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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
始章

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共同生活3

あまり眠れていないせいか、目蓋がかなり重たい。

それでも無理やり開け、おそらく朝だと思われる時間に目を覚ます。

寝ぼけた頭を覚ます為にもまず顔を洗う。

そして昨日、寝る前にベッドのそばに置いたアレクからもらった服を手に取る。

せっかくだし、今日はこれを...

姿見の前で軽く体に合わせてみる。

サイズが少し大きいような気もするけど、アレクがサイズ調整の刻印を入れてるって言ってたし、着たら自動的に調整されるのでしょう。

でも、昨日貰った服を今日いきなり着るのは少々浮かれているというか、恥ずかしいというか...

今日はいつもの服を着て、明日着るとか?

そうすれば今日アレクが「昨日あげた服は着ないのか?」みたいな事を聞いてくれるはず。

合法的にアレクがくれた服を着れるって訳。

まぁそもそも違法じゃないんだけど。

しかし、貰った服を着ないというのも失礼な話か。

…着るか。

服を脱いでベッドの上に置き、アレクから貰った服に袖を通す。

先ほどまで少し大きかったその服はピタリと私の肌に付き、ちょうどいいサイズになった。

本当にサイズが調整されたわ。

こんな刻印、私は知らない。

アレクは誰からこんなものを教わったのだろうか?

アレクが使ったと言っていた布は、今着ている服を作った時に使った高級素材。

ホワイトベアの毛皮も同様に、加工の容易さ、肌触り、そしてその希少性から高級素材として扱われている。

流石と言うべき着心地ね。

それにあの服と比べて物凄く動きやすい。

まぁ冒険者用の服がベースになってるのだし、当然か。

加えて、余った毛皮で作ったと思われるフード付きのコート。

保存魔法だけでは家の中でも少し寒いし、何より外に出た時の防寒として使える。

でもこの服、ベッドで寝るのには向いていなさそうね。

野宿には向いていそうだけど、この北の大地でそんな事したら間違いなく凍死してしまうわ。

寝る時は元の服を着る事にしましょうか。


「おーい、ルミア!まだ寝てるのか?」


私がこの服について考えている事を言い訳に、この姿をアレクに見せるのが恥ずかしくて部屋から出るのを渋っていると、彼の方から私の部屋の前へやって来た。

私が返事をせずにいると、彼は再度、ドア越しに私へ呼びかけた。


「居ないのか?入るぞ」

「あっ、ちょっと待って!」


心の準備ができる前にアレクがドアを開けて、私の姿を見てしまった。

アレクの服装もボロボロの服から、ホワイトベアの毛皮と布で作ったであろう服に変わっていた。

何と言うか、カッコいい。

私もアレクも、互いを見たまま固まった。


「…何か言いなさいよ」

「えっと、その、似合ってると思うぞ」

「…ありがと。貴方も、似合っていると思う」

「そうか…ありがとう」


少しの会話をした後、再び場が固まり、その間アレクは私をじいっと見てくる。


「何ジロジロ見てるの!」

「は!?見てないって!」

「見・て・る!不愉快よ!さっさと朝食を用意して!」


何だか恥ずかしくなったので、大きな声をだしてどうにかその空気を断ち切った。

ドア付近に立っているアレクを押し退け、部屋を出る。

大きな声を出してこの場を切り抜ける、という事に意識を割いた為、何の脈略も無く朝食を用意しろと言ってしまった。

変に思われたりしないといいのだけれど。

1階へ降りてテーブルに向かう。

すると何やらキッチンの方からいい匂いが漂ってきた。


「何よ、もう準備できてるじゃない」


私がそう呟くと、遅れて降りてきたアレクがそれに反論する。


「朝食の準備ができても部屋から出てこないから、まだ寝てるのかと思って起こしにいったんだよ!」


…起きるのが遅くてごめんなさい。

遅れてきた彼はすでにできている朝食を皿に盛りながら私に問いかける。


「なぁルミア、どうして今日に限ってこんなに部屋から出てくるのが遅かったんだ?」

「そ、それは…」


服を貰ったのがうれしくてあまり眠れなかったからとか、その服を着るかどうか迷ってたからとか、言える訳が無い。

アレクは朝食をテーブルに置き、イスに座る。


「まさか、服を貰ったのが嬉しくて眠れなかったとk__痛った!」


私はそのクソ生意気な男の頬めがけて、200年間ロクに使いもしなかった筋肉をフル活用して平手打ちをした。

結果として、それは顔の方向を少し変える程度の威力になった。

余りにも貧弱。


「黙りなさい!この自意識過剰男!」

「自意識過剰じゃねえよ!_というか、俺に対する当たりが強くなってきている気がするんだが?」

「貴方が失礼な事を言うからでしょ!?」

「失礼な事って...図星を突かれただけだろ?」

「なっ...五月蠅い!」

「ほら、これも図星」

「うっ…」


反撃の余地が無くなった所でイスに座り食事を始める。

今日の朝食は地下室で採れた野菜と、残っていた干し肉の和え物。

相変わらず質素な味付けだけれど、空腹を満たすには十分ね。


「なぁルミア、調味料はどうにかならないのか?」

「どうにかって?」

「塩と地下の野菜から作った物だけじゃ流石に飽きてしまうぞ」


飽きるって...私200年も干し肉だけで過ごしてきたし、別に支障をきたしたりはしないと思うけど...

いや、アレクがいなくなればこの毎食ちゃんとした料理が出てくる生活から、一気に干し肉生活に逆戻りしてしまう。

私はとっくに、アレクに依存してしまっているのかもしれないわね。

何とかしなければ。


「ねぇ、アレク。料理教えてくれない?」

「ルミアの中ではつながっているのかもしれないが、俺からすれば調味料の話からいきなり料理の教えを乞う話になったんだ。そうなった理由を教えてくれないか?」

「何よ、なんだっていいじゃない。面倒な男ね」

「ひど」


そのくらい察しなさいよ。

朝食を全て食べ終わり、食器類に洗浄魔法をかけて綺麗に洗う。


「それで、料理、教えてくれるの?くれないの?」

「まぁ俺が知っている範囲であれば」


「じゃあ代わりに」と言って彼の服に触れ、魔力を刻む。


「これは、保存魔法の刻印か?」


刻み終わった刻印を見て、そう言うアレク。

私は肯定し、それによって生まれるメリットを話す。


「これで、10分程度なら貴方一人でも外に出られるようになったわ。出た後は魔力の再充填が必要になるから、私に言ってね」


アレクは「了解」とだけ言って、洗浄魔法をかけ終わった食器を次々と収納していく。

料理を教えてもらう約束を取り付けた所で、私も一緒に洗った食器を片付け、キッチンへ向かう。


「どこ行くんだ?」

「野菜の貯蓄分がほとんど無くなったから、地下の畑に野菜の種を植えるの」

「へぇ、どうせやる事無いし、俺も手伝うよ」

「好きにして」


勝手についてくるアレクを後ろに、私はキッチンのそばにある階段から地下室へ向かう。


「なぁ、前から気になってたんだが、どうやって地下で野菜を育ててるんだ?」


この家の地下室は二つあり、畑はその内の一つに設置している。

設置、という言い方をしたのは、魔法で作り出したものであるからだ。

本来、この北の大地で下に掘ったところで出てくるのは雪や氷。

この家の地下に野菜を育てられるような土があるのは、私が魔法で作りだしたからだ。

はじめに掘った空間の中を熱して一定の温度まで上げてから、その空間に保存魔法をかけて温度を保つ。

そしてそこに光魔法で太陽代わりの光源を設置し野菜の種を植え、毎朝水魔法で水をやって育てている。

加えて、その野菜に成長魔法でその成長速度を10日で収穫できる程に早めている為、この極寒の地でも安定して食料を供給し、生活できるのだ。


「魔法」

「随分とざっくりだな」

「詳しく説明してもわからないでしょう?」

「確かに」


階段を全て降りて少し開けた通路の曲がり角を右に曲がり、突き当りにある畑に入った。

畑には何一つ植えられていない。

アレクがこの家に来る少し前に収穫したばかりなので、少し土壌を休ませているのだ。

彼にいくらか種を渡し植えさせる。

同様に私も彼に渡した物とは違う種類の種を植える。

他にも収穫した野菜から種を取り出したり、撒いた種に成長魔法をかけたりした。

するといつの間にか昼になっていた。

畑に設置されている時計の針が正午を指しているのを見たアレクが作業を中断し、私を連れてキッチンへ戻った。


「なぁ、さっき料理を教えてくれって言ってたよな?」

「ええ、言ったわ」

「じゃあさっそくやろうか」


アレクは食材、調理器具、今日作る予定の料理のレシピが書いてある紙を私に押し付け、少し後ろに置いてあった椅子に座った。


「これは...私一人でやれって事?」

「ああ、ルミアの技量を把握しておきたいんだ」

「え、でも私生まれてこの方料理なんてほとんどした事無いのだけれど」

「とりあえず、その紙に書いてある通りにやればいい」


「わかったわ」と返事をしてレシピを見る。


~ホワイトベアの肉と地下野菜の炒め物~


ステップ1:ホワイトベアの肉に塩を塗り5分程放置、臭みを無くす。←これはやっといた。

ステップ2:肉を包丁で切る。

ステップ3:地下野菜も切る。

ステップ4:地下野菜の方が火が通りにくいので、先に野菜から熱したフライパンに投入。

ステップ5:切った肉をフライパンに入れる。

ステップ6:肉にも火が通ったら火を止めて、野菜から作った調味料で味付け。

      完成


よし、大体分かったわ。

これだけ書いてくれているのなら、問題なく作れるでしょう、きっと。

保存箱から肉を取り出し、まな板替わりの板に置く。

えぇっと、ステップ1はアレクがしてくれているから...

ステップ2、包丁で肉を切る。

いつもアレクの作る料理に入っていた肉って、どんな切り方だったっけ?

うーん、まぁこのくらいでいいでしょう。

スープに入っていたのがこんな感じの切り方だった気がする。

ステップ3、野菜を切る。

葉野菜は適当に一口大でいいでしょ。

ステップ4、野菜を熱したフライパンに投入。

熱するって何?

フライパンは火の上に置くだけじゃないの?

...よくわからないし、火の刻印を起動してその上にフライパンを置いて、野菜を放り込むだけで良いよね?

ステップ5、切った肉をフライパンに入れる。

野菜を入れたばかりだけど、なんだか焦げそうな気がするし、もう肉も入れちゃおう。

ステップ6、味付け。

火の刻印を停止させて、野菜調味料をかけてっと...

よし、完成。


「できたわよ、アレク」


私は後ろでボーっとしていたアレクに声をかける。


「なんだ、もうできたのか。もうちょっと時間がかかると思っていたんだけどな」

「私は優秀だから、当然ね」

「じゃあ早速食べようか。ルミア、皿に盛ってテーブルに運んでくれ」


私は言われた通り料理を運び、準備が終わった所で二人同時に食べ始める。

私が一口目を口に運ぶ前に、アレクが私に話しかけた。


「なぁ、ルミア。あまりこういう事は言いたくないんだが、失敗だな、これ」

「え、どういう事?」

「食べてみればわかるさ」


フォークに突き刺していた分を口に運ぶ。

な、何これ。

アレクのと全然違う。

咀嚼した瞬間、葉野菜からあふれ出す葉っぱ感。

言うなれば、ただ温まっただけの生。

いや、肉はおいしいかもしれないし。

そう思い、肉をフォークで刺して口に運ぶ。

咀嚼。

するとどうだろうか、肉の表面は火が通っていて暖かかったが、中心は冷たく、火が通っていなかった。

レアだ...


「な?まずいだろ?」

「ええ、確かにそうだけど、私はちゃんとレシピ通りに作ったわよ?」

「まぁ俺の書き方が悪かったのもあるんだろうが、それでもルミアはレシピ通り作れてない。まず肉の切り方、この切り方はスープで煮込む時に使うんだ。炒め物でやったら当然中まで火が通らない。野菜の切り方は良かったけど、火が全然通ってない。フライパンで炒めた時間が少なすぎる」


ま、まぁこういう所も可愛げがあるというか何というか。

チャームポイントってやつ?


「料理ができるかと言われればそうでもないし、可愛げのある料理下手かと言われてもそうではない。何と言うか、一番いじりづらいやつだな」


私の心を見透かしたかのようにアレクがそう呟く。


「何もそんな言い方しなくていいじゃない」

「ヘタクソ?」

「悪化してるわよ」


まぁでも、お世辞にも上手とは言えないのも事実なのだし、否定はできない。

私の料理練習はまだまだ続きそうだ_


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