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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
終章

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ルミア3

「ルミアさん!」


皇女が地面を這いながらそう叫ぶ。

痛い。

熱い。

刺さった剣の剣身を握り、思いっきり引っ張って何とか引き抜いた。

自分の体の事だから分かる。

やっぱりこれ、呪いだなぁ。


【治癒魔法】


ダメ元で治癒魔法を使ってみたが、回復阻害の呪いよって負傷した部位に適用できなかった。

200年前、北の大陸で代替の能力を持った騎士に斬られた時とは感覚が違う。

あの時はただ痛みを感じたが今回は段々痛みとかそういった感覚が鈍っていくのを感じる。

貫かれた場所を必死に手で押さえるも、内から血が流れ出して止まらない。

これは、ダメかもな。


【保存魔法】


傷口に保存魔法を使い、何とか延命を図る。

ふとアマリアに目をやると、まだ気絶しているようだった。

良かった、こんな所見られなくて。


「ルミアさん!」


何とか立ち上がれた皇女がフラフラしながらこちらにやって来る。


「皇女様。今回は私の負け…一つ、お願いがあるのだけど、良い?」

「その前に、治療を」

「無駄、よ。回復阻害の、呪いで、多分助からない。だから_」


喋るうちに、息が絶え絶えになってきた。


「そんな事言わないでください!貴方が死んでしまったら、あの子は、アマリアは_」


もうあまり残っていない力を振り絞って、言う。


「お願い。アマリアには、わ、たしは、逃げたって、伝えて欲しいの_少なくとも、この子が、成人するまでは、黙ってて欲しいの。お願い」


言葉に伴いアマリアを抱く力が思わず強くなる。

皇女は何かを言いかけた後それをグッと堪えて、


「…分かりました」


皇女は短く、真っ直ぐな目でそう答えた。


「ぁりが、とう」


普通に喋ったつもりだったのに声が上手く出なかった。

私は少し声を張るつもりでもう一度口を開く。


「貴方、体力は_残ってる?」

「は、はい」


皇女の返事を聞いてから、私は魔法を発動する。


【術式加算 治癒魔法×3】


私はアマリア以外の皇女、カイ、騎士を対象として治癒魔法を発動した。

魔法の効果により各々の体力を消耗し、肉体の傷を再生する。

皇女とカイの肉体は回復したが、騎士に関しては擦り傷が回復したくらいで焼き切れた片腕にはあまり効果が発揮されなかった。

一気に体力を消耗したせいで息を切らしている皇女にこう言う。


「アマリアを_ぉねがい」


【飛行魔法】


抱えていたアマリアから手を離し、傷に障らないようゆっくりと飛び立ってただ真っ直ぐ北の大陸を目指す。

傷口を手で押さえながら飛行する。

ただ、意識が朦朧としてきたのに伴い、段々と魔法の維持が難しくなってきた。

私は飛行速度を今できる限界まで上げて、ひたすら真っ直ぐ、アレクと作った花畑を目指す。


私は生まれてからの20年間、親に虐げられて育った。

今思えば酷い扱いだったけど、その時の私はそれを当たり前だと思ってて、父親に捨てられて、師匠に拾われてから私の世界は広がった。

師匠にこの世の当たり前を教えてもらって、自分の身を守るすべを教えてもらいもした。

師匠との生活はとても楽しかったけど、師匠は呪いで死んでしまった。

その時の私には帝国で暮らすという選択も出来たけど、私は誰とも会う事が無さそうな北の大陸に逃げた。

…嫌だったんだ。

私と関わってくれる優しい人が、この髪を嫌う誰かに害される事が。

だからあの時アマリアが帝国に行くという選択をした時、心配する気持ちでいっぱいだったけど、それと同時に尊敬もした。

ただ帝国で過ごすんじゃなくて、アマリアはこの髪に対するイメージを変えようとしてた。

本当にすごいよ、アマリアは。

北の大陸に移り住んでから200年くらい経った頃、アレクと出会った。

正直、最初は私の思ってる事を言い当てるし、もっと栄養に良さそうな物はないかとか図々しい事言うし、ウザったかった。

だけど、その後すぐ出て行ったアレクを連れ戻して、一緒に暮らして、彼を好きになった。

この気持ちは200年経った今でも変わらない。

アレクからはいろんなものを貰った。

服、料理の知識、誰かを好きになるという幸せ…

でもある日アレクが殺されて、帝都に行って、アルシェさんに会って。

…アルシェさんが帝都を発つ日にくれた応援の言葉は今でも忘れてない。

アルシェさん、私、失敗しちゃいました。

これはアルシェさんの想定通りなのかな。

いや、流石のアルシェさんもここまで未来の事はわかんないか。

アルシェさんに会ってからは…あの皇帝に会ったんだっけ。

アレクを殺すよう命じた人物がアレクの父親で、悪人じゃないって分かった時は、辛かったな…

それから200年、ずっと魂について研究して、計画を実行した。

アルシェさんの子孫の皇帝と皇太子と皇女に会って、何よりアマリアと出会えた。

それで_


何か重い物がのしかかったように、急激に意識が沈んでいく。

気付くと私は花畑へ続く洞窟を歩いていた。

もうまともに魔法が発動できなくなり、今にも倒れそうな体を無理やり動かして花場かけを目指す。

まだ、死ねない_!

最後にやらなきゃならない事がある。

花畑の環境を操作する水晶の隣に、集めた魂を補完する水晶球を嵌める場所を作った。

魂の数は足りていない。

けど!

そこにこれを嵌める事ができれば、もしかしたら_!

洞窟を抜け、花畑に足を踏み入れた。

保存魔法は効力を失っており、私の血が生い茂るノルメラの花弁に滴り落ちる。

目蓋が眼球に張り付くような感覚が私を襲う。

今すぐにでも目を閉じて楽になりたいが、もうほとんど力の入らない足で踏ん張って、倒れそうになりながらも中央の台へ向けて歩く。

台に辿り着く頃にはほとんど目が見えていなかった。

それでも記憶をたどりに魂を保管している水晶を、発動の為の穴に嵌めた。

私の意識は、ここで途切れた。

お願い、どうか、お願い__




ふと目を覚ますと、私はノルメラが生い茂るどこかの草原に、アレクが作ってくれた服に身を包んで倒れていた。

ここは、どこ?


「大丈夫か?」


何だか懐かしい声で、目の前の誰かが私に手を差し伸べた。

その手を取って顔を見た瞬間、自然と涙が溢れた。


「うん、大丈夫。この200年間、ずっと心が温かくて、ずっと元気を失わずにいられた。これも全て貴方のおかげ。ありがとう、アレク_」

「はは、そうか。それは良かった」

「ねぇ、アレク。色々話したい事があるんだけど、聞いてくれる?」

「もちろん。色々聞かせてくれ。あ、もちろん前みたいな気になる終わらせ方は無しだぞ」


私とアレクは草原に寝そべって、居なくなってからの事を全部話した。

帝都に行った事。

アルシェさんに会った事。


「そうか、母に会ったのか」

「ええ、貴方のお母さんだとは思えないくらい綺麗な人だった」

「おい」

「冗談だって」


皇帝に契約書を書かせて、計画を実行した事。


「そうか。ありがとうな」

「…怒らないの?私、沢山の人を殺したのに」

「…もし俺とルミアが逆の立場で、ルミアが理不尽に殺されて、俺には多くの寿命があって、それを実行できるだけの力があったとしたら、俺はルミアと違う選択をする自信が無い。というよりも、ルミアと同じ選択をする自信がある。だから怒らないというよりも、怒る資格がないんだ」

「そっか」

「きっとルミアはこれから歴史書とかでボロクソに言われるだろ?だから一番身近にいる俺が感謝するんだ。ルミア、ありがとう。俺の為に行動を起こしてくれて」


アマリアという白銀の髪のエルフと一緒に暮らした事。

カイという加護無しに会った事。

ナナミラという聡明な皇女がいる事。


「そうか…俺だけじゃなかったんだな」

「そうみたいね。私の方も同じで、一定の間隔で生まれるのかもね」

「でも、ルミアの話を聞いてる感じ、心配はしてないんだろ?」

「うん、アマリアもカイと仲が良いようだったし、皇女様は白銀髪と加護無しがどういった存在か研究することで、差別問題をどうにかしようとしてるみたい」

「それも鳥を使って聞いたのか?よほどそのアマリアが心配だったんだな」

「そりゃあもちろん。あんな良い子が理不尽に曝されたりしないか、私みたいにひねくれたりしないかとても心配だった。だからといって鳥を使ってずっと監視はやりすぎたと今は思うけどね」

「ルミア、自分がひねくれてる自覚あったんだな」

「…そんなに魔法を食らいたいの?」

「ごめんて」


料理が上手くなった事。

200年後の帝国が凄かった事。

師匠と戦った事。

とにかくいっぱい話した。

時間を忘れるくらい、いっぱい。


「まだまだいっぱい言いたい事、話したい事があるけど、一番言いたい事をまだ言ってなかったから、言って良い?」

「もちろん」


太陽が沈んで花畑の空の蒼が夕日に染まり、心地の良い風が私の髪をなびかせる。





「私、貴方の事が大好き_」

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