半年後
最終話です
「ハル、本当に行くのかい?」
「ええ。だって、態々手紙をくれたんですもの」
セリーナ様からの手紙が届いたのは先週だった。
ヴィントからシモンズ商会の会長が交代して、セリーナ様がシモンズ商会を辞めるという話は聞いていた。
理由は明かされておらず、旅に出るのだと噂されていた。
『内緒よ』と記された手紙は、読みながら固まってしまった私の手からするりと抜かれ、ヴィントの目に入ってしまった。
隣国の大商会の会長の目に留まったセリーナ様は、かなり熱心に勧誘を受けていたそうだ。
最初こそ業務提携をして、お互いの商会の利になるように動いていた。
ただ、その働きに益々惚れ込んだ会長が、熱烈にプロポーズをしたそうだ。
隣国のしかも大商会で働けると、セリーナ様は嬉々としてプロポーズを承諾、隣国に嫁ぐのだという。
読み終えたヴィントも固まっていた。
「さすがセリーナさんだ……」
「そうね……」
馬車に揺られて二時間、港町に着いた。
街中とは違う、潮の匂いが混じった空気。
カモメが青い空を背に飛んでいる。
「ハル、イヤリング間に合って良かったな」
そう言って耳元の濃い茶色のイヤリングを揺らす。
暑い日が続いた先月、川で水遊びをしていた男の子がキラキラと反射するものを見つけ、拾った。
家に持ち帰りお母さんに自慢して見せたところ、先ず子どもだけで水遊びをしたことを怒られた。
そして、帰宅したお父さんにもこっ酷く叱られた。折角見つけたキラキラも取り上げられた。
そのキラキラは、何ヶ月も前の雷が落ちた時に事故に遭ったお嬢様の物かもしれないと、お父さんの知り合いからローゼンベルグ家に出入りしている業者に連絡が周り、そして持ち主の元に無事戻った。
男の子の元には、ローゼンベルグ伯爵家とアルディン男爵家の両家から感謝の手紙と謝礼が渡された。
その中の一つの小さな箱にはお礼の手紙と、茶色く染められた紙で作られたキラキラと同じ形をした飾りが入っていた。
一部が欠けて戻ってきたイヤリングは、その欠けをデザインとして活かして欲しいという持ち主の強い希望もあり、少しだけ以前と違うデザインとなり、耳元で輝いている。
「指輪は間に合わなかったのが残念だけどね」
ネックレスに形を変えていた片方は、似たような形になるように削られた。
その時の小さな欠片をシルバーの指輪の内側に埋め込んだ物を、サイズ違いで二つオーダーした。
宝飾店の店主にもヴィントにも、こんなにシンプルなもので本当にいいのか?と何度も聞かれた。
でも、私は絶対にこれがいいのだと譲らなかった。
春香と倫人の指輪にも、内側に小さなダイヤがあったから。
「あ、タラップの所の、あの大きな帽子の女性じゃない?」
「お、本当だ。ハル、よくわかったな」
手を繋ぎ女性に近づく。
「セリーナさん」
ヴィントの声に女性は振り向き、驚いている。
「ヴィンセント……
ハリエット様、内緒だと書いたのに、話してしまったのですか?」
口調は怒っているが、目元も口元も笑っている。
「セリーナ様すみません。内容に衝撃を受けてしまいまして……
恥ずかしながら呆けてしまい、その間に読まれてしまいました」
正直に話し、頭を下げる。
「セリーナさんらしい選択です」
彼女は声をあげて笑っている。
「セリーナ!」
タラップの上からかなり年上の男性が彼女を呼んでいる。
「それじゃ、行かなきゃ。
……忘れるつもりはないわ」
船内に消えて行く後ろ姿を、見えなくなるまで見送る。
(最後の言葉…ヴィントに向かって言っていた…)
「よし、折角港町まで来たんだし、美味しい物でも探しに行きますか!」
「ふふ、そうね」
(ヴィントは気づいていない?なら、私も気にしないわ)
手を繋ぎ、その温かさを確かめる。
また胸の奥が欠けても、この温もりを思い出せば乗り越えられる。
何度でも、あなたを選ぶ。
お読みいただきありがとうございました♪( ´▽`)




