scene12, -三勢力-
勢いよく生徒会室に飛び込んだぼくたちは
そのまま部屋の中に倒れ込んだ。
そうか。今までの不思議な現象の理由がわかったぞ。
遭遇した親衛隊たちはぼくたちを見ておびえていた訳じゃない。
きっと、ぼくたちの背後で、白黒熊さんが姿を現してやつらを威嚇してくれてたんだ。
窓のカギが急に開いたのは、糸のように細くなった白黒熊さんが、
窓の隙間から校舎に入って、中からカギを開けてくれたのだろう。
彼の能力が、それまでの不思議な現象のすべてを説明してくれる。
ふと気が付くと。
倒れこんだぼくの腕の中で
顔を真っ赤にした固まった愛玩式さんが
目を見開きぼくの顔を見ていた。
「うわぁ!ごめん!」
ぼくは大慌てで飛びあがる。
「・・君たちは。挨拶もなく部屋に飛び込んで来たとおもえば。」
「いったいなにをしてるのかね。」
生徒会使途の大きなデスクに座った生徒会長ド正義誠直 (ドセイギマッスグ)さんが
あきれた表情でぼくたちを見ていた。
「あ!ああ。失礼いたしました!」
ぼくは急いで背を正し彼に向き合った。
「ご招待をいただいておりました!2年B組坂井です!」
「会長にご面会いただきたく参りました!」
ド正義は表情なく
メガネを指でクイと押し上げて言った。
「・・ああ。知っているさ。」
「2年B組【坂井平行】くん。」
「そしてそこにいるのは同じく2年B組【愛玩式愛】くんだね。」
え?愛玩式さん同じクラスだったの?
・・少し驚いたが、ぼくは動揺を隠し直立のまま話を続けた。
転校生たちや番長にした例の話を。
そして、先刻番長にしたのと同じ質問
「生徒会長と番長の刃傷事件」の事を問い正した。
「・・君もこの慈正心学園に通う生徒。」
「生徒の質問には生徒会長として回答しよう。」
「ただし、いち生徒に答えるに相応しいところまでだ。」
「まず。あの刃傷事件については」
「何者かの謀略。」
「ぼくは冤罪をかけられれたんだ。」
「あの日、ぼくと阿観世代くんは、学生としての分をわきまえたうえでの」
「恋人どうしとしての時間を過ごしていた。」
「お互いの恋愛観などを話しつつ、それぞれ互いを尊重し」
「己を高めるすばらしい対談の時間だったと思っているよ。」
「ただ・・そこからの記憶が、ぼくにはないんだ。」
「ある瞬間からしばらくの間の記憶をぼくは失っている。」
「そして。気が付いた時にはぼくの手には血にまみれたナイフが握られていて」
「ぼくは負傷した阿観世代くんを見降ろしていた。」
「きっとぼくは何者かに操られていたんだ。」
「あるいは、何者かが彼女を刺し、そのナイフをぼくに握らせて」
「ぼくに悪漢の濡れ衣を着せようとした。」
「そうとしか考えられない。」
それまで会長の話を黙って聞いていたぼくは
そこで疑問を言葉にした。
「それならば、番長さんと話し合うべきなんじゃないですか?」
「全校生徒を巻き込むダンゲロスを黙って見過ごすなんて」
「それこそ会長らしくないじゃないですか!」
「・・言ったはずだ。ぼく自身も、この事件の真相をまだすべて把握できている訳ではない。」
「なにせ記憶を失っている訳だからね。」
「そんな状態で、我が愛する慈正心学園の生徒たちに」
「どんな言い訳をすれば良いと言うんだい?」
「記憶はないけどぼくはそんな事しません。」
「ぼくを信じてください。」
「確かに、ぼくが一言そう言えばそれを信じてくれる生徒は多いだろう。」
「・・いつもの平和な慈正心学園であったならばな。」
「しかし、ぼくが警察の事情聴取を終え、復学を迎えたその時には」
「もう。ダンゲロスの火種には取り返しのつかないほど大きく、静かに燃えていたんだ。」
ぼくは会長の言葉を納得はできなかったけど
理解はできる。
しかし、本当のもう取り返しはつかない状況なのだろうか。
「・・心配をかけてすまない。」
「だがもちろんぼくも、手をこまねきながら黙ってこのダンゲロスの時を迎えた訳じゃない。」
「あの日の事件の真相を暴き」
「このダンゲロスに平和的な終止符を打つべく手は尽くしている。」
「今はまだ。ぼくの言葉を信じて待っていてくれはしまいか?」
ぼくは・・うなづく事しかできなかった。
「わかりました。」
「・・それと、もう一つだけ会長にお聞きしたい事があります。」
「会長は、「ノロイダ事件」の全貌をご存じでしょうか。」
会長は表所を少しもくずさず
まっすぐと返答をくれた。
「ああ。あの痛ましい事件だね。」
「死者数万人。死傷者数百万人。その正確な数字は公式には伝えられていない。」
「だがしかし、今はノロイダの呪いと思わしきものは身を隠し。」
「あの悲劇的な事件は幕を閉じたと思ってよいだろう。」
「・・それが。表向きの考察だ。」
会長はメガネをクイと押し上げる。
「ではなぜ、ノロイダの呪いは消えたのか。」
「いつ?どのように?」
「そして彼の呪いは本当に、世界かから消えたのか?」
「その答えはどこにも見つける事はできなかった。」
「ぼくは、それこそがあの事件の最も恐ろしい事実だと考えているんだ。」
・・なるほど。確かに
ノロイダの呪いが今は残っていないその理由。
それは転校生も番長も触れていなかった疑問だ。
「会長のご考察。ごもっともです。・・ありがとうございました。」
ぼくはそう答えると深く礼をする。
「・・話は以上かね。」
「はい。失礼いたします。」
ぼくたちは生徒会室を後にした。
そこに範馬さんと白黒熊さんの姿はなく
新しく数名の屈強な生徒が扉の門番をしていた。
転校生。番長。そして生徒会長。
3人の話を聞いた。
それぞれに、考え方も三者三葉。
どの考え方も、正しくはないけど間違ってもいない。
その中で…
ぼくはどうしてもあの人のあの言葉が気になっていた。
この先ダンゲロスを生き残り
この抗争の結末を見て
ぼくが、ぼく自身がなにものであるかを知るそのためには
あの人とこのダンゲロスの時を共に過ごそう。
ぼくは心に強く誓った。
「ささ坂井…くん…。」
愛玩式さんがぼくの服を少しだけつまみクイクイと引っ張る。
「ふ、ふ、ふたりのは、はなし、聞いた…から。」
「やや約束…。」
彼女の言う約束とは、
ぼくのひとまずの目的を果たした事を
転校生のリーダーに伝え
そして、待ってもらっていた会長への襲撃を許す事だろう。
「・・うん。そうだね。」
「戻ろう。リーダーの元へ。」




