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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
終章

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ルミア2

アマリアが展開した結界の影響で私は完全に逃げられなくなった。

加えて、戦いながら飛行魔法による滞空が可能な限界高度が下げられた。

というのも、侵入阻害結界は触れると強く弾かれる。

あまりギリギリまで結界に近づいてしまうと、空中で回避行動をとった時にうっかり結界に当たってしまって地面にたたき落とされる、なんて事になりかねないのだ。


【術式強化 風魔法 風弾】

【術式加算 防御魔法 対風魔法結界×2】


今までと何も変わらず、アマリアが放った魔法を2枚の結界で防ぐ。


「アマリア。さっきから殺傷能力の低い魔法ばかり使っているけれど、そこの騎士の片腕を奪って、もうまともに動けないダメージを負わせたのに、まだ私を止める気でいるの?そこの皇女様はもう覚悟が決まっているようだけれど」

「ええ、確かにジェイドをこんな状態にした事に怒りを覚えてはいます」

「ナナミラ様…」

「ただ、私は依然としてあなたを止める気でいますよ?あなたもですよね、カイ?」


皇女の声に合わせてカイが高度を下げた私めがけて軽々と跳躍し、剣を振るった。


【防御魔法 対物理結界】


高度が下がった分、先ほどよりも一撃の威力が上がっており、結界が砕かれてしまった。


【術式加算 炎魔法 炎槍ブレイズランス×3】


「アマリア!」

「2つはまかせて!」


【術式強化 防御魔法 対炎魔法結界】


アマリアは強化結界をカイの周りに貼り、彼は私が放った魔法の内一つを剣を振るって切り落とした。

空中でしっかりとした回避行動がとれないカイに対して魔法を放ったが、カイとアマリアの連携により全て防がれてしまった。

跳躍攻撃の後、大きな隙があるのでずっとそこを狙っているが、どうも上手く防がれる。

次の一手を考えていると、下から皇女が思考を阻害するように話しかけてくる。


「ルミアさん、さっきあなたが言っていた覚悟ですが、そんなもの私は出来ていません…あなたの能力、魔法術式を複数同時に発動できる能力はとても強力ですが、それ、魔力も3倍消費してますよね?」

「…だったら?」

「あなたが先程からポンポン使っている防御魔法。決して消費魔力量が少ない訳ではありません。私が威力の高い高難易度の魔法ばかりを使っているのは、あなたの魔力を消耗させるためです…これからの帝国は戦後で人でが足りなくなります。ちょうどあなたのせいでジェイドの片腕が吹き飛んだんです。あなたを魔力切れにして捕まえて、ジェイドの片腕分くらいは働いてもらいます_!」

「…まるで、自分たちが勝つ事が確定しているみたいな言い方ね」

「勝ちが確定しているんじゃありません。勝たないといけないんです。帝国の人々のために」


どうして?

仲間の片腕を落とされて、どうして恨むべき私を殺そうとしないの?

分からない。

皇女が術式への魔力充填を完了させ、魔法を発動する。


【風魔法 指向性竜巻】

【術式加算 防御魔法 対風魔法結界×3】


皇女の魔法を結界で防いだ。

が、前回防いだ時とは違って、結界が一枚しか割れなかった。

魔法の威力が落ちている?

いや違う。

皇女が魔力を温存したんだ。

一体何のために_


【術式強化 牽引魔法 生体牽引】


強化された牽引魔法が私に適応され、アマリアめがけてもの凄い勢いで引っ張られる。

クソっ、さっきの魔法はこれを不意打ちで当てる為の意識逸らしか_!

飛行魔法で思いっきり抵抗するも、あっという間に引きずりおろされてしまった。

早く、早く飛行魔法を再発動しないと_


【風魔法 風刃】


皇女は先ほど残した魔力で魔法を発動。

左右からカイともう動けなかったはずの騎士が剣を構え向かってくる。


【術式加算 強化魔法 部分強化 足】


私は発動速度に優れている強化魔法を使い、足を強化して後方へ跳びそれらの攻撃を回避した。

騎士はもう限界のようで、私を追いかけることなく剣を地面に突きたてそれを支えにしながら膝をついている。

もう動ける事は無いだろうが、傷口が焼けているせいで死ぬこともないだろう。

皇女の魔力も完全に0ではないもののほとんど尽き、魔法を発動する事が出来なくなった。

皇女の言っていた事は正しい。

私の術式加算はアマリアの術式強化と違い、魔力を消費する。

残り魔力量も3割を切った。

元々ホワイトベアを操るため傀儡魔法で消耗はしていたが、これは想定以上の減り方だ。

正直もう魔法をあまり使えない。

だが私と戦えるのは、カイとアマリアだけ。

充分だ。


【術式強化 風魔法 風弾】

【術式加算 強化魔法 全身強化×3】


アマリアの魔法を強化した肉体で回避し、それに合わせて接近してきたカイに視点を移す。


【岩石魔法】


私は岩石魔法を生成段階で止めてそれを腕に纏わせ、その硬度を以って剣を弾き、カイの腹部にこぶしをお見舞いした。

それを受けたカイは勢いよく吹っ飛び、クレーターの斜面に強く衝突した。

私は術式加算で強化魔法を3つ自分にかけた。

つまり、動体視力がついてこれるかは置いといて、今の私は強化魔法をかけた騎士の3倍の身体能力がある事になる。

その筋力で殴ったんだ。

無事だったとしてもかなりのダメージを与えられたはず。

よし、この間に発動に時間がかかる飛行魔法を_

何らかの気配を背後に強く感じたのですぐさま振り返り、見えた剣を岩石を纏った腕で受けた。


「どういうつもり?皇女様」


その皇女が振るった剣は先ほどの騎士が持っていた物のようだが、彼女はそれの刃では無く、側面で私を攻撃していた。


「これは呪い付きの高級品なので、この後働いてもらわなきゃいけないのにうっかり怪我させたら困るじゃないですか」

「甘いわ。貴方の先祖は多くの人の為に自身の息子だろうと1人を殺せる奴だったのに、貴方にはできないのね。そんな調子じゃ、この先困るわよ?」

「へぇ、てっきり私この場で殺されるものだと思ってましたが、この先があるんですね」

「…あの世でって意味よ」


心の、出来る事なら誰も殺さずにこの場から逃げたいという本音が、言葉の隙間から漏れてしまった。

あの騎士を牽引魔法で引っ張った時までは、誰かを殺す覚悟は出来ていた。

けど、覚悟が決まった時に殺せなかったせいで、揺らいでしまった。

ただただ相手を傷つけた現実が突き付けられた。

こんなのじゃだめだ。

ちゃんと、悪人にならないと。


【風魔法 風弾】


悪人になると決めたのに、反射で構築した魔法は殺傷能力の低い魔法だった。

それは皇女の腹部に命中し、彼女を軽く吹っ飛ばした。

しかし皇女は残った魔力を魔力欠乏で気絶する寸前まで使って強化魔法を使用していたようで、大したダメージは与えられていなようだ。

皇女に構っている間にカイが数か所に痣を作って復帰してきた。

口元には吐血したであろう跡もある。


【術式強化 凍結魔法 範囲凍結バインド


カイが飛び上がると同時にアマリアが範囲凍結を地面を這わせて展開し、私だけに命中させた。

氷で足が地面に固定されてしまった。

動けない_!

カイが勢いのまま私に剣を振り下ろす。


【術式強化 風魔法 風弾】


と同時にアマリアの魔法が私を側面から襲う。

段々アマリアの魔法の発動速度が上がってきている…?


【術式加算 防御魔法 対風魔法結界×2】


私は岩石を纏った腕でカイの剣を受けながら防御魔法を発動し、アマリアの魔法を防いだ。

ただ、足が固定されてしまった影響で足を広げ衝撃をうまく逃がす事が出来ず、今にも倒れてしまいそうだ。

強化魔法の効果ももうじき切れる。

多少強引だが仕方ない。


【風魔法 風弾】


カイの剣を受け止めながら地面に向けて風弾を放ち、自分ごと吹き飛ばして凍結から脱した。

うまく体勢を立て直して飛行魔法を再発動しようと思ったが、術式に魔力を充填するのをやめた。

今の魔法ではカイにそれほどダメージを与えられなかったようだ。

私の残存魔力量は2割を切っている。

飛行魔法の魔力消費量はそれほど大きくないが、今の私に余裕がある訳でもない。

カイには岩石魔法と強化魔法で十分対応出来ているし、飛んだ所で彼は跳んで攻撃してくる。

その後隙にはアマリアが防御魔法を使うだろうし、戦況を変えられないのなら使う意味はないだろう。


【術式加算 強化魔法 全身強化×3】


強化魔法には惜しみなく魔力を使い、次の魔法術式の準備を始める。


【術式加算 水魔法 水刃ウォーターカッター×3】


その魔法をアマリアが凍結した地面に苦戦しているカイに向けて発動する。

アマリアはまだ体が未成熟なせいで魔力量が少ないのもあるが、先ほどから仲間を守るために防御魔法を使い続けているのに加えて、この私を逃がさない結界を維持しているためもうじき魔力が尽きる。

皇女はもう魔法が使えず、拙い剣術でしか戦えない。

この場で一番脅威なのはカイだ。


【術式強化 防御魔法 対水魔法結界アンチウォーター


アマリアが2つを防ぎ、カイが残りの一つを切り落とす。

これで、アマリアの残存魔力量は魔法1発分となった。

私が次の魔法を放つ前にカイがすかさず接近してくる。

それに合わせ、強化魔法の効果が切れた皇女も重い剣をなんとか持ち上げて徐々に近づいてきている。


【岩石魔法】


私は何度も刃を受けて綻んでいた岩石を再度腕に纏い、カイの剣で受ける。


「貴方、もう立っているのも辛いでしょうに、よくやるわね」

「うるせぇ、アンタも魔力カツカツだろ。俺は魔力を感じる事が出来ないが、強化魔法と石でどうにか誤魔化してるのが良い証拠だ」

「これで十分なのよ」


強化魔法で強化した筋力を以て弾き、反対の拳を握りしめカイの腹めがけて突きだした。

カイは怪我の影響かうまく防御することができず、腹と拳の間に剣を握っていない左腕を挟んで威力を軽減した。

が、その攻撃は先ほど攻撃した場所と重なり、大きくカイを気絶させた。

体術に秀でない私でも、強化魔法を3重に重ねればある程度近接戦闘はできる。

これが分かったのは大きな収穫だ。

カイが動かなくなったのを確認して、アマリアの方を向く。


「お姉さんはやっぱり優しいよ」

「この状況で、よくそんな事が言えるわね」

「だって、気絶してトドメを刺せるはずのカイに見向きもしなかったし、私がジェイドさんを守れない位置まで動いても、もう動けないジェイドさんを攻撃する素振りもなかった…本当に止まって、諦めてくれないの?」

「貴方の方こそ諦めなさい。魔法1回分の魔力じゃ何も出来やしないわ。今逃げるなら見逃してあげるわよ」

「逃げたりなんかしない。今戦っているのは私だけじゃないから」


アマリアがそう言った瞬間、皇女が背後から剣の側面を振りかざす。

私はそれを咄嗟に岩石を纏った腕で受け、押し返す。


「私を忘れてませんか?」

「忘れてないわよ。ただ眼中にないだけ」


【風魔法 風弾】


再度剣を振るおうとしている皇女を風弾で吹き飛ばし、距離を引き離した。

想定外だったのは、皇女の強化魔法の効果が切れていたことで彼女の耐久力が低く、強く腹部に衝撃を与えたことで彼女が一時的に立てなくなる程のダメージを与えた。

あまりの衝撃に胃の中の物を吐きかけている皇女から、アマリアに視線を移す。


【術式強化 炎魔法 追尾炎槍オートブレイズランス


アマリアが残りの魔力を全て注ぎ発動する渾身の魔法。

このタイミング3重に重ねた強化魔法の効果が切れた。

アマリアの術式には追尾が仕込まれているので、今強化魔法が切れてもあまり関係ない。


【水魔法 流水圧線ウォータープレッシャー


私は防御魔法で防ぐよりも魔法の相性で相殺した方が消費魔力量が少ないと判断し、炎魔法と好相性の水魔法を選択した。

互いに魔法術式を展開し、その発動を待つ。


「お姉さん、ごめんなさい」

「どうして謝るの?」

「私がもっと強かったら、私にもっと力があれば、お姉さんを止めてあげられたかもしれないのに」

「そう。ならその思いを糧に今後も励みなさい。それがいつかきっと貴方の役に立つわ」

「ははは…お姉さん、やっぱり悪者向いてないよ」


アマリアはその言葉を言い終わると、展開してある魔法を発動した。

私もそれに反応して発動する。

アマリアの炎槍が発射され、私の流水圧線が衝突した。

それは大量の水蒸気を辺りにまき散らしながら相殺し、魔法効果を終了した。

それと同時にアマリアが魔力欠乏によって気絶してその場に倒れ、周囲を覆っていた侵入阻害結界が崩壊する。

水蒸気が立ち込める中、育ちのいい皇女様にとってダメージを負う事は相当辛いはずなのに、今だ諦めず剣を構えるナナミラ・イル・サイルの方に振り返る。


「もう貴方だけになってしまったわね」

「ええ、そうですね。でも、諦めるわけにはいきません」


皇女が剣を両手で持ち、こちらに切っ先を向ける。

ただ、その佇まいはもう彼女が限界である事を示している。

皇女が前へ一歩踏み出し、私は魔法術式を組む。

が、彼女の体は今までに経験したことの無い酷使、負った事のないダメージにより、もう皇女の意思について行く事が出来なくなっていた。

剣の間合いまで後一歩という所で皇女の足がもつれ、前へと倒れる。

手からも力が抜けて、剣は切っ先を向けたまま私めがけてふわりと飛んできた。

私は咄嗟にもう剥がれかけの岩石の腕でそれを思いっきり力を入れて弾く。

するとそれは回転しながら宙を舞い、偶然にも気絶しているアマリアの方へ飛んでしまった。


頭で考えるよりも先に体が動いた。

後悔はしていない。

大量虐殺の罪を今更1人を救った所で償える訳じゃないけど、この1つの命は私にとってアレクと同じくらい大切な命だ。

…アマリアの言う通りだ。

私、悪者向いてないなぁ_


気絶しているアマリアに覆いかぶさるようにして抱えた私の腹部を、悪意の無い剣が貫いた。

アレクも、こんな気持ちだったのかな_

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