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scene28, -不穏-


ぼくが愛玩式さんを背負って駆け出し

傷心さんと番長さんから離れていくと

少しだけ体の痛みは和らいでいく気がした。


それは愛玩式さんも同じのようで

体の震えは止まり、ぼくの首に回した腕に

気持ちばかり力をこめたように感じた。


生徒会室のある本校舎3階の廊下には

たくさんの人たちが倒れ

中にはうめき声をあげている人もいる。

おそらく、傷心さんにやられたのだろう。


おかげで、ぼくたちの行く手を遮る

暴徒はいなそうだ。

この長い渡り廊下を進むと

生徒会室はもうすぐそこだ。


門番すらも不在となった生徒会室の扉。

ぼくはハアハアと息を切らしながら

その扉を大きく開けた。


中にいたのは

生徒会長ド正義さん。

会計の・・たしか無限録さんという人と・・

転校生室でも顔を合わせた、あの、総書記架神さん。

この3人だけだった。


3人は、ものも言わず黙って

扉を開けたぼくの姿を見ている。

ぼくは、架神先輩の姿を見つけたその時から

用意していた言葉を出すことができず飲み込んでしまった。


架神さんが何故この生徒会室にいるのか。

それがもし、この人が実は生徒会派の人間であったからなのであれば

それはぼくたちにとっても都合の良い状況だ。


でももし、彼が本当に転校生派の人間で、

この生徒会室にスパイとして潜入していたとしたら。

そして、ぼくたちが転校生を裏切った事を知っていたとしたら・・。

それを今伝えてしまう事はすごくマズい気がする・・。


やがて会長が口を開く。

「またお会いしたね。坂井くん。」

「・・先ほど阿観世代くんの声が聞こえたので」

「ぼくたちはこうしてここで待っていた訳なのだが・・」


「・・現れたのは君たち。」

「君たちは今、どのような立場で、何を目的として動いているのだ?」


その言葉にぼくはハッと気が付いた。

「どのような立場で。」この言葉の意図するところ。

おそらく会長は転校生の存在を認識したのだろう。

架神さんからの情報か?

だとすれば、架神先輩はやっぱり生徒会側?

もしそうなら、ぼくがこのダンゲロスの始まる前に

転校生室に訪れていた事も会長に伝わったのだろう。


会長がぼくたちの事を警戒している様子を感じる。

それならば、ぼくたちが転校生を裏切った事を一刻も早く彼に伝えなければ。


それぞれの立場、思惑がすれ違っている感覚を感じる。

疑い合い、探り合い、警戒し合う空気。

どう答えるのが正解なのか。ぼく自身も考えがまとまらない。


ぼくは・・


「ぼくたちは・・」

「番長さんと一緒に行動し、ここまでたどり着きました。」


「そして、番長さんは今。」

「渡り廊下のむこう、本校舎3階で強敵と戦っています。」

「恐ろしい能力の使い手なので、一刻も早く手助けが必要です!」


ぼくは、今一番伝えなければならない言葉を会長に伝えた。


ぼくの意図通り。会長さんはぼくの言葉に反応を見せた。

「阿観世代くんが・・?」


会長さんはしばらく黙りこみ、何かを考えていたが

すぐに言葉を続けた。


「・・わかった。」

「その言葉の真偽がどうであろうとも。」

「君たちがどの立場の人間であったとしても。」

「阿観世代くんに危険が及んでいるという話であれば」

「ぼくに、そこに向かわないという選択肢はない。」


「阿観世代くんへの助力はぼくが向かおう。」

「架神くん。無限録くん。2人は坂井くんと共にこの部屋で待っていたまえ。」


そう言い残し会長さんは部屋を後にした。


・・番長さんの助けに彼ひとりで向かったのはおそらく

ダンゲロス前の番長さんとの関係もあるけど

それと同時に。この2人がぼくたちの監視役という事なのだろう。


でもそれで良い。

会長さんと番長さんが2人きりで合流してくれれば

あとは番長さんが彼をうまく説得してくれるだろう。


架神さんが優しい声でぼくに言葉をかける。

「そんなところで立っていないで座りなよ。」

「うしろの彼女も、少し休ませてあげた方が良さそうだ。」


ぼくは彼の言葉にうなずき

生徒会室隅の小さなソファに愛玩式さんを寝かせる。


無限録さんが、愛玩式さんの隣にそっと座り

「この子はわたしが看てるから。」とつぶやく。

それでもぼくは愛玩式さんからは離れず

愛玩式さんもぼくのシャツのそでをつまんで離さなかった。


無限録さんを警戒しながら見ていると

架神さん無限録さんの肩に手を置きぼくに向けて言う。

「安心して良いよ。この子はぼくたちの味方だから。」


その言葉は逆にぼくを不安にさせた。

「ぼくたちの味方。」この”ぼくたち”というのは

転校生の味方という事だろうか。

それとも、転校生を裏切るぼくたちの味方。

あるいは・・生徒会の味方?


少しの間。沈黙の時間が部屋の中を包む。


「それにしても。」

架神先輩がふたたび口を開いた。


「ダンゲロスが始まってからもうずいぶんと時間が経ったものだよね。」

「知ってるかい?もう、このダンゲロスへの参加者は半分を切ってるんだ。」

「こうしている間も残り人数はどんどん減っている。」


「・・そんな中で。」

「ただの人間の君がよく生き残り、ここまでたどり着いたものだね。」


架神さんが優しい目でぼくを見る。

「こんなにもボロボロになって。」

「この傷は・・あのガールフレンドを守って、とかかい?」


イタズラそうに笑う先輩にぼくも照れ臭くも答える。

「ええ・・まあそんなところです。」


「ふうん・・。」

そして先輩はぼくの耳元に口を寄せて小声で言った。

「あの子は・・君の大切な人というところかな?w」


その急な言葉にぼくはあわてて声が大きくなってしまう。

「い、いや。そういうんじゃ・・!」


「・・いえ。」

「そうかもしれないですね。」

「その・・。大切な人かどうかはまだわからないですけど。」

「ここまで一緒に行動してきて。」

「お互いの事を少しずつ分かり合ってきて。」

「今、ぼくはあの子を守りたいと」

「愛玩式さんと一緒にこのダンゲロスを生き残りたいと思っています。」


その言葉に架神さんが言葉を続ける。

「・・自分の身を呈しても、他人であるあの少女を守りたいと・・?」


架神さんの表情は見えないけど

声は優しく、ちょっとだけ笑っている。


「君がこの子と行動を共にしたのは、今日が初めてだったよね。」

「たった1日でそこまで他人を信じ、他人を思いやれるなんて」

「君はとんだお人よしなんだな。」


・・先輩がそんな事を言うのが意外で、ぼくはちょっと驚いてしまった。


「たしかに、ぼくが愛玩式さんと知り合ったのは今日が初めてです。」

「でも、短い時間でもこの子と一緒に行動して、たくさんの話をして。」

「それってもう、他人とかじゃないじゃないですか。」


「ぼくはたしかにただの人間で。」

「力も人並み以下で、他人を守ったりできるような力も持っていない。」

「でも。」

「自分と関わりを持った人。友人や、家族や、大切な人を守りたいって気持ち。」

「大切な人に傷付いてほしくない、幸せになってほしいって思うのって」

「すごく普通の気持ちじゃないですか。」


ぼくのそう言うと

愛玩式さんがつまんでいたそでに少し力がこもった気がした。

ぼくは、顔を伏せて横になっている愛玩式さんの背中を

少しだけ暖かく見つめた。


だから、ぼくは気付いていなかったんだ。

その時のぼくの言葉に

架神さんが、無表情で冷たい視線をぼくに向けていた事を。


「・・そっか。」

「すごく、ためになる話だったよ。」


架神先輩はそう言うと静かに立ち上がった。

「坂井くん。君に見せたいものがあるんだ。」

「少しだけぼくに付き合ってくれないかな?」


いつもの優しい声で、表情でぼくにそう言う。


「・・はい。わかりました。」

ぼくはシャツをつまんでいた愛玩式さんの手をそっと解き離し立ち上がった。


「・・この教室からすぐ近くの部屋さ。」

「愛玩式さんは無限録さんに任せておけば大丈夫。安心して。」


その言葉にぼくは言い知れぬ不穏な空気を感じながらも

彼の後について生徒会室を後にした。

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