scene7 -転校生-
ノロイダ事件の全貌。
その映像が終わった。
しばしの沈黙の後
布座が絞り出すように声を出した
「これが…ノロイダ事件…」
「て事は、このノロイダとかいう化け物のせいで何万人も不幸になったって事かよ!」
時早矢先生の顔色が悪い
「ノロイダ…あの男が私をそんな風に見てた…」
「きもちわるい…」
先生はうっと吐きそうになるのこらえる。
「わたしの恋人も、このノロイダ事件の時に亡くなった…」
「わたし、あの化け物を一生許さない!」
「大丈夫かゆみちゃん!くそっ!胸糞悪いもの見せやがって!」
「だいたい、こいつの能力がわかってたなら、なんでこいつが不幸な内に殺さなかったんだ!」
「結局は、こんなバケモノをいつまでも生きさせていたせいでこんな事件が起きたんじゃないか!」
・・ぼくは、彼らの言葉に意識が遠のく思いがした。
「な、なに言ってんだよ布座!先生!同情するべきはこのノロイダじゃないのか!?」
しかし2人は迷う事なく言った。
「・・なに言ったんだよ坂井!今の映像見てなかったのか?」
「あのバケモノが幸せなんか感じちまったせいで、たくさんの人たちが死んで!不幸になったんだぞ!」
ぼくには彼らの言ってる事がどうしても理解できなかった。
その時、反乱軍の一人が語り始めた。
「坂井くん。・・・君の言っている事は間違えている。異常だよ。」
「彼らの言葉こそが、この世界での正常な思考なんだ。」
「なぜならこのノロイダは【生涯、誰からも愛されない】という運命を持った男だったんだから。」
「醜い男が不幸になる事を望む。それがこの世界の普通。」
「誰からも愛されない運命の人間を、誰も愛さない。同情もしない。それがこの世界の正常なんだ。」
「生涯、誰からも愛されない運命?そ、そんなもの…」
「ある訳ない。と言いたいのかい?坂井くんらしくないじゃないか。」
「この世界の人口およそ80億人。その中に、誰からも愛されない運命という人間だけはいない。」
「そう思う事の方が不自然だとは思わないか?」
「それに。君ももう知っているはずだ。」
「現実に、生涯誰からも愛されないまま死んでいったという人間が山ほどいるというこの現実に。」
「そして。」
「ここに集まっている反乱軍のメンバー。」
「ぼくたちもその、誰からも愛されない運命を持った人間なんだからね。」
その男の言葉に、ギャルの様相をした少女が続ける。
「勘違いしないでほしいんだけどさー」
「わたしたち。それでもそこまで不幸な人生だとは思ってなかったんだよー」
「自分が誰からも愛されない運命だって理解してからはさ」
「恋愛以外の事で楽しんだりーそれなりに幸せだったわけ。」
「でもさ。」
「あの野郎は。あのド正義の野郎は言いやがったんだよ。」
「愛される事が人生の幸せだって。人は愛されるために生きてるんだって。」
「ふざけんなって話だよ。」
「確かにさ。世の中そんな話であふれてるよ。マンガもドラマも音楽も。愛がすべてだーって。」
「でもわたしたち解ってたからさ。愛されない人生もあるって。しょうがないって。」
「見えても見てないふりしてた。」
「でもあいつは、そんなわたしたちを殺しに来やがったんだ。」
「愛されない人生はいらない人生なんだってさ。」
「わたしたちの存在はあいつに殺された。」
「だからわたしたちもあいつを殺してやるんだ。」
「あの、ド正義を。」
さらにもう一人の男が続ける。
「このノロイダ事件ってやつさあー」
「何がムカつくって。お前ら、この事件の事知ってた?」
「知ってたとしても名前くらいなもんだよな。」
「じゃあなんでこんなでっけえ事件が歴史から埋もれたんだって話よ。」
「凄惨な事件だったから?だとすれば教訓として歴史には残るってもんよ。」
「悲しい事件だったから?だとすれば悲劇の物語として語られても良いだろ。」
「・・俺は思うんだよ。」
「この事件結局はさ。」
「誰からも愛されない男が、誰からも愛されずに死んでったっていう」
「その辺にいくらでも転がってる、物語にもならねえつまらねー事件だったからなんだよ。」
「今ちまたにあふれてる物語どもは、愛する人を守るだの愛する人の為に世界を救うだの。」
「今では世界を滅ぼす魔王ですら理由は、愛する人を失ったから~つうもんだ。」
「でもな。愛されない男が愛されなかったなんて物語はどこにも残ってねえんだよ。」
「そりゃな。愛されねえ人間に興味がある人間なんていないからな。」
「お前。坂井くん・・だっけ?お前気付いてたろ。あの電光掲示板。」
突然話を振られたぼくは、それでもその言葉の意味に気付き黙ってうなづいた。
「この学校の在籍生徒数は413人。でもあの掲示板では401人て書いてあんだろ?」
「俺たち12人は数にさえ入れられてねえって訳だ。」
「13人だよ。」
また別の少年がぼそりとつぶやいた。
「あ?そうだっけ?まあいいや。」
「でもこれはド正義のやつが悪い訳じゃない。」
「きっとやつも悪気がある訳じゃないんだ。」
「ただ、無意識に、無自覚に。そうする事が当然であるかのように」
「俺たちを”全校生徒”の中に入れて考えられないんだわ。」
「坂井くん・・は経験ないかな。」
「学校行事で教師が、委員長が言う「みんなで盛り上げよう」みたいなやつ。」
「あの”みんな”の中に、俺たち愛されない人間は入ってない。」
「女子どもが言う、「誰でも良いからカレシがほしい~」の”誰でも”の中に俺たちは入ってない。」
「愛されない人間てやつは、当然のように人間として扱われてないんだわ。」
「アフリカでは飢餓で苦しんでる人がいますとか。」
「捨てられた子犬、捕獲された野良犬の行く末とか。」
「みんなわかっていても目をそらす。罪悪感を押し隠してな。」
「でも俺たち愛されないものに対する扱いはそれよりももっとひでえ。」
「なんの罪悪感もなく、当然のように無視されて。それがこの世界の正常で普通の事なんだよ。」
にこにこしながらずっと話を聞いていた少女が、笑顔を崩さずに話す。
「わわわたし…た、たち、お、思ったの…」
「こ、このせか、せかいが、本当に」
「あああ愛される…こ、ことがし、幸せなんていう」
「せ、せか、せかいなら…」
「わわわたし…たち、そ、そんなせかい、い、いいら、いらないかな…って。」
最初の男がこくりとうなづいて続けた。
「そう、それがぼくたちの最終目標さ。」
「愛が全てだと言うこの世界の破壊。」
「そのために集まったのがぼくたち。」
「そして機も良くこのダンゲロスの開幕だ。」
「そこでまずぼくたちは、このダンゲロスの混乱に乗じて」
「この学校と、この学校のトップたる生徒会長の抹殺を始めの目的と定めた。」
「この世界の破壊の序章としてのね。」
・・彼らの目的はわかった。
彼らはとんでもない事を巻き起こそうとしている。
それはぼくにも、決して許されない事だと思える。
でも、ぼくは…
布座たちの言葉よりも、こいつらの言葉の方が理解できてしまった。
今までこの世界に対して感じていた様々な違和感。
それが、ノロイダ事件とこいつらの考えを知って。
ほとんどが腑に落ちた感覚。
「坂井くん。君がこのノロイダ事件の真相を知って感じた気持ち。」
「それこそがぼくたちの仲間になるにふさわしい資格だったんだよ。」
「ぼくたちは、ダンゲロスの歴史になぞらえてこのメンバーをこう呼んでいる。」
「転校生と。」
【転校生】
各地の魔人学園で起こるダンゲロスには
必ず第3の派閥「転校生」と名乗る集団の介入があった。
それは、魔人殲滅のために作られた秘密組織の一員だとも
どこか別の世界からやってきた異世界人だともウワサされるが・・
どの学校でも、この「転校生」の存在が
ダンゲロス終結のカギを担う事が多いという話だ。
「坂井くん。ぼくたちと共に。転校生になろう!」




