scene10, -対面:総番長 阿観世代-
本校舎の前に来ると、すでに殺気立った男女複数人が
木刀や野球のバット等、思い思いの凶器を手にして遠巻きににらみ合っていた。
まずは番長室。
体育館入口そば、本校舎の中でも奥まった場所にあるあの教室なら
なんとか身を隠しながらたどり着けるかもしれない。
それでも目のあたりにした迫力に少し躊躇をしてしまう。
ふと見ると、それまで何も言わず
僕からほんの少し距離を取ってついてきていた
愛玩式さんが何か妙なしぐさをしている。
自分自身の胸のあたりに両手を起き何かつぶやいている。
これは…魔人能力だ。
魔人能力【鳥籠の中の躯】
「こ、この能力で…だ、誰もわたしを、傷つけら、られない。」
「でででも、わ、わたしも…誰も傷つけられ、られなくなる…。」
少女はぼくの目を見ずにそう説明してくれた。
「へえ。条件はあるみたいだけど、なかなか便利な能力だね。」
「その能力をぼくにかけてもらう事ってできる?」
少女は何も言わずに首を何度も横に振る。
・・結局、自分の身は自分でまもらなくちゃならないって事か…。
この学校にいる魔人は、
人を傷つけるには適さない能力の持ち主がほとんどだと聞いている。
それでも身体能力は人間離れしているから本気で殴られれば
普通の人間なら一撃であの世行きだし、
なによりも「入学時の魔人能力は自己申告制」なのだ。
能力の証明は必要になるが、巧みに「自分の本当の能力」を隠して
入学している生徒も少なくないだろう。
やっぱり警戒しながら進むに越した事はないのだ。
なんとか、本格的な抗争が始まる前に番長室へたどり着いた。
都合良く、番長からも生徒会長からも「招待状」をもらっていたから
番長に会いに来るのも不自然ではないだろう。
そうは思いつつも…
”あれ”を目の当たりにしてしまうと腰がひけるのはしかたないだろう。
番町室のドアの前。
あぐらをかいて座っているだけなのにそれでも
教室をのドアのほとんどを背中で覆い隠している巨体の男。
番町グループ副番【白黒熊太山】だ。
ぼくは意を決して彼に話しかける。
「はじめまして!ご招待を受けました【坂井平行】と申します!」
「番長へのお目通りをいただきたく参りました!」
ぼくは深い礼をしながら精一杯の声を搾りだした。
白黒熊はにまりとした表情を崩さずゆっくりとこちらを見た。
「ああ。坂井くんですか。お話を聞いていますよ。」
「おや?後ろの少女はガールフレンドですかね?」
やつの言葉に一瞬ドキリとするが
「ええ、そんなところです。」
とぼくは言葉を濁した。
「・・番長は今身をお清め中でしてね。」
「少し中でお待ちいただけますか?」
そう言って白黒熊は僕らを番長室に招き入れる。
身を清める…?
そうか。ここは体育館のすぐそば。
運動部用のシャワールームって事か。
沈黙の時がおとずれる。
愛玩式さんは何もしゃべらない。
しばらくすると、いつもの学ラン風に改造したセーラー服を
きっちりと身にまとった番長【阿観世代紗希】が現れた。
・・ぼくは何を期待していたんだ。
シャワー後とは言え学校内。
それに大勢の生徒が残ってるんだ。
考えてみれば当たり前のことだった。
ふうと大きく足を開き教室内に置かれたソファに腰をかける番長。
「坂井平行。きさんのウワサはウチも聞き及んでおったぞ。」
「きさんが魔人能力を隠しちゅういうのは真のことかの??」
「・・いいえ。根も葉もないでたらめです。」
「ぼくは、普通の人間です。」
はっきり言い切ったぼくの顔を見て眉一つ動かさない番長。
むしろ、ぼくについてきた愛玩具さんがピクリとわずかな動揺を見せていた。
「ほう…。して、普通の人間のきさんがなぜ。今もまだ校内にのこっておる。」
「この学校はもうわずかな時間で地獄に化すんちうに。」
番長の当然の問いに
ぼくは転校生たちの前で
演説した内容をそのまま彼女に伝えた。
もちろん。転校生の事はうまくふせて。
「ほう。ウチと会長に聞きたい事とな。」
「おどれの命も惜しまずダンゲロスへの参加を望んだきさんの勇気に免じて」
「きさんの質問に答えてやろう。言ってみい。」
ぼくはゴクリと唾をのみ込むと続けた。
「番長さんも…やはりダンゲロスの開戦をお考えとお見受けしました。」
「・・教えてください。あの日、生徒会との対立の元となった、会長の事件。」
「あの時なにがあったのでしょうか。」
ぼくの質問に、黙って立ち上がり目をつぶり腕を組む。
「・・会長が、うちを刺した。それはまぎれもない事実だ。」
やがてぼそりとつぶやく。
「それは、間違いなく会長だったんですか?」
「よく似た偽物とか、会長自身が操られていたとかそういう事はありませんか?」
「いいや。間違いなく会長だ。会長が自分の意志でうちを刺した。」
「多くは言えないが。それだけは真偽りない事実だ。」
会長はそういうとまたどかりとソファに腰かける。
「・・わかりました。お応えしづらい事を聞いてしまったようで申し訳ありません。」
その言葉で立ち上がろうとする番長を引き止めて、ぼくはさらに続けた。
「あ、すみません!もうひとつだけお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「・・行ってみい。」
「番長さんは…「ノロイダ事件」の全貌をご存じですか?」
ほんのわずかだけ、番長の表情に動揺を見せた気がする。
「ああ。あの醜男の話か。」
「はい。番長さんは…あの出来事についてどうお考えでしょうか。」
「・・愛されぬ者が愛されず死んでいった。どこにでもある話だ。」
「その醜さゆえに少女に恐怖を感じさせていた。」
「それはノロイダの非ではなかろうが、少女も誰も悪くはない。」
「きゃつが不運な人生を生きた事も、誰を責められるものでもなかろう。」
「・・番長さんのお考えはわかりました。ありがとうございます。」
そう言ってぼくは立ち上がった。
するとその時。
また学校のチャイムが校内に鳴り響く。
そのチャイムを合図に、教室の外からはおぉぉぉーという大勢の喚声が響く。
とうとうダンゲロスが始まってしまったのだ。
「きさん。会長からも話を聞くと言うとったの。」
「きさんも気付いた通り。外はもう戦場じゃ。」
「好奇心が命を奪わないよう精々気を付けるんだな。」
番長がスックと立ち上がると、番長グループの一人が金属バッドを差し出し
それを受け取った番長はドアへの向かっていく。
「さて。本丸を潰す前の準備運動じゃ。」
「お前ら!この若いもんを丁寧に見送りいや。」
番長の手下たちが「はい!」と直立すると番長は退室してしまった。
次は生徒会長室。
本校舎の3階に位置するその教室に
ぼくたちは生きてたどり着けるのだろうか。




