scene1 -魔人学園-
あの忌まわしき事件から10年。
「ノロイダ事件」は人々の中で
その名前と、過去に世界の滅亡の危機があったという
その結末のみが記憶され。
人々の心からは当時の恐怖はすっかりと忘れ去られていた。
ところ変わり
【慈正心学園 生徒会室】
ひと組の男女の生徒が、ある生徒権限の申請へとそこに訪れていた
男女の前に立つのは、特注の白い学ランを端正に着こなし直立に立つ男。
その襟元には「生徒会長」の証となる紋章がきらりと輝く。
凛とした態度で会長は2枚の男女に差し渡す。
「これより!性交申請の相互同意確認を実行する!!」
「この紙にそれぞれ!己の性交の目的を明示せよ!」
男女がそれぞれ、受け取った紙にペンを走らせる。
会長に提出されたその紙には
元々印刷されていた「・学び ・遊び ・愛」の文字の
「遊び」に大きく〇がつけられている。
会長は2枚の紙を見ると鋭い眼光で男女に視線を向けた。
「両者合意の物と確認!」
「生徒会実行委員の名を以って!性交を申請を許諾する!!」
男女は寄り添いながら生徒会室を退室していく。
この一連のやり取りこそがこの学校「慈正心学園」の今。
そして「生徒会実行委員会」と「生徒会長」の思想を表すにふさわしいものだろう。
生徒会長【ド正義誠直 (ドセイギマッスグ)】
すべてをまっすぐ。正直に。それが彼の信念であり
彼を含め。今、慈正心学園に在籍する生徒たちは誰もが
「思春期全開」の状態なのだ。
あるものはスポーツに、あるものは恋愛に、あるものは性交に
己の存在価値を見出し、青春を謳歌している。
そしてまたここにもひとり。
「坂井~聞いてくれよ~~」
昼休みの教室。机に頬杖をぼくに泣きながら語り掛ける男。
ぼくの数少ない友人【布坐健二 (フザケンジ)】だ。
「また女に振られたか。」
ぼく【坂井平行 (サカイヒラユキ)】は軽く笑いを含み返事をする。
「俺は真剣に彼女を愛してたんだぜ!」
「だから俺は!彼女とそういう事をするのには生徒会に申請してちゃんとしたくて!」
「なのにあの子は、そこまで本気じゃないって!俺の事”重い”って言ったんだぜ!!」
半キレ半泣きで訴える布坐。
彼はサッカー部のエースを務め、一見おちゃらけてるところはあっても根はまじめ。
おまけに顔も悪くないから女子にはわりとモテるタイプのはずだ。
しかし、付き合う彼女とは毎回律儀に生徒会へ性交許可の申請へ出向き
そして毎回性交目的に「愛」と答え回答不一致の不同意とされ戻ってくる。
そんな愛すべきバカな親友だ。
「だいたいぼくたちはまだ学生だぜ。」
「そこまで未来の事を真剣に考えて恋愛してるやつなんて少ないんじゃないか?」
そんなぼくの言葉に顔を真っ赤にして反論する布坐。
「坂井!お前はまたそんな冷めた物言いしやがって!」
「俺から言わせてもらえば真剣じゃない交際なんてすべからかく汚らわしいもんだぜ!」
布坐の勢いに少し気圧され、ぼくは彼が気に入りそうな言葉を探して返答する。
「だから、たとえその時は真剣な気持ちだったとしても、お前みたいに告白速攻プロポーズとか」
「そこまでされたらさすがに重いんだって。」
「まずは長い交際期間を経て、お互いの事をよく知ってから結婚ていうのが普通なんじゃない?」
しかし布坐の熱弁は止まらない。
「俺の事を解ってくれてるから俺を愛してくれたんじゃないのか?」
「長い交際期間を過ごさないと結婚もできない程度の理解で人は人を好きになれるっていうのか?」
「俺は俺を愛してくれた人に、俺の全力の愛で返したいんだ!」
「俺なにか間違った事言ってるか!なあ坂井!!」
・・なんでこいつはまっすぐな目で「愛」と連呼できるんだろう。
思春期真っただ中とは言え恥ずかしいという気持ちはないんだろうか。
まあ、とかくこの学園は今、思春期の精神で満たされている。
あっちもこっちもいわゆる「恋話」というものに花を咲かせ
青春を謳歌している。
・・・なんて平和な学校だろう。
こんな平和な「魔人学園」は他にそうそうないだろうな。
【魔人】
それまで普通の人間として過ごして来た人々がある日突然
特殊な能力と驚異的な身体能力に覚醒したもの。
思春期の少年少女に多く、能力はそれぞれの思想や妄想に起因したものが多いと聞く。
例えば、普段、教室を占拠したテロリストを撃退する妄想をしていた少年が魔人に覚醒し
本当にプロのテロリスト集団を壊滅させたという話や
透明人間になって女子更衣室を覗きたいと妄想していた少年が
本当に透明になる能力を身に着け、性的搾取感知能力の魔人少女にボコボコにされた話など
魔人に覚醒した人たちが起こした事件は大なり小なりよく耳にする。
魔人への覚醒の条件も人によりさまざまだ。
信号が赤だったから。雨が降ってきたから。お腹がすいたから。
そんな日常のささいなきっかけで、ある日突然それは覚醒する。
妄想豊かな少年少女だけではない。
スポーツに打ち込む明るい少年、優しくおとなしい少女。
どんな人間でもある日突然。魔人へと覚醒しかねない。
そして、驚異的な身体能力と妄想を現実にする能力に覚醒した魔人は高確率で暴走する。
紙をちぎる程度のたやすさで人を物を破壊できうる力に目覚めたその高揚感に
己の力をふるいたいという欲求に、いずれ必ず飲み込まれるのだ。
だから人々は魔人を恐れた。
ほんの気まぐれで人を殺傷するほどの力を秘めた魔人を恐れ、遠ざけるため
魔人へと覚醒した少年少女は編入を余儀なくされる。
魔人を集め隔離するための学園「魔人学園」に。
・・今この国にどれだけの魔人学園があるのかをちゃんと把握している人は少ない。
何故なら、魔人学園のほぼすべてが、時を近くして壊滅するからだ。
不気味にも魔人学園はどの学園も、同じ派閥図を構成する。
学園の規律を守り、時に支配している「生徒会グループ」
その生徒会に反発する「番長グループ」
敵対し合うこの2つの派閥が、小さな火種から大きな抗争を起こし
やがて学園全体を巻き込む魔人同士の最終戦争「ダンゲロス」を引き起こす。
最終戦争「ダンゲロス」に参加した魔人はほとんどが命を落とし
そしてやがては学校自体も壊滅へと導かれる。
それが魔人学園の宿命なのかもしれない。
とは言え。
今はまだこの「慈正心学園」ではそんな予兆はかけらもない。
この慈正心学園も、各地の魔人が集まり
全校生徒563人中およそ300人。実に6割近い魔人を有する魔人学園で
ご多分に漏れず「生徒会グループ」と「魔人グループ」は存在している。
当然の如く。うちの生徒会役員たちや番長グループの大部分も魔人。
だがそもそもこの慈正心学園は
魔人の中でも人に危害を与える可能性の少ない能力者たちが集められた学校なのだ。
聞いた噂では、ダンゲロスが起きた学園から
ダンゲロスに参加せずに転入してきたという魔人も少なくないらしい。
そうなれば魔人たちは、普通の人より運動神経の良い、便利な能力を持った人たちにすぎない。
ただの人間であるぼくと親友になるほどのお人好しの布坐でさえ。一応魔人なのだ。
それに生徒会が行っている実務のメインは、この「生徒同士の色恋沙汰」の仲裁。
番町グループはいるにはいるが・・・
番町グループ総番【阿観世代沙紀 (アカンゼヨサキ)】
「ド正義ぃぃぃ!!!」
生徒会室から番町の怒声が響く。
「きさん、またいたいけなおなごにセクハラまがいの問答かましてくれたそうじゃのう!!」
生徒会長ド正義も負けじと大きな声を出しているようだ。
「セクハラとは失敬な!!」
「カップルの双方に認識の相違があれば傷つく者がいる!ぼくはそれを正しているだけだ!」
番長の怒号は続く。
「はん!認識の相違だぁ?聞いてあきれるわ!」
「おなごが自らあんたと性交がしたいですなんちゃ言える訳がなかろう!」
「おなごは黙って男に押し負けたフリをする。男はそれを解ったうえで口説いて抱いちやる。」
「それが男女ちうもんじゃないんか!!」
番長の言葉に会長が言い返す。
「だから!そんな駆け引きをする女子どもがいるから!」
「勘違いして傷つく男が後を絶たないんだろう!」
番長は呆れた声でさらに言い返す。
「はん!傷つくじゃと?きさん金玉ついとるんか!!」
「男は傷付いてなんぼじゃろうが!!」
「勘違いして恥をかいて。傷を負いながら女心を学んで。」
「そうして器量のでかい男になるんじゃろがい!」
・・と、うちの生徒会長さまと番町さまは
毎日こんな論争を繰り広げているそうだ。
とうてい、殺し合いの大抗争になんてなりそうもない。
この学園はその辺のいたって普通の学校と何も変わらない。
穏やかで平和な学園生活で、普通の青春を過ごしていくんだ。
・・少なくともこの時まで、ぼくはそう思っていた。
そんな日々がすべて覆される大事件が起こるなんて
僕はそんな事を考えもしていなかった・・。
【全校生徒集会】
その日集められたぼくたちの目には信じられない光景が映されていた。
壇上の上で。
番長グループの総番【阿観世代】の肩を抱き
身を寄せ合う生徒会長【ド正義】。
「ぼくたち!付き合う事になりました!」
会長の第一声に、えーーー!?と全生徒に驚きの声とざわめきが起きる。
「みんな!これまでは僕たち生徒会と彼女ら番長グループの仲違いにたいそうご心配をおかけした!」
「でもぼくは知ったんだ!」
「人から愛される事のすばらしさを。人を愛する事の偉大さ。深さを。」
「そして、人と人が愛し合う事の幸福を!!」
会長の演説が続く
「人と人とは確かに意見のすれ違う事も多かろう。」
「時に思想の違いから仲違いし、わかり合えない事も多いと思う。」
「だがしかし!お互いを尊重し思いやる心があれば!」
「愛し合う心があれば必ずしも同じ考えである必要はない!」
「彼女は彼女であり、ぼくはぼくなのだから。」
「そして。僕は彼女を愛した!彼女の考え方もだ!」
「仮に今後も意見の相違はあろうとも。」
「ぼくはそんな彼女を丸ごと愛する事をここに宣言する!」
‥この人は何を言っているのだろう。
全校生徒の集まる集会で、壇上に上がり惚気話か?
そんなぼくの気持ちとは裏腹に、生徒のみんなの雰囲気が少しずつ変わってきた。
みな真剣に、あるいは興奮気味に目を輝かせて壇上の2人を見ている。
「ぼくは知った!そしてみんなにも伝えたい!」
「人を愛するという事の幸せを!人から愛されるという事の幸せを!」
「人は!愛し愛されるために生きるのだ!!」
「汝!隣人を愛せよ!!」
会長の演説は最高潮だ。
もはや生徒たちの中からは歓声があがり
あるものは目をうるませながら拍手をしている。
・・なんだこれ?
少し呆れながらも、ぼくも壇上の2人の幸せを祝福しないわけではない。
なんだか学校全体が幸せムード。恋愛モードに満ちた雰囲気だ。
これは、この学園の平和がまたひとつ確約されたようなもんだな。
そんな風に考えていたぼくを含め
この場にいる誰も想像がつかなかっただろう。
大勢の生徒たちを感動させた、会長のこの言葉が。
幸せに満ちた2人の姿が
この学園に「ダンゲロス」を巻き起こす火種となり
やがて世界全体を終わらせかねない大事件へと発展する事になるなんて。




