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scene.30 -架神と坂井-


背中が焼けるように熱い。

本物の刀で斬られたら、こんな風に痛いのかな。

あまりの激痛で立ちあがる事もできない。

そんな風にこまねいていると

いつの間にか目の前に立っていた架神先輩に

顔を蹴り上げられる。


「うわ!」声を上げて倒れこむ。

背中の痛みはだんだんおさまってきたけど

顔を蹴られた痛みと傷は本物だ。


傷は残らなくても痛みを感じる不可避の攻撃と

突破不可能な壁。

架神さんのこの能力はヤバすぎる・・。


ぼくがなんとか顔をあげ

痛む体を起き上がらせると

架神さんは冷たい目でぼくを見降ろしていた。


ぼくは痛みをこらえながら言葉をしぼり出す。

「架神先輩。あなたのように面倒見があって、優しくて」

「みんなから愛されてる方がそんな言葉を言うなんて・・」

「学園内のファンたちも驚きますよ・・。」


そう言うと奴はフンッと鼻で笑って答えた。


「確かに人にとって、”愛”というやつは得難く美しく価値ある宝石だ。」


「そんな価値ある宝石がさ。」

「普通ならば生涯にひとつふたつ手にするか」

「一生手にすることもできないような宝石が。」

「毎日毎日自分の元に届けられてきたとしたら。君ならどう思う?」


「それはたしかに美しい宝石かもしれない。」

「でも、毎日毎日毎日毎日。」

「多い日には1日に3つも4つも。」

「その宝石がむこうからやってくるんだ。望んでもいないのに。」

「君なら。」

「その中のひとつだけを選んで、大切にしようなんて思えるかい?」


「子供の頃からそうだ。」

「ぼくは物心がついた頃にはもう。」

「同年代の女も大人の女も醜く言い寄ってきた。」

「いつでもどこでも好奇の視線に晒され。」

「歪んだ女どもの欲望のために身の危険にさらされた事も数えきれない。」

「風呂に入る時もトイレに入る時も恐怖を感じながら生きている。」

「そんな人生を君は想像できるかい??」


だんだんと架神さんの語尾は強くなっていく。


「人は愛が美しいと言う。」

「会長も、愛される事が人の幸せだとおっしゃる。」

「でもぼくは。」


「ぼくにはもう。」

「無数に押し寄せる愛が重くて。それを美しいと感じる事ができないんだ・・。」


ぼくは、頭を抱えてうつむく架神さんに続いた。

「愛は宝石じゃありません。ぜんぜん違いますよ・・。」

「たしかに、モテる男のツラさ、みたいなの。」

「ぼくは考えた事もなかった。」

「そんな人生ならぼくも世界を恨んでしまっていたかもしれません。」

「でも。」

「それってたぶん・・。」

「架神先輩は”愛”だと偽って集まってきた醜い欲望に傷つけられてきただけだと思うんです。」


「ぼくも・・。架神さんと同じ考えなんです。」

「モテる男のツラさみたいなの、ぼくにはぜんぜん知らない世界だけど」

「愛が美しく価値のあるもの、みたいな気持ちがずっとわからなくて。」

「でも、世界は”愛は美しい”と言う。」

「じゃあ、きっとそれが真実なんですよ。」


「愛のまがい物が蔓延する世界で」

「本当に愛し愛される相手を見つけるのって」

「たぶんぼくたちが思っている以上に難しい。」

「架神先輩は、たくさんの異性に声をかけられて」

「たくさんの愛を受けてきたように思えてるかもだけど」

「実は本当の愛ってやつは」

「まだ誰からももらえてないじゃないかなと思うんです。」


「一目見て相手を本気で好きになる。」

「たしかに世界中のどこかではそんな事も起こり得るのかもしれない。」

「でも、たとえ本当にそうだとしても。」

「本気で好きになった相手に、その場ですぐその思いを伝えられる人なんて」

「どれだけいるでしょうか。」


「本当に好きな人に愛を伝える。」

「それって、ぼくみたいな非モテじゃなくても。」

「どんな人間にとっても、結構、人生の一大イベントだと思うんです。」

「人生で本当に数えるほどしか起きない決死の決意。」

「だとすると、本当に本気の愛の告白を受けるっていう事も」

「本来は生涯に何度あるかもわからない奇跡のような話のはずなんですよ。」

「・・愛を偽る人さえ、いなければ。」


「架神先輩。あなたはきっと。」

「人から愛される事も、人を愛する事もまだ知らない人なんだ。」


ぼくの言葉に、彼は表情ひとつ変えず答える。


「・・くだらない。」

「本当の愛?・・そんなものが、本当にこの世にあるのかな。」


架神さんがふたたび腕を振り下ろすと

ぼくの肩に激痛が走る。

「グッ・・!」声を上げそうになる。

気を失いそうになる。

でもぼくはこの人と話を続けなくちゃいけない。


「ぼくは。」

「まだ、そんな”真実の愛”みたいな大それたものはわからないけど」

「この人が、その人だったら良いなと思える子に出会いました。」

「だから、それが本当の愛になるのかどうか」

「これからゆっくりと時間をかけて考えてみたいと思うんです。」


「ゆっくり時間をかけて、ぼくのこの気持ちが”愛”なんだとそう思えたら。」

「その時はあの子にちゃんとそれを伝えたいと思っています。」

「”本当の愛”を見つけるって。」

「そういうことだと思うんですよね。」


架神さんが、イラ立ちの表情を見せた。


「時間をかけて愛を育む・・?そんな価値のある女が、本当にいるならな。」

「人は。愛とやらに裏切られ。愛のために苦しみ。愛されない事を恨みながら死んでいく!!」

「そんなもののために!人は堕落し!迷い!道を踏み誤る!!」

「愛なんて言葉!人を傷つけるだけの身勝手な欲望を、体よく言い変えてるだけのものじゃないか!!」


架神さんがぼくの頬に拳を叩きつける。

その拳に吹き飛ばされるが、ぼくは立ち上がり続けた。


「本当はそうじゃないとわかってるから」

「あなたはそんなに怒ってるんじゃないですか!?」


「たしかに、人はすれ違い傷つけ合う事もある。」

「恋が叶わず苦しみ悲しむ事もある。」

「誰もが経験していく事です。」

「それでも。」

「そんなにも苦い思いを繰り返しても」

「それでも人と人とが愛し合うという事には魅力と価値がある。」

「みんなそう思っているから。」

「どんなにつらい過去があっても」

「人を愛したいという気持ちをなくさないんです!」


「悪いのは愛じゃない!」

「愛を偽り利用しようとする人間が悪なんです!!」


架神さんは・・

その言葉に少しだけ動きを止めた。


「・・・だとしたら。」

「本当に道を踏み外していたのは・・」


そしてふたたびぼくをにらむ。


「ぼくは。」

「ぼくはもう。お前を殺すと決めたんだ!」

「ぼくの意思は他人の言葉で変えられるもんなんかじゃない!!」


架神さんは。

刀を突き刺すような構えで

その腕をまっすぐぼくの胸に伸ばした。


ぼくは次にくる”痛み”に備え

身を強張らせる。


その時。


ドゴォォォォン!!と響くあの音。

爆発の音が、ぼくらのいる教室のすぐ近くから聞こえてきた。

ぼくらのいる部屋もまた

爆発の振動で大きく揺れる。


その爆発の振動なのか。

架神さん自身の心変わりなのか。


まっすぐに伸びていたうではぼくの脇へ逸れ。

ぼくの体を痛みが突き抜ける事はなかった。


ぼくは架神さんに向けて叫ぶ。

「あの爆発は・・ナナトさんの能力!」

「あいつが、生徒会室の近くまで来ているんだ!」


架神さんは何も言わず伸ばしていた腕を降ろすと

無言で扉の方へ歩いていく。


「・・扉を塞いでいた壁は消したよ。」


「会長と番長の安否はぼくが確認してくる。」

「君は、生徒会室へ急ぎな。」


その言葉の意味が一瞬わからず

ぼくは呆然としてしまった。


「君が守りたい人がいるんだろ。」

「あの言葉。証明してみろよ。」


先輩は・・何事もなかったかのように

いつもの笑顔をぼくに向けて言う。

ぼくは呆気にとられ、黙って彼を見送る事しかできなかった。

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