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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
終章

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32/47

怒り

北の魔女がこの城を襲撃してから3週間、遂に魔女が使いを送ると言っていた日になった。

その間私達皇族が決めた事は2つ。

まず大前提として、魔女が第8代皇帝と交わした契約は履行しない。

1つ目、帝国は北の魔女に対し、多額の違約金や物品、最悪領土を差し出す事で争いを避ける事が出来ないか試みる。

2つ目、それらが受け入れられず魔女が武力行使に出た場合、我ら帝国は全力を持ってそれに抵抗する。

色々な縛りがある中、よく決めれたと自分でも思う。

でも…


「対応が大まかに決まったのは良いのですが、不穏なんですよね」

「不穏、と言いますと?」


審判室で一人呟いた事に、ジェイドが聞き返した。


「魔女の魔力の解析に帝国魔力研究所に協力を仰いだのですが、ここ最近、彼らの動きが怪しくて」

「彼らは研究にのめり込み過ぎるので、そう見えるだけでは?」

「…確かに彼らは変人ばかりですが、それだけでは怪しんだりしませんよ。私が言いたいのは、私達皇族の目から隠れて、コソコソ動いているって事です」

「なるほど」


帝国魔法研究所が冒険者や一部の騎士を買収し、何かを嗅ぎまわっているという情報が入っている。

それに、最近皇族の監視網に研究所の勢力の者があまりにも引っかからない。

その何かが一体何なのかは分からないが、何やらやましい、法に触れかねない事であるのは調査で分かっている。

ほんと、何がしたいんだか…

魔女の対応に追われている今、余計な事に気を使わなければならない事に嘆いていると、審判室の扉が大きく音を立てて開けられた。


「皇女様!魔女が、魔女の使いが現れました!」

「案内してください!」


私はそれを聞いて反射的にイスから立ち上がり、ジェイドとすぐさまやって来た騎士の後を走ってついて行った。

来た。

来てしまった。

廊下を駆け抜け、案内されるがまま謁見の間に到着すると、修復されたばかりの大窓の渕に、普段見かける野鳥よりも二回りほど大きな鳥が止まっていた。

その鳥から、魔女の声がノイズ混じりで発される。


『返事を聞かせてもらおうかしら』


私より先に謁見の間で待機していたお兄様が、魔女と話をする。


「どういう手段で民を渡すかを聞かないのですね…あなたは端から私達が契約を破棄する事が分かっていた訳だ」

『…しないという事で良いのね?』

「はい。ですが、貴方の目的が帝国民の命で無い限り、契約の代わりに私共は多額の違約金や別の物品を差し出す意思はあります」


お兄様は早速魔女に契約を履行しない事と、取り決めた一つ目の内容を伝えた。


『残念だけど、私の目的は10万の命なの。だから代わりの物で契約を無かったことにするなんてできないわ』

「そう、ですか」


お兄様も、済むものなら違約金や物品で平和に解決する事に期待していたのか、魔女の返答を聞いて少しがっかりしたようだった。

結局、こうなるのか。


『悪いけど、私には10万の命が必要なの。戦争を_』

「魔女さん、ちょっと待ってください!」


魔女の言葉を遮って、私は会話に割り込んだ。

戦争だけは、絶対にダメ。

少なくとも今、隣国のアイゼルド王国が、戦争の下準備としか思えない工作を仕掛けてきている間は、絶対にダメだ。


「戦争じゃなくて、もっと他に、平和に解決する事はできないんですか?」

『無理よ』


私が言い終わってすぐ、その可能性を否定された。

魔女の心はもう、決まっているようだった。


「本当に無理なんですか!?」

『無理』

「でも!」

『私はもうそうすると決めたの』


いくら戦争以外の選択肢を見出そうとしても、その度に拒否する魔女に対して、次第に怒りが湧いてきた。


「ねぇ魔女さん、私達が、何をしたって言うんですか?そんなに悪い事しましたか?ねぇ、答えてくださいよ!」

「ナナミラ、お前少し静かに…」

「そうです皇女様、相手は魔女です、どうか慎重に」

「お兄様は黙っててください!ジェイドもです!」


柄にもなく声を荒げて、どうしようもない怒りをお兄様とジェイドにぶつけた。

こんなにも感情の制御が利かなくなるのは初めてで、私自身もどうして良いか分からなくなっていた。

怒りのまま言葉をぶちまけた私の問いに、魔女は静かに答えた。


『何も、貴方達は何もしていないわ』

「じゃあ、じゃあ何で、どうして!いきなりやって来て契約書押し付けて10万人寄越せって言って!戦争しようなんて言うんですか!?」

『…』

「あなたがどれだけの力を持っているのかは知りません。けど、あなたがそうするだけで、多くの、ただ目の前にある小さな幸せを求めて日々を暮らす無関係な民が、危険にさらされて、死んでしまうかもしれないんですよ?」


魔女は答えない。

怒りを口にしたからか、段々と制御が利かなかった感情が落ち着いてきた。

あれだけ湧いて出た言葉も、今ではもう出てこない。

私が喋らなくなったところで、魔女が口を開いた。

彼女は落ち着いた声色で、


『私はただ、奪われたから、取り返したいだけ』


その言葉には、私が推し量れないような感情が込められているような気がした。

魔女は続けてこう言う。


『私だって、無害な人を虐殺したい訳じゃない。1か月、時間を与えるわ。出来るだけ多く、軍を動員しなさい』

「出来るだけ多く?」

『ええ、そうよ。もしそれが10万に届かないのであれば、村や町に出向いて帝国民を殺すから』


魔女はそう言うと、その大きな鳥は飛び立ってしまった。

頭が、真っ白になった。

戦争をする事が決まってしまった、その事実が重くのしかかって。


「_ミラ、ナナミラ!」

「あ、お兄様…」


お兄様が肩を強く叩いて、意識がどこか遠くへ飛んでしまっていた私を戻してくれた。

すると、魔女との会話が一気に頭の中をめぐり、我に返った。


「ご、ごめんなさい!私、慎重に対応せねばならない魔女に対してあんな態度を…」


お兄様に頭を下げた後、横に立っていたジェイドにも謝罪した。

2人の言っていた事は正しかったのに、一時の感情任せに怒鳴ってしまった。

今回の事について、責任の取り方について言及しようとした時、お兄様が以外な反応を見せた。


「ナナミラ、ありがとう。正直なところ、俺もムカついていたんだ。お前が代わりに色々言ってくれてすっきりしたよ」

「…え?」


それに便乗してジェイドも、


「そうですよ皇女様!戦争する事にはなってしまいましたがご安心を、我々帝国軍が完膚なきまでに魔女の軍勢を叩きのめしてやりますよ!」


なんだか少し、複雑だ。

私が暴走しなければ、戦争は回避できたかもしれない。

…どのような形であれ責任を取らせて欲しかった。

このまま責任を取らないまま戦争が始まれば、きっと私は皇女という立場にのしかかる罪悪感で押しつぶされてしまうから、そうならない為に。

魔女が去った後、謁見の間近くの小さな部屋で会議が行われた。

そこには先ほどは居なかったお父様も居た。

正面の一際大きいイスに座るお父様の顔色は大変悪く、目の下のはクマが出来ている。

お父様は1週間ほど前から、心労により体調を崩されている。

公務は全て取り止め、休養に徹しておられたが、まだ完治していないようだ。

魔女が来た時に居なかったのはそのせいだろう。


「お父様、お体の方は?」

「もちろん平気だとも、ナナミラ」


口ではそう言っているものの、どうも息遣いが荒いように思える。

お父様に早く休んでほしいので、さっさと会議を始めた。

軍をどう運用し、この事を帝国民に公表する事の是非などについて議論した。

その会議の中盤にて。


「失礼しまーす!」


外に警備兵が立っているはずなのに突如、部屋に2人の男が押し入ってきた。

入り口付近に控えていたジェイドが、その不審者2人に対して剣を抜き、その切っ先を向ける。


「貴様、無礼だぞ」

「ええ、もちろん。この行為が大変無礼である事は承知しておりますとも。その上で、我々は陛下に提言させていただきたく帝国魔法研究所から参りました。私、帝国魔法研究所所長のライルと申します」

「提言?」


警備をしていた兵士だけでなく、会議に集中していた私達皇族も、思わずその眼鏡をかけた男の言葉に耳を傾ける。


「魔女への対抗策に、お困りなのですよね?」

「ああ、確かにそうだが。何かあるのか?」

「ええ、ですがその前に一つ、確認しておきたい事がございます。帝国において、重罪を犯した者は直ちにその人としての権利を停止し、斬首刑に処すとあります。これはつまり、過去に斬首刑に処された罪人に対しては、何をしても良い、という解釈で問題ないという事でしょうか?」


お父様は少し考えた後、首を縦に振った。

男が言った事は帝国法に記載されていることに基づいた解釈だ。

お父様も、首を縦に振るしかなかったのだろう。


「それでは!我々の案を聞いていただこう!我々は、過去の人物、具体的には人々の記憶に今でも残るような人物を一時的に蘇らせ、傀儡のように操る魔法を発見致しました。つきましては、国家転覆を試みた重罪人、エファリア・フランローズを操り、魔女と戦わせ、討伐、それは叶わなくとも、魔女の力を消耗させる事が有効であると提言致します_」

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