scene24, -腐れ花詩音-
愛玩式さんの手を引きながら
茂みから立ち上がる。
旧校舎の方を振り返ると
3階の窓からはもくもくと黒い煙が立ち登り
あの爆発の威力を思い知らされる。
ともかく、一刻も早くこの場から立ち去ろう。
そんなふうに考えていた僕の耳に。
タッタッタと何者かが走り来る足音が聞こえてきた。
「坂井くぅーん!!待ちなさいぃぃぃ!!!」
両手に包丁を持った恐ろしい形相の少女が
まっすぐとこちらに走り向かってきていた。
【腐れ花詩音】初対面で握手をかわしたぼくに
「この手は一生洗わない」と発言しぎょっとさせたあの少女だ。
彼女の鬼気迫った表情に思わず少したじろぐ。
その刹那の瞬間に。
彼女はぼくの目の前まで迫り
迷うことなく包丁を振り下ろして来た。
その腕をとっさにつかみ。
包丁がぼくに突き刺さるギリギリで
なんとか食い止める。
彼女は振り下ろす腕にさらに力をこめながら叫ぶ。
「なんでわたしを裏切るのぉぉぉ!」
「あんなに!!愛を確かめ合ったのにぃ!!」
「この手を一生離さないって言ってくれたのにぃぃぃ!!!」
言ってない。断じて言ってない。
この子とは最初の握手と自己紹介しか、し合っていない。
「全部嘘だったの!!??」
「あんなに愛し合った日々はぁ!!!」
「全部嘘だったのぉぉぉ!!??」
ボロボロと大粒の涙をこぼしながら彼女は叫ぶ。
この子と愛し合ったなんて事実、断じてない。
愛玩式さん、「え!ほんとに!?」みたいな顔でぼくを見ないでくれ。助けてくれ。
阿鼻叫喚の状況にぼくはもうパニックだった。
「あなたも私から離れていくと言うならぁ!」
「あなたを殺すしかないじゃないぃぃ!!!」
もうずっと彼女が何を言ってるのかはわからないけど
この掴んでいる腕から力を抜けば
容赦なくこの包丁はぼくの体を突き刺さるだろう。
必死に抵抗しているが、さすが魔人。
あまりの力強さにぼくの握力にも限界が近づいていた。
もうだめかと思ったそのとき。
ドゴォォ!というすさまじい音とともに。
横から男が。吹き飛んできた。
吹き飛ばされた男は腐れ花さんの体に直撃し
彼女もろとも倒れこむ。
「おーおー坂井くん!きさん。見かけによらず罪深い男じゃのおww」
その声には聞き覚えがあった。
総番長、阿観世代さんだ。
彼女が、おそらく番長グループのメンバーだろう。
屈強な男を数人連れて現れた。
「なんぞでかい音が聞こえて、よもやと思い駆けつけてみれば。」
「なかなかに面白い光景を見させてもらったわいww」
番長はニヤニヤと笑いながらぼくたちに歩き寄って来る。
その時。番長の視線のむこう。
あの少女が、腐れ花さんがヨロヨロと立ち上がった。
「坂井くぅん。わたしは大丈夫。心配しないでぇ。」
「ちゃんと。殺してあげるからぁ。」
「あなたを愛してるからぁぁ。わたしがあなたを殺してあげるからぁぁぁ。」
擦り傷と土汚れで体を汚し、涙と鼻血でぐちゃぐちゃになった顔で
ぼくを見てへらへらと笑う彼女の気迫に、さすがの番長も冷や汗をひとつ流す。
「これは・・。ちとめんどくさそうな輩よのう。」
番長が、連れの男たちにちらと目配せをすると、彼らは無言でこくりとうなづく。
「ここは!」
「三十六計逃げるに 如 かずじゃ!」
番長のその言葉を合図に。
屈強な男たちがぼくと愛玩式さんの元に駆け寄り
それぞれぼくと愛玩式さんを肩に担ぎ走り出した。
「待ってぇぇぇ!!!坂井くぅぅぅん!!!」
腐れ花さんがぼくたちを追おうとするけど
さきほどのダメージがこたえてるのかフラリと体をよじらせて膝をつく。
「坂井くん!!あなたも!!私から離れていくのねぇぇぇ!!」
顔を押さえ崩れ落ちながら号泣する腐れ花さんの姿が
ぼくの視界から遠ざかっていく。
ひとまず・・。
あの子からは逃れる事ができたようだけど・・。
しかし場は戦場。
ダンゲロス真っただ中の校庭のど真ん中を
ぼくたちを担ぐ男たちと番長と、それを先導する番長は
堂々と突っ切っていく。
とうぜん。
ぼくたちの姿を見かけた生徒会の信徒たちは次々に声をあげていく。
「おい!番長だ!!」
「いたぞ!捕まえろ!!会長に元に連れてくんだ!!」
「いいや!殺せ!ここで今すぐに!!」
何人もの暴徒が番長に飛び掛かっていく。
しかし番長は。
そんな奴らを拳で。蹴りで。
次々に蹴散らしながらまっすくと突き進んでいく。
まるで暴走車のようなすさまじい勢いだ。
「あ!」
思わずぼくは叫んでしまった。
番長の背後から忍びより、
木材を番長頭上目掛け大きく振り上げる男の姿が
ぼくの目の入ったからだ。
「番長危ない!後ろです!!”」
ぼくの叫び声はわずかに間に合わず。
後ろを振り向いた番長の頭に勢いよく木材が叩きつけられる。
しかし。
大きな打撃音とともにへし折れたのは
木材の方だった。
頭から血を流しながらも。
番長は凛と立ったまま。ニヤリと笑った。
「効かねぇなぁ。」
「そんなヤワな痛みじゃあ。うちはちっとも感じやせんぞお。」
木材の切れ端を手に握ったままたじろぐ男の顔面ど真ん中に。
番長の拳がめり込む。
吹き飛んでいく男を見送る事もなく
番長はまたまっすぐ前を向いて走り出した。
ぼくはその一部始終を、ぽかんと見送る事しかできなかった。
そんなぼくに、ぼくを担いで走る男が言った。
「番長は大丈夫じゃ。」
「あんな木っ端程度の攻撃じゃびくともせんわい。」
「うちの番長は最強じゃ。」
「あのお方は、痛みをまったく感じないお人なんじゃからな。」




