scene23 -裏切り-
ぼくたちが旧校舎、転校生たちの集まる教室に戻ってきた時には
ぼくも愛玩式さんも疲れ果てクタクタだった。
幸運にもあの後、自分たちの身の危険に遭遇する事はなかったけど
学校内の至るところで見かける戦果の跡。
倒れる人たちを横目に見ながらの移動は精神的にくるものがある。
でも恐らく。ぼくの今日一番の難題は
今ここで訪れるだろうとぼくはもう一度気を引き締めた。
教室ではリーダーらしきあの男が待ち受けていた。
サッと教室内を見回すと、
ぼくたちがこの教室を出た時にいたはずの何人かのメンバーが見当たらない。
・・やっぱり。
ぼくが戻ってくるまで誰も動かないというあの約束は守られなかったんだな。
ぼくはリーダーの目の前に立つと、ごくりとつばを飲み込んだ。
「おかえり。坂井くん。」
「ああ。愛くんもご苦労さま。」
やつが愛玩式さんに手を差し伸ばす。
愛玩式さんは少しだけぼくの顔を見上げ、
何か言いたげな表情でぼくの横から離れていく。
リーダーの手は取らなかったが、やつの横に立つ。
「それで。君の目的は果たせたのかな?」
「生徒会長と番長の2人と会い、話をして。」
「・・ぼくらの仲間につくかどうかを考える、という話だったかな?」
やつの言葉にぼくは無言でうなずき
そしてこう答えた。
「ぼくはあの2人と、そして君と話をして」
「ぼくがこのダンゲロスを一緒に生き延びたいと思える人を見つけたよ。」
「それは・・それはきみではない!」
教室内に残っていた面々の目つきが変わり
ぼくは四方から突き刺されるような悪寒を体に感じた。
それでもぼくは続ける。
「あのノロイダ事件の映像。」
「それに対するきみたちの意見はぼくにも同意できた。」
「でも。きみたちの言葉はたしかに正しいけど。」
「なにかぼくの中に相いれないわだかまりが残っていたんだ。」
「そのわだかまりの正体が、ある人の話を聞いてわかった気がした。」
「ぼくはその人の仲間として生き延びて、このダンゲロスの結末を見届けるつもりだ。」
「だから・・」
「だからきみたちの仲間にはなれない!」
ぼくは叫ぶように言葉を振り絞った。
リーダーが静かに口を開く。
「・・それを伝えるために。」
「きみはこの教室に戻ってきたという事かい・・?」
ぼくはこくりとうなづく。
ぼく自身もバカげていると思う。
でも、この言葉はしっかりと伝えなければいけないと
ぼくは何故だかそう確信していた。
「きみの・・。きみたちのノロイダ事件への感想。」
「それはただの同調にすぎない!!」
「たしかにこの世界の当たり前がおかしいという感覚はぼくも同じだ!」
「でも、きみたちはおそらく。」
「あのノロイダの悲惨な人生に自分を投影させて」
「かわいそうな自分をないがしろにしている世界を恨んでいるだけなんじゃないのか!?」
「きみたちは自分が被害者、当事者になってるからこそこの世界をおかしいと思えてる。」
「でもそれは、ぼくの抱えてきた世界への違和感とはまた別の世界観でしかない。」
「本当に、本当の意味でこの世界に”おかしい”と思えてる」
「ぼくの気持ちを理解できそうな人は他にいたんだ!」
あきらかにリーダーの目つきが変わった。
ぼくを見損なうような。見下すような視線・・。
これは、「敵意」だ。
今すぐにこの場から逃げだしたい気持ちだけど
ぼくはどうしてももう一つだけ言わなければならない。
「愛玩式さん!」
ぼくの言葉に彼女は
驚いたような少し嬉しそうな表情をぼくに向けた。
「愛玩式さん!きみも一緒に行こう!」
「ぼくと一緒に!」
ぼくは愛玩式さんに手を差し伸ばす。
愛玩式さんがぼくに駆け寄ろうとするのを、
リーダーが腕で制した。
「・・俺たちに対しての数々の暴言暴論。」
「そのうえ俺たちの同胞をひとり連れ去ろうというのか・・。」
「俺は・・そんなお前を・・」
やつの気迫におされそうになる。
でもぼくは奴の言葉を遮り負けじと叫んだ。
「愛玩式さん!一緒に来てくれ!愛玩式さん!」
「愛くん・・もしきみが彼に付いていくなら・・」
「それがどういう事かわかるな?」
奴の言葉に彼女は怯え体を震わせる。
「愛玩式さん!」
「愛くん・・!」
戸惑い動けなくなった愛玩式さん。
ぼくは。
そんな彼女の元に駆け寄り。
彼女の手をしっかりと握り、ドアに向かって走り出した。
愛玩式さんは戸惑いながらも一緒に走ってくれる。
ぼくの背後で奴の、リーダーの声が聞こえた気がした。
「・・愛くん。きみも、ぼくたちを裏切るんだね。」
ぼくは愛玩式さんの手をしっかりと握りしめたまま
ドアにぶつかるような勢いで教室を飛び出す。
「坂井。愛くん。お前ら、2人とも・・」
教室を飛び出し、階段を目指して走り出すぼくたちの背後で
突然大きな衝撃音がした。
ドォォォン!!!という爆音と共に
教室のドア付近に大きな爆発が起き
爆風に足を取られ転びそうになる。
これが、やつの能力・・?
爆発の能力というのは本当だったんだな。
ぼくたちは必死で走った。
旧校舎を出て。
物陰に隠れるように校庭の茂みへと飛び込む。
はあはあと荒くなった呼吸が止まらない。
ふと愛玩式さんを見ると
同じように呼吸を荒げているが震えは止まったようだ。
ぼくが自分の顔を見つめている事に気付いた彼女が、
えへへっと無邪気な笑顔を見せてくれる。
「裏切っちゃったね。ナナトさんたち。」
彼女はちょっとだけ楽しそうに言う。
ぼくは彼女の笑顔に少しだけ心が癒される気持ちだったけど
その気持ちをあらためて引き締めなおす。
そう。ぼくたちはあのナナトというリーダーを裏切ってしまった。
もはやあれは。
転校生全員の居る場所で宣戦布告をしたようなものだ。
きっと奴はぼくたちを許さない。
こらからは、奴ら転校生たちは明確にぼくたちの敵として襲いかかってくるだろう。
一刻も早く。あの人と合流しなければ。
ぼくは立ち上がり、愛玩式さんに手を差し伸ばす。
「行こう!」
彼女はその手を、しっかりと握り返してくれた。
このダンゲロスを生き延びるために。
ぼくたちはここで立ち止まっているヒマはないんだ。




