帰路
公園からの帰りの馬車の中、横並びに座る。
手はずっと握ったまま。
「明日、婚約の書類にサインしよう」
「ええ」
会話は少ない。
でも、居心地は良い。
雨に濡れた街並みがキラキラしている。
「指輪、どうする?」
「え?」
「婚約指輪。この国だと特にないけどさ、やっぱり倫人の記憶があると、な」
耳が赤くなっている。手の温かさも増している。
(こんなにわかりやすい反応をする人だったっけ?)
つい笑ってしまう。
「ふふ、ありがとう。気持ちだけで嬉しいわ」
「そうか……」
窓の外に顔を向けた横顔を見つめる。
少し垂れた瞳はあの頃と変わっていない。
「……不思議ね」
「そうだな……」
静かになる車内。離れず繋いだままの手。耳元で揺れるイヤリング。
幸せだった。
ポツ、ポツとまた雨が降り出した。
「また降り出したね」
「なんだか変な天気だわ」
先程まで街を歩いていた人たちは、商店の軒先で雨宿りをして空を見上げたり、目的地に向かい走っている。
ゴロゴロと、また雷鳴が聞こえたと同時に雨音が急に強くなる。
二人とも窓の外を見ていた。
橋を渡った先、もう目的地はすぐそこだ。
馬車は止まることなく橋を渡る。
刹那
ドドォン!バリバリバリ!
身体中に響く爆音と共に目の前でフラッシュを焚かれたような光。
同時に嘶く馬の声がした。
御者が何かを叫ぶ。
馬車が大きく揺れる。
彼が私に覆い被さる。
彼の腕の中、ギュッと強く目を閉じた。
直後、物凄い衝撃が体に走る。
体が冷たい。濡れている。
ザーザーと聞こえる雨の音と、何人もの人の怒鳴るような叫ぶような声がする。
目を開けると、目の前は彼の胸。
体を動かすと足が痛い。
体の下になっている右手の感覚が鈍い。
背中と頭に回された彼の手を退かす。力が入っていない。だらりと腕が離れる。
「ヴィント……?」
返事はない。
「ねぇ、ヴィント?」
見上げた彼の顔は真っ赤に染まっていた。
「ヴィントっ!!」
叫んだ。
誰かがその声に気付き、私を引き上げる。
「イヤァーーっ!!!」
視界が真っ暗になった。
気づいた時、私は一人、見慣れたベッドの上だった。
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