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欠けたまま、もう一度  作者: 志井岳


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13/18

帰路

公園からの帰りの馬車の中、横並びに座る。

手はずっと握ったまま。


「明日、婚約の書類にサインしよう」

「ええ」


会話は少ない。

でも、居心地は良い。


雨に濡れた街並みがキラキラしている。


「指輪、どうする?」

「え?」

「婚約指輪。この国だと特にないけどさ、やっぱり倫人の記憶があると、な」


耳が赤くなっている。手の温かさも増している。


(こんなにわかりやすい反応をする人だったっけ?)


つい笑ってしまう。


「ふふ、ありがとう。気持ちだけで嬉しいわ」

「そうか……」


窓の外に顔を向けた横顔を見つめる。

少し垂れた瞳はあの頃と変わっていない。


「……不思議ね」

「そうだな……」



静かになる車内。離れず繋いだままの手。耳元で揺れるイヤリング。


幸せだった。



ポツ、ポツとまた雨が降り出した。


「また降り出したね」

「なんだか変な天気だわ」


先程まで街を歩いていた人たちは、商店の軒先で雨宿りをして空を見上げたり、目的地に向かい走っている。


ゴロゴロと、また雷鳴が聞こえたと同時に雨音が急に強くなる。


二人とも窓の外を見ていた。


橋を渡った先、もう目的地はすぐそこだ。

馬車は止まることなく橋を渡る。



刹那



ドドォン!バリバリバリ!



身体中に響く爆音と共に目の前でフラッシュを焚かれたような光。


同時に嘶く馬の声がした。


御者が何かを叫ぶ。


馬車が大きく揺れる。


彼が私に覆い被さる。


彼の腕の中、ギュッと強く目を閉じた。


直後、物凄い衝撃が体に走る。




体が冷たい。濡れている。

ザーザーと聞こえる雨の音と、何人もの人の怒鳴るような叫ぶような声がする。


目を開けると、目の前は彼の胸。

体を動かすと足が痛い。

体の下になっている右手の感覚が鈍い。


背中と頭に回された彼の手を退かす。力が入っていない。だらりと腕が離れる。


「ヴィント……?」


返事はない。


「ねぇ、ヴィント?」


見上げた彼の顔は真っ赤に染まっていた。


「ヴィントっ!!」


叫んだ。


誰かがその声に気付き、私を引き上げる。


「イヤァーーっ!!!」



視界が真っ暗になった。



気づいた時、私は一人、見慣れたベッドの上だった。


お読みいただきありがとうございます( ´ ▽ ` )

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