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scene3 -カウントダウン-


あの日からまた1週間が経った。

会長の演説会からは1か月も経っていないその日。

とんでもない事件が起こった。


「坂井。俺、彼女ができた!」

布座の突然のカミングアウトだ。


「・・・おめでとう。今度の子は大丈夫なのか?」

ぼくは少々驚きながらも心からの祝福を贈った。

こいつは悪い癖さえ出さなければすぐに恋人ができる。

あの言葉は決して慰めだけの嘘で放った言葉ではなかったからだ。


「ああ!今までは会話らしい会話もした事なかった子だったんだけどさ。」

「昨日、2人で恋愛観の話をしたらこれがびっくり。」

「彼女も俺と全く同じ価値観の子だったんだ!」

「それに今までは年下の1年女子ばっかだったけど今回は…」


言いかけたところで教室の扉ががらがらと開く。

入って来たのは【時早矢先生】だ。


「もー!健二!また練習遅刻!」


・・・健二?

今までは苗字で【布座くん】と呼ばれていたはずだ。


「もしかして…彼女って…」

ぼくが思わず声に出すと

時早矢先生は顔を真っ赤にしてもじもじし始める。


「もう!健二!他の人には秘密って言ったじゃない!」

・・これはさすがに衝撃だ。

まさか布座の恋人が担任の教師とは。


「ごめんごめん!でもしゃべったのは坂井にだけだぜ!」

「坂井!これ誰にも内緒だからな!」

布座は笑いながら時早先生と教室を出ていく。

先生はプリプリしているように見えて、まんざらでもなさそうだ。


「・・布座のやつ。大したタマだよ。」

僕は呆れたようにつぶやきながら教室をあとにした。


校舎の外から見上げた電光掲示板の数字は

「399/401」

この恋人未達成者の中にぼくが含まれているとすれば

今この学校の中で恋人がいないのは

ぼくと誰かもう一人だけという事だ。


「カウントダウン・・」

そんな言葉がまた頭によぎる。


そういえばもう10月も終わりだ。

あとひと月半もすれば冬休み。

冬休みには恋人たちのイベントが盛りだくさんの時期だ。

ぼくは風の冷たさに少しぶるりと震え、まっすぐ学生寮へと帰ろうとした。


「坂井くん!」

急に誰かに声をかけられぼくは驚いて立ち止まる。

背後からぼくに駆け寄ってくるその女性は

口舌院言葉(クゼツインコトハ)】さんだった。


口舌院言葉(クゼツインコトハ)】魔人コード「弱者の証言」

イケメン美女、天才秀才の集まりである生徒会の副会長を務める

生徒会の中でも屈指の美人かつ成績もよく

弓道部の主将をも務める文武両道。

まさに才色兼備。慈正心学園の通う男子、全員の憧れの的でもある。

そんな彼女が、今、ぼくの元に駆け寄って来ている。


「会えて良かった~。今日は旧校舎の方には行かないんだね?」

運上人の口舌院先輩がなんでぼくの日課を知っているんだ?


「坂井くんて男子寮だったよね。ね!途中まで一緒に帰ろ!」

微笑む顔がカワイイ。可愛すぎる。さすが「ミス慈正心」3年連続優勝のマドンナだ。

ぼくはドギマギしながらも彼女の申し出を受け入れた。


先輩は電光掲示板を見上げて言う。

「おー!もうあんなに!今やこの学校はほぼ全員恋人持ちか~。」

「で、恋人未達成のひとりが坂井くんなんだよねー。」

先輩はいたずらっ子のようなニヤニヤ顔でぼくを見る。


「ま、まあそうすね。」

なんだこの返答は。自分のコミュ力のなさが恨まれる。

「それで先輩。こんな陰キャの男と一緒に下校なんて、なんの気まぐれなんですか?」

ぼくはおちゃらけるように自虐の言葉を出してみた。


「坂井くんは陰キャなんかじゃないよ。すごく慎重でマジメなだけだよー。」

先輩はニコニコと笑いながら言ってくれる。

「それに。」

「もうひとりの恋人未達成者ってわたしだしね。」


・・え?

「いや!まさか!口舌院先輩は全男子の憧れの的だしこの学校のマドンナがそんな!」

あまりの驚きにぼくは自分でも自分が何を言っているのかわからなかった。


「坂井くんもそう思ってくれてるの?嬉しいな~。」

「嬉しいと言えば。」

「坂井くんがまだ恋人を作ってないのも、実は嬉しいんだ。」

・・・どういう事?


「いや!嬉しいというか!わたしと同じ境遇だなーっていう事で。」

「あ。でも坂井くんが恋人未達成だから言ってるって訳でもなくて!」

今度は口舌院先輩がしどろもどろになる。


「ごめんね!わたし!何言ってるんだろ!」

「あ~。。なんていうか。。」

先輩が意を決したようにぼくの目の前に立ちふさがる。

「坂井くん。前からずっと気になっていました。」

「わたしと恋人になりませんか?」


・・・完璧だ。

うるんだ瞳。紅潮した頬。背後に沈む夕日。

全てが彼女の魅力を惹き出している。完璧な愛の告白だ。

こんなもの断れる男なんている訳がない。

ぼくの返答は決まっていた。


「・・ごめんなさい。」


「え・・?」


「ぼく、そういうのにどうしても気持ちが持って行けないというか。。」

一瞬。空気がひりつく様な感覚を感じた。

「いや、だから、口舌院さんにはぼくなんかよりもっとイイ男がきっといるから。」

「そんなに焦ってぼくみたいな残り物を選ばなくても、きっともっと素敵な恋人ができると思うから!」

先輩は無表情で固まっているが、その目からはすごく恐ろし気な何かを感じる。


「だから!ごめんなさい!あ。ぼくこっちなんで!サヨナラ!」

ぼくは逃げ出すように駆け出した。

背後からの口舌院さんの刺さるような視線を感じながら。

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