scene29 -架神好美-
架神先輩に連れられて訪れたその部屋は
すっかり片付けられてがらんどうとした部屋だった。
部屋の片隅には一人の少年が倒れている。
このダンゲロスの最中で
人の倒れている姿はいやというほど見てきたけど
やっぱり見慣れる事はできない。
ぼくはその少年にちらと目をやってすぐにそらそうとした。
だけど。
その少年の顔に見覚えがあった。
あれは・・あの集会所にいた転校生の一人だ。
架神先輩はその少年には目もくれず
まっすぐ教室の中央に進み、立ち止まった。
ぼくは少年の頭上でしゃがみ彼の様子をうかがうが・・
すでにこと切れているようだった。
架神さんに問う。
「この人・・たしか転校生の人でしたよね。」
架神さんが静かに答える。
「ああ。」
「・・ぼくが殺した。」
転校生の一人を架神さんが。
ということはやっぱり・・
「やっぱりあなたは・・」
ぼくが言葉にしかけたところで架神さんが続けた。
「君が気になっていただろう答えを言うよ。」
「ぼくは・・生徒会長の腹心だ。」
「でもね。」
「ぼくが敬い、尽くしてきた会長は変わってしまったよ。」
「ほんの以前までは、正義に対して純粋で。まっすぐで。」
「真実を好み偽りを憎んでいた。」
「勤勉で努力家で現実的。それが会長だった。」
「ところが今はどうだい?」
「一人の女に・・愛とやらのためにぼくや君たちを置いていってしまった。」
「おそらく・・今のあの人は」
「生徒一同や学園よりも、愛とやらを優先するだろう。」
「実に。」
「実に嘆かわしい。」
「でもね。転校生の考えもぼくには到底理解できない。」
「自分が愛されない人生だから世界を終わらせる?」
「くだらない。」
架神さんはふうっとため息をついて続ける。
「例えばさ。この世に、美しく、価値があり、得難い宝石があるとしよう。」
「世界中の誰もがその宝石をほしがっていて。その宝石を手にする事に人生を費やす者もいる。」
「誰かが君に言うんだ。”その宝石を得る事が人の幸せだ”とね。」
「もし君が。その宝石をどうしても手に入れる事ができないって知った時。」
「君は世界を恨むかい?」
「その宝石を手にした者を殺し、世界を滅ぼそうなんて思うかい?」
「・・彼らはね。認めてしまっているんだよ。」
「愛される事が人の幸せだというのが事実だと。」
「そして愛されない人生を憎み、世界を憎み。」
「愛されない事の恨み妬みを他人に、世界に向けているだけなんだ。」
そう言い、クククと笑う架神だったが。
やがてその表情は嫌悪のものとなり吐き捨てる。
「気持ち悪い。」
そして続ける。
「ぼくは。この生徒会に席を置いてはいるが」
「本当のところ、このダンゲロスでの勝敗においては」
「生徒会も番長派も興味がないんだ。」
「そして。会長の愛がすべてだというあの演説にも共感はしていないけど」
「それにも増して転校生。愛を欲して世界を憎むその存在が。」
「無性に癪にさわるんだよ。」
「ぼくが殺したその少年。」
「なんてことない。」
「その男は、ぼくがムカついたから殺したんだ。」
「そして今さっき。」
「君と談話をしてぼくは確信したよ。」
「君もまた。ぼくがもっとも嫌うタイプの人間なんだってね。」
その言葉と同時に
架神さんはとてつもない威圧感を発する。
敵意。いや、殺意だ。
ぼくは急いで身をひるがえし
さっき入ってきたドアを開けようとする。
でも・・開かない。
というよりも、見えない壁に遮られてドアに手を触れる事ができないのだ。
架神さんが、ぼくに向けてゆっくりと腕を伸ばす。
手には何も持っていないけど、まるで剣を構えるかのようなしぐさ。
そのしぐさにいやな気配を感じたぼくは
逃げるようにドアから離れ駆け出したが
やつが腕を勢いよく振り下ろすと
ぼくの背中に衝撃が走る。
「うぁぁ!!」ぼくは思わず声をあげる。
そんなぼくを見て。
先輩は笑った。
「逃げても無駄さ。」
「だってぼくは、なにも持っていないんだから。」
背中に熱いものを感じる。
たしかにぼくは何もされていない。
でも、まるで刀で斬られたみたいに背中に激痛が走った。
「お察しの通り、ぼくは存在しない刀を振ったんだ。」
「存在しない刀だから傷は、よける事も、防ぐ事もできない。」
「だって、存在しないんだから。」
「それと、ドアは存在しない壁で塞がせてもらったよ。」
「存在しない壁は通る事も壊す事もできない。」
「当然だろ?存在しないのだから。」
「安心して良いよ。存在しない刀だから傷もつかない。」
「残るのは痛みだけさ。」
「これがぼくの魔人能力【誰も傷つかない優しい世界】さ。」




