scene5 -招待状-
生徒会と番長グループの決裂。
それは瞬く間に全校生徒の間に知れ渡った。
そして、ダンゲロスの時が目前に迫っている事も
誰もが肌で感じている。
偶然かはたまたダンゲロス決行のためにわざとそうしたのか。
総番、阿観世代の退院後初登校日は冬休みに入る1日前。
3学期最終日の12月24日で確定したそうだ。
今日は3学期最終日の1日前。
とうとうその日は目前に迫ってきたのだ。
「おー。坂井。」
久しぶりにぼくに声をかけてきたのは、親友の布座だった。
「昨日部活最終日だったんだ。一緒に帰ろうぜ。」
坂井とはあれ以来声を交わす事は少なくなり
このままフェイドアウトするかのようにも思えていたので
久しぶりに一緒に歩いているこの状況が素直に嬉しい。
ぼくは、疎遠になってしまっていたせいで今まで聞けなかった事を確認する事にした。
「布座。お前さ。」
「うん?」
「ダンゲロス出るの?」
「あー。うん・・・わかんね。」
「ゆみちゃんも心配してくれててさ。」
「でも俺も一応魔人だからさ。」
「この学校には攻撃的な能力を持ってる魔人も少ないし。」
「一応俺んとこにも来たんだよ。赤紙と白紙。」
・・・赤紙とは番長グループからの呼び出し状。
番長グループが目を付けた相手の下駄箱に忍ばせ
呼びつけるための封書だ。
それは番長グループにヤキを入れられるパターンもあるし
仲間にさそう招待状のパターンもある。
白紙とは生徒会執行部から送られる各種書状だ。
たんに連絡事項の場合もあれば、
校則違反による呼び出しの場合もある。
ただ、今回はダンゲロス前という特例の状況だ。
生徒会側に付いて一緒に戦えという勧誘の書状だろう。
「そっか。・・・でもどっちも強制じゃないんだろ?」
「お前、生徒会か番長か、どっちかに命をかけるほどの事情があるのか?」
「ねえ。」
「じゃあ不参加一択じゃん。無視無視。」
良かった。布座はダンゲロスに参加する気はないようだ。
ぼくはと言えば、この学校では珍しい事に魔人ではないただの人間だ。
考えるべくもなく。ぼくには関係のない話なんだ。
しかし布座は言った。
「そういう坂井はどうなんだよ。聞いたぜ。あの話…」
布座の言葉の意味がわからず、何も考えずに開いた下駄箱の中には
・・・入っていた。ぼくの下駄箱の中に、2枚の紙が。
「・・え?」
ぼくはあまりの驚きに思考が停止した。
「坂井!それ、赤紙と白紙じゃねえか!」
「お前やっぱりあの噂本当だったのか!?」
布座の言う事がまったく理解できない。
なんで普通の人間の中でもひ弱で陰キャな普通以下の普通のぼくに
番長グループと生徒会からの招待状が届くんだ?
その時。
突然携帯電話の音が鳴り響いた。
「?俺じゃないぞ?坂井お前か?」
「いや、ぼくの携帯でもない。いったいどこから…」
その時ぼくは気付いた。
下駄箱に入っていたのは2枚の紙だけじゃない。
誰の物かもわからない携帯電話がぼくの下駄箱の中に入っていて
その携帯に着信が来てるんだ。
ぼくは恐る恐るその携帯を手に取り
通話ボタンを押した。
それはビデオ通話だった。
ビデオは真っ暗で何も映っていない。
しかし何者かが画面の奥で部屋の明かりを付けたらしい。
画面に現れたのは
全裸で手を後ろ手に縛られ、寝そべる女性の姿だった。
「ゆ、ゆみちゃん!」
布座がその映像を見て声を上げる。
電話の向こうから何者かの声がした。
「やあ。坂井くん。ご機嫌はいかがかな?」
「だ、誰だ!?番長グループの人間か!それとも生徒会…!」
「ふふふ…」
「そのどちらでもないさ。」
相手は不気味に笑いながら答える。
「これはぼくたちなりの招待状さ。」
「本当は君の一番大切な人をさらいたかったんだが…」
「さすが坂井くん。僕たちの期待を裏切らず」
「その結果が見たままのこの状況さ。」
言っている意味はわからいが一つだけわかる。
番長グループでも生徒会でもない誰かが、時早先生をさらったんだ。
招待状というよりもこれは‥脅迫だ!
「今日夕方6時。旧校舎3階のⅭ組の教室に来てくれ。」
「断ったらどうなるかは…わかるよね。」
そういい終えると電話は切れてしまった。
「クソッ!何がなんだかわかんねえ!」
布座が激高している。
「よくわからないけど、行くしかないよね。」
「俺も行くからな!裸のゆみちゃんをお前に任せて帰れるか!」
実にもっともで布座らしい言葉だ。
ぼくたちは約束の時間通りに、旧校舎3階のⅭ組の教室へと向かった。
そこにいたのは…。
明かりもつけない真っ暗な教室の中にいる複数の少年少女。
何人かは見覚えがある。けど、思い出せない。
誰もかれも暗い表情でうつむき、どんよりとした空気が室内に満ちていた。
心なしか不快な匂いまで充満しているように感じる。
いや。何人かこの場にふさわしくない様相の少女がいた。
見た目は盛りに盛った派手なギャル風のメイクで
不機嫌そうにネイルアートにいそしむ少女。
にこにことかわいらしい微笑みを浮かべこちらを見ている少女。
でも2人とも生気を感じない。
まるでそこに存在しないかのように空虚に思えた。
「ようこそ坂井くん。布座くん。」
「この3年C組へ!」
一人の男が教壇に立ちぼくたちに挨拶をする。
「てめえ!ゆみちゃんはどこだ!!」
「もしゆみちゃんに変な事をしてみろ!ぶっ殺してやるぞ!!」
布座が男に怒声を上げる。
「…君のゆみちゃんならすぐに返すさ。」
そう男が言うと、また別の男が廊下から教室に入ってくる。
裸に毛布を巻いた時早ちゃんを連れて。
「時早先生は今すぐ返す。その代わり。一つだけ話をさせてもらいたいんだ。」
男がぼくの顔を見ながらそう言う。
「君たちはいったい何者なんだ?」
「なんでぼくを…。ぼくたちをこんなところに飛び出したんだ!」
「坂井くん。ぼくの見立てでは君はこっち側の人間だからさ。」
「だから無理強いはしない。ぼくの話を聞いてもらうだけだ。」
「・・・話を聞き終えたら考えてくれるだろう。君が、ぼくたちの仲間になる事を。」
男がそう言うと
時早先生を連れてきた男が先生の手を封じていたロープをほどき始めた。
手が自由になった先生は布座の元へ駆け寄る。
「ゆみちゃん!・・・大丈夫だったか?変な事されてないか?」
布座がこれまでで一番優しさを混めた声で時早先生を受け止める。
「坂井くん。布座くん。そして時早先生。」
「君たちは知っているかい?」
「ノロイダ事件の全貌を。」
「ノロイダ事件?それって10年前に起きた、死傷者が大勢出たっていうあの事件か?」
ノロイダ事件。その言葉を聞いた時、時早先生がびくりと体を強張らせ顔を青ざめさせた。
「そう。今や名前だけしか知られていない。」
「どんな歴史にも記されていないあの事件の全貌さ。」
「君たちにはこの話を聞いて、率直な感想を答えてほしいだけなんだ。」
男が言うと、どこかからジジジという機械音が起こり
黒板に向かってまっすぐ光を照らした。
どうやらプロジェクターを回したらしい。
「これはとある筋から知った「ノロイダ事件」の全貌を」
「我々が独自に映像化したものだ。」
「さあ。刮目してくれ。」
「歴史から消された」
「ノロイダ事件の全貌を!」




