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欠けたまま、もう一度  作者: 志井岳


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9/13

手紙

「ハリエットお嬢様、お手紙です」


差し出されたトレーには二通の封筒。

一通はヴィンセントから、もう一通はセリーナから。

偶然の組み合わせなのか、手が震える。


「こちらはアルディン様からお手紙と共に届きました」


ラベンダーティーだろう、ふわりと香る。


「そう、お茶の時間にいただきましょう」



ヴィンセントの手紙は想像通りの内容だった。体調の心配と社交辞令だろう、会いたいという言葉。


溜息と共にテーブルへ手紙を置き、もう一通を手にする。


セリーナからは二人で話がしたいという内容。



ヴィンセントには贈り物のお礼と体調が戻ったら連絡すると、セリーナには今日の午後でも良ければと返事を書く。



午後のお茶の時間、セリーナが来た。正直言えば会いたくない気持ちが強い。

でも、きっと彼に関することだ。自分の気持ちに答えを出すため、会わなくてはならない。

 



「こちらへどうぞ」


作り笑顔を崩さぬよう、カモミールの花壇が見えるサロンへ案内する。


「急なお手紙と訪問、ごめんなさいね。夜会の時にすごく顔色が悪かったから心配だったのよ」

「いえ、こちらこそ。ご心配をおかけしてしまい、すみません」


カモミールが風に揺れている。彼女の笑顔だけど鋭い視線から避けるように、庭に視線を逸らす。

耳元に手が触れる。けれど、そこには何もない。


「ふふ、ごめんなさいね、怖がらせているつもりはないんだけど。つい癖で、じっと見てしまうのよ」

「あ、いえ……」


返す言葉が出てこない。口にした紅茶が、いつもより苦く感じる。


「ヴィンセントとは何もないわよ。キッパリと断られたから」

「え……?」

「ごめんなさいね。あの日、ヴィンセントに言ったのよ。『私を選べば、あなたの未来は約束できるわ』ってね。

でも、昨日言われたのよ。『私は約束された未来より、迷い悩みながらでも、大切に思う人と隣り合う未来を選びます』って」


「……」


「彼はまだまだ商人としての伸び代があるわ。私が彼に教えられることはたくさんあるの。彼の将来のため、いえ、私の右腕になり得る人材として側に欲しかったんだけどね。

……本当は、少し悔しいのよ」


笑いながら彼女は言った。


「あなた達は気づいていないかも知れないけれど、空気感っていうのかしら、自然なのよね。

昔からずっと隣にいたみたいに」

「知り合ったのはつい最近なのですが……」

「もしかしたら、前世からの知り合いなのかも知れないわね」


胸がドキリと跳ねる。


「前世ですか?」

「ふふ、冗談よ。

昔読んだ物語にそんな表現があったのを思い出しただけ」

「そうなのですね。

……セリーナ様は前世って信じてますか?」


つい聞いてしまった。


「そうね、前世からの運命の相手なんて素敵よね。でも、私は覚えていない前世の縁より生きている今の縁を大事にしたいわ」


凛の記憶はないのだろう。それでも彼と出会っている。どうしても不安が襲ってくる。


「ハリエット様も今を大事になさって。思っていることはその時に言葉にしないと、伝えたい時には伝えられなくなっていることもあるわ、私みたいにね」


「セリーナ様は……、旦那様に何か伝えたかったのですか?」

「ふふ、そうね、伝えたかったことはいっぱいあるわ。もっと商会のことも聞いておけば良かったって思うし。お互い忙しくて話す時間が足りなかったから。

だから、一番伝えたかったのは、もっと休んでって言葉かしらね」


視線が空のもっと遠くを見ていた。




セリーナが帰った後、引き出しの奥にしまった小箱を取り出す。

蓋を開け、掌に載せる。彼の色。


(彼の将来を思えば、私といるよりも彼女といる方きっといい。

だけど、やっぱり離したくない……)


握り締めた掌を胸に当て、そっと開く。


「きちんと会って話さなきゃ」


イヤリングを小箱に戻す。蓋は開けたまま。



『お話をしませんか?』


短い誘いの手紙。朝になったら届けてもらう。



窓の外、そこにはないはずの信号は青に変わった。


一歩、二歩……


ゆっくりと歩き出す。


お読みいただきありがとうございます( ´ ▽ ` )

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