服のような上着のジッパー部分は白いラインとなって、黒い生地に印象的に浮き上がる。
『パタンッ』
急に近くで、本を閉じる音がする。
『ガタンッ・・・カツッ、カツッ、カツッ、カツ・・・・・・』
その人物は暗がりの中で、座っていた木製の箱から立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。
「・・・どうしたんですか? 2人の捕獲は無事に終わったんですか?」
凛とした声が響くと同時に、その人物は暗がりからスッと現れる。
その姿は他の黒装束の男達と同じものではあったが、痩せ型で、立ち姿には品がある。
そしてその髪は腰にとどくほど長く、雪のような純白のその髪を、今は後ろでひとつにまとめている。
一見すれば、女性としか見えない。
「グレイ様、ただいま捕獲できました!」
『グレイ』と呼ばれた男は果物屋のオヤジを見つけると、その前まで歩いていき、片膝をついて屈み込む。
「・・・お久しぶりですね、ルーディーさん」
グレイはフフっと笑う。
『ルーディー』と呼ばれた果物屋のオヤジは苦しそうに顔を上げ、グレイの顔を睨み付ける。
「あれ? やっぱり、No,0052の名前で呼ばれるほうがいいですか?」
「うるせぇ!! 俺ぁ今はルーディーだ!! No,0052の名前は、とうの昔に捨てたんだ!!」
その言葉を聞いて、グレイは切れ長の目を細くして、ルーディーを見る。
それは無表情、というよりは、ほんの少しの悲しみを湛えているような顔にも見える。
「・・・あなたがどんな決意であの名を捨てても、実験塔は、いつまでもあの名をあなたに宛がうはずです。・・・恐らく、死ぬまで・・・・・・」
『実験塔』
その言葉を聞いた瞬間、ルーディーは何かを諦めたように下を向く。
「・・・・・・う・・・・・・」
ルーディーはハッとして、近くで倒れていた少年を見る。
グレイもつられて、そこを見る
「・・・あぁ、クラウドさん、あなたも居たんですか」