アマリアの選択
撃破したはずのエファリア・フランローズが突如として動き出し、もう一体の傀儡に纏わりつき自爆した。
その時ルミアは防御魔法で防ぎ、アマリアは皇太子らの方へ駆けだした。
彼女は皇太子らの護衛に魔法師が居ない事を見抜き、彼らをその爆風から守るために動いたのだ。
が、あなりに咄嗟だった事に加えて彼女の魔法の練度不足がたたり、皇太子とその周りに居た騎士数人しか守る事が出来なかった。
そのまま結界ごと爆風に押される形で、元居た場所から少し離れた洞窟のある場所まで飛ばされた。
そんな状況で、衝撃によって気絶していた皇太子オブシディ・イル・サイルが目を覚ます。
「あ、起きた」
目を覚ますと、白銀髪の少女がその若苗色の瞳で俺をのぞき込んでいた。
上体を起こし、辺りを観察する。
どうやら俺は洞窟の入り口付近で寝かされていたようだ。
頭が痛い。
爆発が起こる直前の事が思い出せない。
「よお皇太子サマ、五体満足で済んででなによりだぜ。まァ、生真面目さは少し欠けた方が良いと思うがな」
その大柄な髭を生やした男は、いつも通り軽口をたたく。
「無事じゃない、全身が痛むよ、特に頭が…ハイル、被害は?」
「俺とアンタはほぼ無傷、カイトは右腕を、ノーマンは左足を持っていかれた。止血と、お嬢ちゃんに治癒魔法をかけてもらった。今はそこで休ませてる」
「他の騎士は?」
「全員死んだ」
辺りに私達数人しか居ない事からなんとなく察してはいた。
…今回の作戦は大失敗だ。
非人道的な事まで行って、多くの騎士も失った。
ただただ、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
全て、俺の責任だ。
「ごめんなさい、私がもっと上手く出来ていれば…」
エルフの少女は謝罪した。
そんな彼女に、ハイルは悪くないと声をかける。
「お嬢ちゃんが守ってくれなければ確実に皇太子サマ諸共全滅してた。寧ろ皇太子サマを守ってくれて感謝してる。お嬢ちゃんはもう少し威張ってくれてもいいくらいだな!ハハハ!」
ハイルのその笑いは、大勢の騎士が亡くなった事の重さを、少女に感じさせない為のもののように思えた。
「おじさん達、これからどうするの?」
少女は俺の方を見てそう言った。
「そうだな…とりあえず負傷した兵を連れて帝都に戻ろうと思う。あと俺はまだ23だ。おじさんという歳ではない」
「ふーん。分かった。けどおじさん、怪我した人たち連れていけるの?髭の人だけじゃ辛いと思うけど」
少女は俺をおじさんと呼ぶのをやめるつもりは無いようだ。
俺がおじさんという事を除けば、少女の言っている事は事実だ。
俺はナナミラとは違って、幼い頃に剣術や魔法といった教養を身に着けていない。
病弱であったので、どちらかというと勉学に精を出していたのだ。
なので基礎体力が著しく低く、筋力も低い。
俺が負傷した彼らを運ぶ事は出来ない。
「確かにそうだな。ハイル、ここから帝都まで2人を背負って運べそうか?」
「無理だ」
いくら帝国騎士の中でも筋力に長けているハイルでも、帝都までその身一つで運ぶのは無理なようだ。
これからどうしたものか思案していると、段々爆発直前の事を思い出した。
爆発したのはエファリア・フランローズだ。
傀儡魔法で操った者が爆発するなど聞いていない。
「ハイル、研究所奴らから魔法で操った者が爆発するなど聞いていたか?」
「いや、聞いてないね。皇太子サマ、本音を隠さず言うと俺研究所の奴らに結構ムカついてんだ。魔女に殺されるなら良い。俺たちもその覚悟でこの任務に就いたんだからな。だが、魔女以外の要因で死ぬのは違う!」
ハイルが怒りを露わにした。
俺だって奴らにどうにかして責任を取らせたい。
だが、今回研究所が提案した策が採用されたことによって、彼らは着実に貴族への影響力を増している。
うかつに手を出せば貴族の反発を招く可能性がある。
責任を取らせる事は出来るだろうが、あまり重いものは期待できない。
「おじさんは、あの爆発はその研究所の人たちがやったと思ってるの?」
「ああ、自分の体を爆破する魔法なんて聞いた事が無いからな。普通に考えて、あの肉体を作った奴らの仕業だと判断するのが妥当だろう?」
「ううん、違うよ。あれ、多分あの人自身がやった事だよ」
少女は俺の考えを否定し、つらつらと自分の考えを口にする。
「多分、炎魔法の物体爆破じゃないかな」
「あの、炭鉱夫がよく行動を掘り進めるために使う?」
「うん、それを自分に使ったんだと思う。普通は小さな石に使う魔法が大きな人形に使われちゃったから、あんなに大きな爆発になったのかも」
少女の言った事は的確だった。
確かにそれならあの大きな爆発にも説明がつく。
「なら、エファリア・フランローズは何の為に?」
「…そこまでは分からない」
そう言う少女の声は震えていた。
少女は、嘘を吐くのが下手なようだ。
いや、嘘を吐いているというよりも、何か心当たりがあるといった感じだった。
だが、俺とハイルはそれに踏み込めなかった。
少女が、俺たちの命を救ってくれた恩人だからだ。
「おじさんと髭の人はその研究所の人たちがうざったいの?」
「うざったい…そうかもな」
「俺はぶっ殺してやりたいね」
「おじさん皇太子なんでしょ?なら暗殺未遂とかで捕まえちゃえばいいんじゃないの?」
ああ、こんな少女が思いつく簡単な事を、どうして思いつかなかったのだろう。
今まで他人を使うばかりで、自分の束を使うという発想が無かった。
帝国の実務に就いてから約8年、どれだけ自分の頭が凝り固まっていたのか実感させられた。
「ありがとう…そういえばまだ名前を聞いていなかったな」
「私は、アマリア」
「そうか、私はオブシディ・イル・サイルだ。ありがとう、アマリア」
「もう何度も皇太子サマに呼ばれているから分かっていると思うが一応、俺はハイルだ。皇太子サマの護衛をしている。よろしくな、アマリア」
「どういたしまして、おじさん達」
そろそろ本気でそんなに老けて見えるのか気になってきた所で、ハイルと帝都に早く向かう手段について話話し始めた。
現状、俺たちには時間が無い。
というのも、負傷した2人が後どのくらいもつのか分からないからだ。
「でもよ皇太子サマ、今の俺らには徒歩以上の移動手段はないぜ?近くの町によろうにも近くの村はシェーン商会が潰して畑にしちまったから、馬車は期待できないしな」
「そうだな。もうあまり時間が無い事だし、とりあえず歩き始めようか」
そう思い立ち上がり、負傷した2人の兵を担ごうとしていた時、アマリアから一つ提案があった。
「おじさん、私が帝都まで運ぼうか?浮遊魔法と牽引魔法使えるよ」
「そうしてもらえるとありがたいが…大丈夫なのか?」
「うん、追い出されたから、私」
アマリアは少し悲しそうに、すぐ近くの木にとまっている鳥を見ながらそう言った。
その鳥は頷くように頭を動かし、大きく鳴いた後どこかへ飛び去った。
「アマリア、手伝ってくれるということは、帝都に来るという事だ。だから一つ、聞いておきたい事がある」
「…何?」
「お前は、魔女とどういう関係だ?」
負傷した2人を救うには、アマリアの協力が必須だ。
だがもし、彼女が魔女の協力者であった場合、俺は皇太子としてアマリアを帝都に入れる訳にはいかない。
最悪の場合、この場で…
「…私は、魔女なんて人知らない。私が知ってるのは、追い出された私の面倒を見てくれた優しいお姉さんだけ」
「…分かった。勝手に帝都に向かって良いのか?」
「勝手にじゃないよ。良いって言ってもらったから」
「そうか」
おそらく、さっき見ていた鳥を通じて魔女にこの事を知らせたのだろう。
「なら、負傷した2人を運んでくれるか?」
「うん、分かった」
アマリアは手際よく2人に浮遊魔法を付与し、彼らを魔法で引っ張る。
洞窟の外に出てすぐ、アマリアが立ち止まった。
「ねぇねぇおじさん、帝都まで行くんだっけ?」
「ああ、そうだな、帝都北部にはこれと言った村や町が無いからこれと言った治療施設がある可能性が低い。そこに欠けて近い場所に行くよりも、しっかりとした施設で治療を受けさせてやりたい」
「じゃあ、まだあんまり長く持たないけど、飛んで行った方が良いね」
アマリアはしれっとすごい事を言った。
きっと世話をしてもらっている間に、魔女に魔法でも教わったのだろう。
「アマリア、空を飛ぶ魔法を使えるのか?」
「うん、使えるよ」
「空を飛ぶってのがどのくらい速いのかイマイチピンと来ないが、こいつらに残された時間はあまりない。よろしく頼むぜ、お嬢ちゃん」
アマリアは俺とハイルにも浮遊魔法を付与し、手を握った。
「それじゃあ、しっかり捕まっててね_!」




