記憶
※不妊に関する記述があります
大学生の頃、バイト先が一緒で仲良くなり、交際が始まった。
年上の彼が就職をしても、関係は変わらないまま。
私が就職をして三年目、記念日に夜景の綺麗な公園でプロポーズをされた。
一年後の結婚式は少人数の小さな式。バイト時代の仲間たちにも祝福され、本当に幸せだった。
結婚してから四年目、なかなか授からない命。
後から結婚した友人たちは母になっていくのに、私はまだなれないまま。
病院では特に異常は見つからなかった。ストレスを溜めないように、そう言われた。
タイミングを何回か診た後の検査、彼にも異常はなかった。
私は母にはなれないのではと、不安ばかりが募っていく。
基礎体温を毎日測り、記録をする。
行為は義務のようになっていった。
街中ですれ違う幸せそうな家族が羨ましかった。
幼い子どもが犠牲になる痛ましいニュースを見る度に、私のお腹に来れよかったのにと嘆いた。
彼の前で泣いたのは最初の頃だけ。
何も言わず、ただ眉を下げるだけだったから。
泣かなくなった。
何も言わなくなった。
彼も辛かったはず。だけど、気づけなかった。
何年も経ち、諦めるべきか迷う日々が続いた。
昇進した彼は帰りが遅くなり、付き合いでお酒を飲んで帰る日も増えた。
その頃から『凛』という名前を耳にするようになった。
凛さんはバツイチ子無しのバリキャリだそうだ。
子どもを望んだ旦那さんと仕事を選んだ凛さん。
『カッコいいよなぁ、仕事を選ぶなんてさ』
酔って帰ってきた彼が笑いながらそう呟いた。
彼はもう望んでいないのか?心にどんどんモヤがかかる。
休日、出先での着信。ディスプレイには『凛』の文字。
人混みから離れた場所で笑いながら話す彼を見て、心のモヤが広がっていく。
テーブルに置かれたスマホ、SNSのメール。
『昨日はお疲れ!また飲みに行こうね!』
チラリと見えてしまった画面。
すれ違いの生活の中、会話は減る一方。
もうダメなのかもしれない。子どもも夫婦関係も。
もう、最後にしよう。
帰ったら話をしよう。
そう心に決め、あの日、雨の降る中病院へ向かった。
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