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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
終章

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エファリア・フランローズ

森の中を、ゆっくり歩く。

自分が一体誰だったのか、思い出す事ができない。

胡散臭い男が私の事をエファリア・フランローズと呼んでいたので、きっとそれが私の名前なのだろう。

それ以外の事は分からない。

必死に思い出そうとする度、ひどい頭痛がして中断されてしまう。

気を紛らわすにも、今私はあの男が持っていた試験管に入っていた魔力以外、ほとんど感じない。

この魔力の持ち主に辿り着いた時、私はその人を殺すために襲い掛かるのだろうか。

嫌だな…

この魔力はこんなにも懐かしくて、優しい魔力なのに。

行きたくなくても、この体は私の意思とは関係なくその魔力の持ち主の方へ向かっている。

きっとあの男に命令されたからだろう。

今、私はどこかの荒野を歩いている。

露出しているとがった岩を踏む。

何も感じない。

私の足に食い込みもしない。

何となく察しは付いていた。

どうやらこの体は、人間の物ではないらしい。

それよりもずっと人工物に近い物に、私は入れられたのだと思う。

人形か何かだろうか。

何故だか頭がボーっとしてきたので、なんとなく周囲を見渡してみる。

すると右手に亜人のものと思われる集落を見つけた。

ここは、エルフの森北部の亜人区?

今まで何も思い出せなかったのに、それだけは何故かスラスラと出てきた。

森を抜けて来たから、今私は北に向かっているのだろう。


「ぁ゛、ああ゛_」


彼らに色々話を聞いてみたかったが、人形に入れられたせいかまともな声が出ない。

まぁそもそも、体が言う事を聞かないので、話をしに立ち寄ることすらできないのだけど。

しばらく歩いてみて、亜人の集落は荒野の所々にある水源の近くにあるようだ。

ただ、なんとなく亜人の方々が多いような気がする。

そう感じるという事は、私が生きていた頃はもっと少なかったのかもしれない。


日が沈み、夜になった。

私の体は疲れることなく歩き続け、また森に入った。

依然として、体の感覚は無く、頭痛がするままである。

死者を生き返らせ、意のままに操る魔法で私をこのような状態にしたのなら、何故本人の意識まで蘇らせているのだろうか。

私なら、魔法の術式を弄って当人の自我までは戻さないようにする。

そうしないと言う事は、まだその魔法への理解度が高くないのだろう。

発見されてからそう長くは立っていないはず。

…魔法の知識が溢れ出てくる。

生前の私は魔法師だったのかもしれない。

森をさらに奥へ、目的の魔力に導かれるまま進んでいると、私を取り囲む何者かの気配を感じた。

今の私は感覚が鈍っている。

感じた時点でもう、手遅れだ。

灰色の体にネズミのような頭。

周囲に隠れ潜んでいたゴブリンが前歯を突き出して、一斉に私に襲い掛かる。

まずい。

すぐに魔法で防御を_

あれ?

魔法って、どうすれば使えるんだっけ_?

頭部を強く引っ掻かれ、強い衝撃と共に地面に突き伏せられた。


その衝撃を受けて、何かが外れる音がした。


【風魔法 風弾】


自身と地面の間に風弾を放ち、体勢を立て直しつつ周囲のゴブリンを風圧で吹き飛ばした。

ああ、思い出した。

私は、エファリア、エファリア・フランローズ。

帝国筆頭魔法師だ。

忘れていた記憶が、濁流のように流れ出てくる_


私は、フランローズという貴族の家に生まれた。

その家は魔法の名家だったという事もあり、幼い頃から魔法を叩き込まれた。

家族には、お前は天才だ、きっと誰よりも強い魔法使いになる、みたいな事を沢山言われて育った。

この頃の私には、一体何のために強くなるのか分からなかった。

貴族なのだから、自分で戦う必要は無い。

強くたって、貴族のしがらみからは逃れられない。

そう思いながら、何の目的も無く帝国筆頭魔法師になった。

それからはただ退屈だった。

毎日どこかの貴族がやって来て、領地で起きた問題を魔法で解決して欲しいと迫る。

苦痛にさえ思った。

でもある日、とある人が訪ねて来てから、全てが変わった。


『あなたが、エファリア・フランローズ?』

『ええ、そうですけど、貴方は?』

『私は皇女ミナルア・イル・サイルよ!私に力を貸しなさい、エファリア・フランローズ!』


皇族は帝国騎士、帝国魔法師の中から1人選び、護衛として付ける事ができる。

その権利を行使し、彼女は私を護衛にした。

普通はコネのある人物を選ぶのだが、彼女は他と比べてコネの少ない私を選んだ。

どうせ強いからだろうと心の中で決めつけていたけど、本当の理由が気になったので思い切って彼女に聞いてみた事がある。


『どうして、私を選ばれたのですか?』

『そんなの決まってるじゃない。あなたがコネも、貴族との繋がりも少ないぼっち人間だからよ』

『それはまた、どうしてですか?』

『エファリア、この国を見て、どう思う?』


この時の帝国は一部の貴族と皇帝が、法に触れるような悪事に手を染めていた。

危険薬物の製造、販売。

誘拐した亜人の子供を売り捌く、人身売買。

それと同時に、彼らは大きな権力も持っていたため、誰も咎める事ができない状況にあった。

亜人地域を統合したばかりという事もあって、余計に反感を買ってしまっていた。


『治安が、悪いなと思います』


言葉を濁した。

ミナルア様はクスッと笑って、


『もっとハッキリ言って良いわよ。頭が腐ったクソみたいな国だって』

『それは…』

『腐っててクソみたいな国だけど、私はこの国が大好き。この国で何気ない日常を営んでくれている国民が、大好き。私はそんな国を、人達を、あのクソ皇帝の意に背いて豊かに、幸せにしてあげたいの。でもそれには、貴族との繋がりが強くない、腕の立つ魔法師が必要だと思った。だから、エファリアを護衛にしたの』


ミナルア様はまっすぐ私と目を合わせた。

今まで仕事だから、やらなければいけない事だからという理由で何となく目の前の問題に対処してきた。

私はその言葉を聞いて、仕事としてではなく、私個人としても少し頑張ってみようと思えた。


『エファリア、こき使うから覚悟しておきなさい!』


ミナルア様の宣言通り、私が護衛に就任してから半年で、帝国の隅から隅まで飛び回った。

上流で堰き止められてしまった川を元に戻したり、魔獣避けの結界を張ったり、人身売買組織を潰したりした。

帝都に戻れたのは3回くらいだったように思う。

想像以上にこき使われて、心も体もボロボロだった。

でもそれ以上に、誰かから言われるありがとうの言葉が心に沁みた。

ただひたすらに嬉しかった。

私は自ら望んで魔法を習得した訳じゃない。

強くなる理由すらない、弱い人間だった。

ミナルア様と出会って、私は変わった。

帝国のため、帝国で暮らす人々のために強くあろう。

口が悪くて、物事をハッキリと言い過ぎるせいで嫌われがちなミナルア様をお守りしよう。

それが私の強くなる理由になった。


『ミナルア様、ガナムンド皇帝陛下からのお呼び出しです』


それは、いつも通りミナルア様の指示に従い、帝国民に従事していた時の事。

今までミナルア様に構いもしなかった皇帝陛下が、急遽帝都に戻るよう命じた。

何か大きな問題でも発生したのかと思い、私たちは命に従い帝都へ戻った。

それが、間違いだった。


『ミナルア、自分が何をしたか分かっているのか?』


その日の皇帝陛下は、実子に接する態度とは思えない程高圧的だった。


『いいえ、さっぱり』

『とぼけるな!貴様、南方で人身売買組織を潰したではないか!』

『ええ、潰しましたよ。あの者らは亜人の子供を誘拐しては売り捌く、悪党でしたからね』


ミナルア様はつらつらと取り繕った口調で問答を繰り返す。

つい先日、人身売買組織を潰したのが皇帝陛下の機嫌を損ねてしまったようだ。


『貴様のせいで、奴隷市場が急速に縮小してしまったのだ。一体何のために亜人地域を統合したと思っている!」

『チッ_もう取り繕わなくていいか…責任も何も、私、何も悪い事してないですよね?クソ皇帝陛下』


ミナルア様の部下という事で、私たちに冷ややかな目線を向けられたので、睨み返してみたりしてくだらない問答を聞き流していた。

それが始まってから10分程経った頃、皇帝陛下はその足りない頭で彼女が聞く耳を持っていないとようやく理解したようで、


『これが最後の質問だ。貴様が行っているくだらない正義に塗れた慈善事業を、止める気は無いのか?』

『ありません』


ミナルア様は即答した。

それが皇帝陛下の気に障ったようで、頭を強く掻きながら愚痴をこぼす。


『貴様はどうして私の言う事を聞かない!少し前までは従順だったではないか!…ああ、分かったぞ。貴様の部下がそうなるよう唆したのだな?』

『はぁ…違いますよ!分からないんですか?反抗期ってやつですよ、クソ皇帝陛下』


『それでは失礼します』と言って、ミナルア様背を向け扉へ歩き始めた。

ので、私もその数歩後ろについて歩く。


『残念だよ。ミナルア』


皇帝陛下がそう呟いた次の瞬間、扉を開けるはずだった騎士がミナルア様に近づき、その腹を剣で刺し貫いた。


『ミナ、ルア様?』


あまりの出来事に、脳が理解するまで数秒かかった。


『嘘、嘘ウソうそ_』


ミナルア様を害した者に対しての怒りよりも、彼女を早く治療しなければという気持ちの方が大きかった。

倒れたミナルア様を抱き抱える。

傷口には呪いがあった。

これでは、治癒魔法が使えない。


『早く、早く医者の所へ_』

『それは許可しない』


焦る気持ちでいっぱいの私に、皇帝が後ろから冷徹な言葉を突き刺した。

扉番の兵士はその言葉に応じ、扉を閉ざしてこちらに武器を向けた。

ミナルア様はまだ少し息がある。

今すぐ医者に見せれば何とかなるかもしれない。


『エファリア・フランローズ、貴様は我が国の重要な戦力だ。だから生かしてやった。今後は私に仕えよ』


何かが切れた。

体の底からドス黒い何かが湧き出た。

ただ心に身を任せ、思いっきり叫ぶ。


『そこを、どけ___ッ‼︎』


私は謁見の間にいた全員を殺した。

そしてすぐに医者の元へ駆け込んだが、もう手遅れだった_


それから私は皇帝殺しだけではなく、皇女殺しの罪まで着せられた。

加えて、その直後に歴史に残る大飢饉が起こった。

帝国内を流れる主要な川が、突如として枯れたのだ。

土地は痩せ細り、健康で居られなくなった家畜達の間で疫病が蔓延、穀物は収穫できなくなった。

普通なら国が対応するところだが、私が皇帝を殺したせいで国としての機能は麻痺し、食糧給付などを行えなかった。

もし、私があの場で感情任せに皇帝を殺していなければ、死ぬ人はもう少しだけ減っていたかもしれない。

あの皇帝がまともな対応をするはずがないが、この時の私はそう思った。

逃げた。

死刑が嫌で逃げたんじゃない。

私は飢饉で死んでしまった人達への罪悪感を感じるのが嫌で、逃げた。

その際、呪いを受けてしまった事は覚えている。

私はその後呪いで死んだのだろうか?

この先はまだ思い出せない。

記憶に耽っていた間に、随分と北の方まで来た。

あの魔力を強く感じる。

きっとこの近くに、その持ち主が居る。

そう感じてから1分もしないうちに、森の中の少し開けた場所に出た。

そこには小さな小屋が一つ建っている。

一歩一歩、その小屋に近づいて行くと、中から1人、特徴的な白銀髪のエルフが術式に魔力を込めながら出てきた。

その人を見ていると、何だか懐かしいと感じる。

沈黙がしばらく続いた後、エルフが口を開いた。


「どうして貴方がここに?師匠_」


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