No,1 それぞれの出会い
ここは、貧しい人々が集う国、『サンタニア』。
この国では、金持ちと貧乏の差が激しく、道端で飢え死にする者が、毎日当然のようにいる。
また、治安が悪く、親のいない孤児による殺人や強盗などもよくあることだ。
金や力のある者も、その辺の孤児を拾っては売買の対象にしたり、家の中での雑用を押し付けたりしている。
そんな国、サンタニアに少し変わった、『ロバート』という青年がいた。
ある夜のこと。
「・・・・・・ということです、街までの道はわかりましたか?」
「あ、はい! どうもありがとうございました!」
街より遠く離れた山の中、ロバートの家には、『シェリー』という旅人が来ていた。
シェリーは道に迷ったため、近くにあったロバートの家を訪ねたとの事。
少し戸惑うロバートだったが、一応街までの道を正確に教えてやる。
「じゃあ、もう道に迷わないように気を付けて下さいね」
ロバートは優しく笑い、シェリーに言う。
「は〜い! 気を付けま〜す!」
そういうと、シェリーはぺこりと頭を下げ、ロバートの案内した方向に、元気良く走っていった。
「・・・ふぅ・・・・・・」
ロバートはその後ろ姿を見送ると、小さくため息をつき、玄関の端にいる貧乏そうな子供2,3人を見やる。
「どうしたの? 用があるんなら、出ておいで」
子供達は手に小さな入れ物を持ち、おずおずとロバートの前に歩み寄る。
「あ・・・あの、なにか、食べ物くれませんか・・・・・・?」
「食べ物? ちょっと待ってて」
『バタンッ』
ロバートは家の中に戻り、ドアを閉める。
子供達は小さな入れ物を持ったまま、不安な顔を見合わせる。
『ガチャッ』
ドアが開き、子供達の顔は笑顔に変わる。
中から出てきたのは、たくさんのりんごを抱えたロバートだった。
「はいっ、これ全部、君達にあげるよ」
ロバートは、りんごの入った籠を『ドンッ』と下に置く。
子供達は嬉しそうに、先程まで持っていた小さな入れ物を放り投げ、りんごの入った籠を運び出す。
ロバートの家から段々離れていく子供達は、一度振り返り、礼を言う。
「ありがとう! おにちゃん! 僕達、一生おにいちゃんの事、忘れません!」
そんな子供達を見たロバートは、少し寂しそうな顔になり、過ぎ去ろうとする子供達の背中に、小さな声で返事をする。
「どういたしまして・・・・・・俺も、君達の事忘れないよ。・・・・・・一生・・・・・・」
その声は森の中を吹く風にさらわれ、誰かの耳に届く事はなかった。
子供達の帰り道。
「あれ!? なんで僕達、こんなにたくさんのりんごを持ってるの!?」
「そういえばそうだね・・・・・・。どこかで拾ったんだっけ?」
「わかんない・・・・・・。でも、今日は運がいいかもしれない! こんなにたくさんのりんごを持っているんだから!」
「それもそうだね! 急いで、いつもの路地裏に戻ろ!」
「うん!」
「うん! 僕もう、お腹すいた!」
ロバートからりんごを貰った子供達3人は、それぞれの記憶から、ロバートの事だけが完全に消えていた。
その光景を木の陰から見ていたシェリーが、驚きを隠せないと言う様子で見ていた。
「な、なんであの子達、恩人のことを忘れてるの!? なんで!?」
そう呟くと、頭の中の疑問を振り払うように、手で抱えた頭をぶんぶんと振る。
(気のせいだ。ついさっきのことを忘れるなんて、ありえないよ)
シェリーは1つ深呼吸をして、ロバートの家があるこの山から、静かに出て行った。