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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
終章

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43/47

皇女と魔女

時は少し遡り、サイル帝国とアイゼルド王国との戦争が開戦した直後。

ルミアは帝国から10万の魂を奪うために変異させたホワイトベアとスノーラビットを帝国北西部の森に移していた。

移せる数にも限界があるので、とりあえず合計2000体移した所でその作業を終了した。

その後、前とは違う北の森の小屋で一休みし、使いの鳥で帝国の様子を確認する。

アマリアが帝国に行ってからというものの、私とは違う選択をした彼女の事が心配でちょっと前までは毎日続けていたのですっかり手馴れていた。

最近はもうアマリアは安全だと分かったので、今までそれをやっていた時間を別の事に当てている。

…おかしい。

どうも帝都の様子がいつもと違う。

警備兵の数が異様に少なく、帝都の雰囲気もどこか重苦しいように感じた。

ので、とりあえずどこか適当な場所に降り立って、そこらの人の会話を盗み聞きしてみる事にした。


『ねぇ、この戦争、勝てると思う?』

『大丈夫でしょ。ナナミラ様が指揮を執ってるし、仮に負けたとしても取られるのは金と亜人地域くらいだろうから、帝都に住む俺たちには関係ないさ』


それを聞いた瞬間、翼を広げ亜人地域へ向けて飛び立った。

戦争?

どういう事?

つい2か月前まで私を捉えようと軍を動かしてたくらいなのに、どうしていきなりこんな事に?

様々な疑問を抱えながらも、ひたすら真っ直ぐ帝国の亜人地域を目指して使い鳥を飛ばした。

戦場となっている国境線に到着した頃にはもう、戦線はかなり激化していた。

私はとりあえず、帝国軍の様子を見る事にした。

なんとなく気になったので、帝国軍の野戦病院のテントの上に降り立つ。

そこはまさに地獄だった。

そう遠くない未来に、私の手によって多くの人間がこんな目に遭うんだと思うと、胸が苦しくなる。

見ていて気分のいいものではなかったので、離れようとした時、視界の端にとても目立つ、白銀の髪の少女が見えた。

あれは、アマリア?

どうしてこんな危ない戦場に…

アマリアは真剣な表情で、隣にいる黒髪の少年と共に次から次に運ばれてくる負傷兵を手当をしている。


『カイ、そっちの人傷口に呪いがかかってるから止血しといて』

『了解。アマリア、魔力後どのくらいだ?』

『あと治癒魔法15回分。それが終わったら回復するまでお医者さんの補助する』

『わかった』


13歳の少女には重すぎる仕事に思えるが、彼女は少年と阿吽の呼吸で負傷兵を捌いていた。

アマリアは私が思っている数倍大人なようだ。

もう心配はいらないかな。

それにあの黒髪の少年からは、懐かしい雰囲気を感じる。

もしかして…いや、私には関係ないか。

見てて気分のいい光景でもないので、早々に使いの鳥を高く飛び上がらせ、丁度戦場全体が見下ろせる高さまでやって来た。

この高さだと細かな所までは見えないが、別に見たくないのでこの高さで観察する事にする。

兵士の着ている鎧を見ると、どうやら戦線が帝国側にかなり押し込まれているようだ。

数で劣る帝国軍に対し、王国軍は多くの兵を戦線維持に回し、それとは個別に少数精鋭の魔法師を含めた遊撃部隊で各所の戦線を押し上げるという作戦を取っているようだ。

数で勝っているからこそできる作戦だ。

このまま順当にいけば、帝国は負ける。

そうなれば、この戦場で生き残った帝国の人間は運が良ければ捕虜、悪ければ殺される。

まぁ、そうなったとしても、私には関係ない。

私はただ、帝国から魂を奪うだけ。

…違う!

この場には、あの子が、アマリアがいる!

もし帝国が負ければ、あの子にどんな危害が及ぶか分からない。

白銀髪のエルフは、何も帝国南部のエルフの村だけに伝わっている話ではない。

アイゼルド王国の書物に、それについての記載があった。

王国で今白銀髪のエルフがどのような認識をされているか分からないが、私の記憶が正しければ王国は人間至上主義の国だ。

そんな国が、アマリアに義骸を加えない訳が無い。

いっその事アマリアだけでも、無理矢理連れ去ってしまおうか。

…いや、それは彼女の為にならない。

それに、帝国で生活している時のアマリアはとても楽しそうだった。

きっと嫌われてしまう。

それは、嫌だな…

アマリアの危害が及ぶのを防ぐため、必死に思考を巡らせていると、一つ案を思いついた。

この戦場の広がり方、今私が居る場所からは遠いけど、さっき改造魔獣を収納した場所から戦場の北端はそれほど遠くないかもしれない。

少し早いけど、魂を回収させてもらおう。

私は通信魔法を切って、飛行魔法を使い先ほどの北西の森へ向かう。

改造魔獣がいる数々の洞窟の中心で、魔法の術式を構築し、精一杯の魔力を込めて発動する。


【傀儡魔法 魔獣使役オペレーション


魔法の効果により、周囲の魔獣全てが私の意のままに動く。

私は比較戦闘能力の低いスノーラビットには待機の命令を下し、ホワイトベアには”直ちに南下し、鎧を着た人間を殺せ”という命令を下す。

その瞬間、ホワイトベア達が一斉に洞窟から飛び出し、その身体能力を以ってもの凄い速度で走り出した。

その速度以上に持久力が凄まじく、1時間もしないうちに戦場へ到着した。


「な、なんだコイツらは、どこから現れた⁉」


その声を皮切りに、ホワイトベア達を目にした兵士が次々と驚きの声を上げる。

あれから1時間ちょっと。

戦況はさらに王国軍に傾いているようだ。

今の帝国に特段思い入れがある訳じゃないけど、帝国にはアマリアが居るし、アルシェさんの国だ。

少し、王国軍から多めに魂を貰うか。

戦場に到着したホワイトベアから順に目標を定め、その体躯を生かして蹂躙を開始した_



結果から言うと、ホワイトベアによる蹂躙は丸1日続き、私のホワイトベア達は帝国軍の兵士を3万人、王国軍の兵士を7万人殺した。

私の介入により両軍は戦闘状態を解き、互いの陣地まで撤退した。

事実上の休戦状態だ。

肝心の魂について、集まったのは8万個だけだった。

回収の方法として、彼らの背中に付いた特殊な器官が殺した相手の魂を回収し、私が腰に装飾品に偽装して下げている小さな水晶球にその成果を転送するというもの。

ただ、彼らの背中の器官のうち1割がうまく働かなかったのに加えて、成果を転送する前に兵士に打ち取られてしまったのが200体ほどいたのが、魂の回収量低下の原因だろう。

…無駄に殺してしまった人が2万人か。

全てはしっかりと魔法の成功率を100%に引き上げられなかった私の実力不足のせいだ。

本当に、ただただ申し訳ない。

両軍が完全に引き切ったので、私はホワイトベアたちに停止命令を下した。

適当な場所に降り立って少し思案する。

このままこの場に留まって、どちらか、または両方の軍から合計2万の魂を回収できるまでホワイトベアたちを暴れさせるか、彼らの疲労具合を鑑みて一度撤退するか。

傀儡魔法は彼らの疲労具合にかかわらず無理矢理動かしている。

疲労によって魂の収集にどんな影響があるか分からないので、ここは一度引くのがだとうだろう。

今後の方針を決めた所で、左前の方から何やら帝国軍の兵士に守られながら数人が歩いてきた。


「お久しぶりです。魔女…いえ、ルミアさん」

「貴方は確か、ナナミラ皇女だったわね」

「やっぱり、ルミアお姉さんだったんだ」


こちらにやって来ていたのは、帝国の皇女一行だった。

そしてその中にはアマリアと、先ほどの黒髪の少年、200年前、アレクを殺した騎士が装備していた鎧を彷彿とさせるような鎧を着た騎士がいる。

私の名前は、アマリアから聞いたのだろうか。


「どうして貴方がここに?」

「そこの魔獣がやって来た時にね、お姉さんの魔力を感じたの。ねぇ、お姉さん。どうしてこんな事したの?どうして話してくれなかったの?」

「…こんな事をしたのは、私の目的の為。帝国の皇太子に襲撃されたからそのお返しっていうのもあるわね。話さなかったのは、話せば貴方も共犯と見なされてしまうと思ったからよ」


ごめんなさいアマリア。

私のせいで、貴方は…


「ねぇお姉さん、本当は私の為にしたんじゃないの?もしあのまま戦争が続いてたら、多分だけど帝国は負けてた。アイゼルド王国は人間至上主義の国。もし私が捕まればどんな目に遭うか分からないからじゃないの?もしそうなら、私は」

「己惚れないで。私と同じ境遇だから、貴方には優しくしただけよ。貴方は私の大切でも何でもないわ。赤の他人よ」


アマリアに冷たい言葉を、冷たい声色で投げかけた。

私は、自分に害をなした人が善人だった時の辛さを知っている。

私は多くの人に危害を加えたのだから、生き残った人、私に殺された人と親しい間柄の人がきちんと憎悪を向けられるよう、せめて悪人であろう。

それが危害を加える者として私が果たす、最低限の責任だ。

私は今どんな顔をしているのだろうか。

ちゃんと悪人の顔になってたらいいな。

まだ困惑しているアマリアの質問に答えて少し経つと、皇女が口を開いた。


「ルミアさん、あの契約についてですがお願いがあります」


皇女の言おうとしてる事は大体予想が付く。

おおよそ、契約の履行は難しい、私に抗う力も残っていない。

もう十分この戦場で命を奪ったんだから、あの契約は無かったことにしてくれないか。

概ねそんな内容だろう。

皇女は次の言葉を口にするより先に、私が口を開く。


「ああ、契約ね。もう目標の8割は達成したから、2万人で良いわよ」

「2万人でって、どうしてそんな何ともない数みたいに…2万人、なんですよ?そんな数の国民を、はいどうぞって渡せるわけないじゃないですか」


皇女は私が使いを城に送った時よりも、ずっと落ち込んだ声色で反論した。


「帝国の事情なんて知らない。寧ろ、私は契約の条件を緩和してあげたのに、そんな風に言われる筋合いは無いわ」


私がそう突っぱねると皇女の代わりにその隣の黒髪の少年が会話に割って入る。


「一つ気になるんだが、今までの話を聞いた感じ、アンタが帝国に恨みを持ってるっぽいのは分かる。ただ、どうしてその恨みを抱いた時に復讐しなかったんだ?」

「…帝国なんて、恨んでないわよ。嫌いな奴は居たけれどね。ソイツは私の平和を壊して、大切な人まで奪ったのに、悪人じゃ無かったのよ。だから結局、殺せなかったの。…少し喋りすぎたわね」

「危害を加えられたのに悪人じゃないって、どういう事ですか?」


皇女は私の言葉に引っかかったようで、真剣な眼差しで質問してきた。

正直質問の意図が分からないし答える気も無かったが、彼女の雰囲気がそうさせたのか、私は答えた。


「…私はこの髪のせいで人の醜いところばかり見てきた。だから知っているのよ。善人が善行だけをする訳じゃないし、悪人は悪行だけをするわけじゃ無い。人は一つの側面を貫けるほど崇高な生物ではない、当たり前の事よ。じゃなきゃ偽善なんて言葉、生まれる訳ないじゃない」


皇女はその答えを聞いて沈黙した。

そしてその後、彼女自身の感謝の言葉がそれを破った。


「ありがとうございますルミアさん、変な事聞いちゃって。おかげで少し楽になりました。私、どうやら_」


皇女がその先の言葉を言おうとした瞬間、アイゼルド王国の方角から大きな火炎弾が私めがけて物凄い勢いで飛んできた。


【防御魔法 対炎魔法結界アンチブレイズ


私はその魔法に対して対抗魔法を、皇女らに被害が及ばないよう大きめに展開した。


「大丈夫ですか、ナナミラ様!」


咄嗟の事だったが私の対抗魔法で皇女一行もうまく守れたようだ。

私自身は戦っていないから実感が無かったけど、ここは戦場。

ホワイトベアが蹂躙している間、私はその真上で滞空していた。

そのせいかアイゼルド王国にも私がホワイトベアを操っている者だと割れているようだ。

休戦状態にもかかわらず攻撃してきたのは、大勢の同胞の命を奪った私に対する恨みからだろうか。

皇女と話すには少し危険な場所だ。

…もう私を攻撃する余裕ができないよう、少し彼らの拠点を破壊しておこうか。


【傀儡魔法 魔獣使役】


「”奴らの拠点を襲撃しろ”」


私の命令に反応し、背後に控えていたホワイトベア達が一斉にそれがある方へ向かって駆け出した。


「お姉さん…」

「これでしばらくは攻撃してこないでしょうが、ここに留まるのは危険ね。まだ話は終わっていないのでしょう?」

「はい」

「なら、場所を移しましょう」

「では、私の権限で戦争拠点のテントを一つ貸し切りにしますので、そこで…」

「だめよ。そんな敵の本拠地に自ら赴くようなリスクを取るわけ無いでしょ。ここから少し北に行った所に、小さな森があるわ。そこなら王国の魔法師の射線も木々に邪魔されて通らないし、そこにしましょう」


帝国の拠点に行けば恨みから私に襲い掛かる輩がいるかもしれないので、それを避ける為に場所をそういった心配の無い場所に変更させてもらった。

飛行魔法を起動して、少し高度を上げてからアマリアに話しかける。


「その人達は貴方が連れてきて。出来るでしょ?」

「…うん」


アマリアは小さな声で了承した。

少し、言い過ぎただろうか。


「でも私、こんなに人連れて行けない」

「なら、話し合いに必要な人と護衛だけ連れてくればいいわ」


私はそう言って、アマリアが連れてくる人に浮遊魔法をかけるのを待ってから飛行を開始した。

森には15分程で到着した。

付いて来たのは皇女、アマリア、黒髪の少年、おそらく一番腕が立つのであろう騎士の4名だ。

確か、アマリアの飛行魔法と浮遊魔法、牽引魔法を同時に使用できる限界は4つ。

あと一人は連れてこられたはずだ。

私が護衛と言ったから、皇女直属の護衛しか連れてこなかったのだろうか。


「ルミアさん、あなたに聞きたい事があります」


着いて早々に皇女が話を始めた。


「質問の前にまず、この度は結果的にとはいえ帝国を助けていただいた事、一応感謝しています。ですが、あなたの要求に答える事はできません」

「それは、帝国としての答え?それとも貴方個人の意見?」

「帝国の総意と、受け取っていただいて構いません。それでは一つ聞かせていただきます。もしここで、あなたを止めなかった場合、あなたは今後も、帝国に危害を加えようと計略を練りますか?」

「ええ、もちろん」


私は堂々と、そう答えた。

至極当たり前の事だ。

200年もの間アレクを諦められなかったのに、今更諦められるわけない。

それに、私はもう8万の魂を手にしてしまった。

もう後戻りはできない。


「なら私の、私達の答えは一つです」


護衛の騎士と黒髪の少年が剣を引き抜き、アマリアが魔法術式に魔力を充填する。


「あなたをここで、止めます」

「止める?殺すの間違いでしょう?」


私の少し意地悪な返しに、アマリアが言い返す。


「違うよ、お姉さん。ナナミラ様はそんな人じゃない。悪い人は捕まえて、反省させて、普通の生活ができるように支援するような人なの。だから!お姉さん、ここで止まって、また一緒に暮らそうよ!」



「もう私は止まれない。こんな所で止まるわけにはいかないの。だから私を止めたいのなら、貴方たちの全力を以てかかってきなさい。この北の魔女が、全力で相手をしてあげるわ_」

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