表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/35

scene.31 -傷心と阿観世代とド正義と-


時は少しだけ遡り。


「傷の大小はあれど、痛みに大小なんてあるか!」

「その者が痛いと言うなれば、それがその者にとって一番の痛みなんじゃ!」


「痛いと泣くものがおれば救いたくなる!」

「それが人情というもの。」

「嬉々として人を傷付けようというきさんの行為がはなはだ腹立たしい!」


番長、阿観世代が傷心に啖呵を切り

坂井は愛玩式を背負いその場を離れた。


「うちの勉強代はちと高くつくからのう。」

「覚悟しときやw」


拳をゴキゴキと鳴らし、番長は傷心へと歩き依る。


傷心が叫ぶ。


「痛いと泣く人を救いたくなる?」

「そんなの嘘よ!」

「痛いと泣けば人はそれを笑いものにする。」

「弱みを見せれば利用され裏切られる。」

「それがこの世界よ!」

「少なくとも・・」

「少なくともわたしたち”愛されない者たち”に対しては」

「みんながそうしてきたわ!」


彼女の言葉に番長は呆れたように答える。


「まぁだ被害者ヅラかい。」

「それじゃあなにか?自分が傷ついたから人を傷つけても良い。」

「それがきさんの考えちう事か。」


傷心は負けじと叫ぶ。


「被害者ヅラ?」

「違うわ。私たちは被害者よ。」

「あなたたちの無思慮な演説で!」

「傷つき、絶望した。それが私たち!」

「そして。」

「”愛”なんて言葉でこの学校を支配しようとした」

「独善的な独裁者に反旗を翻した」

「私たち”正義”の物語。」

「それがこのダンゲロスなの!」


傷心のこの言葉に、番長は少しだけ眉をひそめた。


「・・言葉もないのお。」

「うちらは、あの演説こそが」

「この学園内の生徒に道を示し」

「迷える青少年たちに幸せへと歩む希望を与える。」

「そう信じて疑わなかった。」


「それが。きさんらをここまで追い詰める結果を招いた事。」

「・・申し訳なく感じておる。」


その言葉と同時に傷心は

番長へ向けて大きく手を伸ばす。

ズンっと周囲の空気が重くなる気配はあるが

番長は両足をしっかり地に付けたまま立ち続ける。


「嘘よ!」

「あなたには後悔も罪悪感もない。」

「わたしの【負連生苦(フラッシュバック)】を受けて立っていられるのが何よりの証拠じゃない!」


番長は何も言わず片足を少しあげる。

ずしん!と重い足取りを運び。

傷心へ1歩近づき言う。


「・・後悔なんてしとらんわ。」

「うちは今でもあの演説を正義だと信じておる・・!」


さらに1歩。傷心へ重い足を運ぶ。


「じゃがな。きさんらに対して申し訳ないと思っている事もまた確か。」

「それがうちの前進に負荷を与えてるのもまた事実。」

「・・それでも。」

「うちは前へ進むのをやめん。」

「わしが信じる正義のためなら」

「重みも痛みも乗りこなしてみせよう。」

「わしの前に立ちふさがる者はみなぶちのめしてのう!」


番長の言葉に

ヒイッ!と小さく悲鳴をあげて尻餅をつく傷心。

伸ばした手は降ろす事無く。

ありったけの負の感情を番長にあびせる。


番長は、グゥゥと少し呻きながらも歩みを止めない。

1歩ずつ。確かにその距離を詰めていく。


そこに一人の男の声。


「一理ある!」


現れたのは生徒会長ド正義だった。


「傷心くん・・だったかな。」

「我らの演説に傷ついたものの反逆。」

「愛の支配に抗う正義。」

「まこと、一理ある。」


「阿観世代くん。」

「君の信じる正義に突き進むまっすぐな気持ち。」

「その思いを妨げる者と敵対しようとも貫き通す意思。」

「敬意に値する素晴らしいものだと思う。」


「どちらも決して間違えてはいない。」

「見ようによってはどちらも正義なのだろう。」

「不運だったのは。」

「意見の対立する2人がお互いの道を妨げあってしまった事。」

「この世界は。」

「正義どうしの戦いで満ちている!」

「そして!勝った者こそが後の正義となるのだ!」


その言葉に、我に返った傷心は

片腕を番長に伸ばしたまま

残った片腕をド正義へと伸ばした。


重さと心の痛みがド正義を襲う。


「・・生徒資料で見たな。」

「傷心くん。君の能力。」

「後悔の重みと心の傷の痛みを感じさせる能力か。」


「だが。」

「生徒会の長たるぼくは」

「過去の後悔も、心の痛みも」

「もとより一つとして忘れた事はない!」

「常に!悔いを反省として背負い。傷を心に刻み。」

「己を磨くための糧としているのだからな!」


ド正義もまた、重い足をものともせずに

2人へと近づいて行く。


番長が、ド正義に声をかける。


「おう。ド正義よ。」

「こうして顔を合わせるのももうしばらくぶりの気分じゃの。」


「しかしの。」

「きさんの言い分はひとつ間違えておる。」

「勝ったものが正義?」

「違うじゃろ。」

「どっちも間違えていない正義と正義の対立。」

「なれば。」

「より、人を慮れた者の勝ちじゃ。」

「争いの相手の気持ち。自分らの大切な者たち。」

「争いに巻き込まれて傷付くものたち。」

「それらを思いやり、負けを認めた方が傷つく者が少ないとなれば相手に勝ちをゆずる。」

「それもまた正義じゃろうて。」


番長の言葉にド正義はフッと笑い答える。


「勝たなければ通らぬ正義もある。」

「それならば。相手を傷つけ、傷つけた事を心に刻み前へ進む。」

「そんな正義もあるさ。」


ド正義の言葉に、番長も優しく微笑む。


「こうしてきさんと言い合うのも」

「懐かしい気分じゃ。」


お互いに視線を交えあう2人。

そこに傷心が言葉をはさむ。


「なによ!」

「2人とも良い事を言っている風にしてるだけじゃない!」

「結局は発言力の弱い人間を言い伏せようとしているだけでしょ!」

「弱い人間が虐げられる正義なら!」

「弱い人間の正義は一生通されない!」

「相手を思いやる?そんな気持ちを持つ人がこの世界にいたら」

「この世界はこんなにも心傷つく弱者であふれかえらなかった!」


その言葉に会長が返した。


「傷ついたぞ!」


「君のその言葉に、ぼくは傷ついた。」

「あの演説についてもそうだ。」

「ぼくや、阿観世代くんが心から信じ」

「己の人生を形にした言葉に”傷ついた”等と言う」

「君のその言葉にぼくは深く傷ついた!」


言葉の意味がわからないという顔で

傷心が続いた


「そ、それじゃまるっきり立場が逆じゃない!」

「私たちが、あの演説で傷ついたという話をしてたのに!」


ド正義が返す。


「そうだ。」

「結局はお互いの傷つけあいなのだよ。」

「正しい者と正しい者が」

「お互いに正しい意見を言ってお互いに傷つけあう。」

「それが争いというものなんだ。」


「君は傷ついた傷ついたと嘆くが」

「君は自分が傷つけた相手の気持ちを慮った事はあるのか?」


「人は。」

「自分でも気が付かない内に周りの人間を傷つけ。」

「自覚のない者に傷つけられながら生きている。」

「それは争いだけの話ではない。」

「ただ生きているだけでも。」

「まして。人を愛そうというならば」

「すれ違い。間違い合い。意見をぶつけ合い。」

「傷つけ合い。そして許し合いながら人は愛し合うのだ。」


「みながみな。自分の人生があり。」

「その人生で培った己の信念があり。」

「その者の過去人生すべてを共有する事などできない。」

「だから。他人と他人が時を共有するならば」

「傷つけ合わずに事が済むなどありえない。」

「だからこそ、自分と違う価値人生を持つその者を許す。」

「理解はできずとも許す事はできる!」


ド正義の言葉に反応を示したのは番長だった。

ハッと顔を上げ、ド正義を見つめる。


「これは・・あの日の君への答えでもある。」


ド正義は番長の方を振り返る事はなかったが

それははっきりと番長に向けた言葉だった。


続けてド正義は傷心へ言葉を投げる。


「君は。」

「君が傷付けた多くの者から」

「許され、生きている事を知らなければならない!」


傷心は、返す言葉が見つからずに顔を伏せ押し黙った。


番町とド正義の体がフッと軽くなる。

傷心が自身の能力を解除したのだ。


番町はゆっくりと傷心へと近づいていく。


「ああは言うがの。」

「傷付き悲しかったというきさんの気持ちもまた事実。」

「痛みに耐えちうもんに、他人の痛みを思いやれ言うのも酷なもんじゃろうて。」


「きさんもまた何も悪くない。」

「じゃが。うちらにもゆずれん気持ちはある。」

「じゃからここは痛み分けといこうではないか。」


「きさんもそれで良かろう。ド正義よ。」


その言葉にド正義は答える。


「君がそう言うならばそれで良いさ。」

「ぼくは・・君とまたこうして話をする事。」

「それが何よりも一番の優先事項だったんだから。」


その言葉に、番長はフッと笑い答える。


「あの日の事・・じゃな。」

「ド正義よ。本当はどこまで覚えておるのじゃ?」


ド正義が答える。


「君に・・あの話をされたところまでだ。」

「その言葉を聞いたぼくは深く考え込み、そこからの意識がない。」


その言葉に番長が返した。

「そうか・・。」

「それならば。」

「今一度話そうぞ。あの日うちらの身に起きた事の全てを。」

「それが・・きさんの出した答えへの。」

「うちからの返答と思ってくれ。」


番長は、あの日の事。

会長が起こした刃傷事件の真相を

少しずつ語り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ