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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
終章

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29/47

悪びれもなく

「子供?それは本当ですか?」


私の問いに、老エルフは首肯した。


「正直、アレを子供などとは言いたくありませんがね」


老エルフは少し機嫌を悪くしてそう言った。

私達は魔女の父親である村長に詳しく話を聞くため、彼の家にお邪魔した。

家は随分と質素で、最低限の物しか置いていない。

これは私が皇族だからそう見える、という訳では無く、一般的な視点で見てそうなのだ。

彼はもう老い先短い身であるように見えるし、身辺整理の結果だろうか。


「それで、どうして私達の目的が北の魔女の件だと知っておられたのですか?」

「それは、私の妻の能力で知ったのです。この日にあなた方が魔女について聞く為にやって来ると」

「奥様はどこに?」

「…もう先に旅立ちました。11年も前の事です」


あまり触れてはいけない事に触れてしまったような気がして、言葉に詰まってしまった。

そんな私を見て、老エルフは少し笑いながら話を進める。


「大丈夫ですよ。私はもうとっくに心の整理など出来ておりますから。それで、本題は魔女についてでしたね」

「はい、詳しい事情は言えませんが、私達には情報が必要なのです」


老エルフは、何もない天井を見上げながら深いため息を吐く。


「あまり思い出したくありませんが、皇女様直々に赴かれたのです、私が知っている事はお話したしましょう」

「ありがとうございます」

「皇女様、あなたは亜人地域で伝承と呼ばれているものについてご存じですか?」

「いえ、あまり詳しくは…」


帝国の歴史でも、北の魔女の事と、そういった伝承があるという事だけしか習わないので、詳しい事は分からない。


「ではまず、伝承について_」


【ある心地の良い、晴れた日の事だった。

 エルフの村のとある夫婦が一人の女の子を授かった。

 白銀の髪が特徴的で、驚くべき事にその若苗色の瞳の子は魔法神の加護を両腕に1つずつ、合計2つの加護を持って生まれ、あらゆる魔法をあっという間に身に着けた。

 皆はとても喜び、その子をナルタと名付け、現人神として崇めた。

 実った果実、貴金属、魔獣の肉。

 村人は捧げた。

 代わりに、そのエルフは村に発生した問題を魔法を使って次々解決していった。

 塀と外壁を作って魔獣の侵入を拒み、川から水を引いて生活を豊かにした。

 次第にエルフの数は増え、そのエルフが400歳を超える頃には一つの町と言える程に繁栄した。

 町にはエルフ以外の亜人も多く出入りし、辺りで一番大きな町なった。

 しかしある日、銀髪のエルフの両腕の加護が光り輝き、無差別に魔法を放ち始めた。

 それだけでは無く、銀髪のエルフは魔獣を操り、町へ侵入させて非力なエルフを含めた亜人を皆殺しにした。

 魔法は三日三晩続き、魔法で荒野となったかつての町には魔獣が闊歩していた。

 エルフの数は100人程まで減少し、逃げ延びた先の森で村を興した。

 銀髪のエルフは、育ててはいけない。

 育てれば厄災となって必ず我らに降りかかる。

 あの魔女を、許してはいけない】


「多少かいつまみましたが、大まかにはこのような内容です」

「これは…伝承というよりも、教訓のように思えますね」

「そうです。エルフ以外の亜人達にとっては遠い昔の事なので伝承として伝わっていますが、私の世代のエルフにとっては親世代に起きた出来事なのです」


おそらく、伝承の最後の一文から、銀髪のエルフは魔女と呼ばれるようになったのだろう。


「それでは、北の魔女も魔法神の加護を2つも?」


そばに立っているジェイドが、村長にそう質問した。

村長は首を横に振って、


「いいえ、アレには一つしかありません。少なくとも、生まれた時には」

「そうですか。それで、魔女は、この村でどういった扱いを?」


私は生まれた時の扱いによって、今の魔女の行動に結びついているのかもと思い、質問をした。


「できれば、生まれた直後に殺したかったのですが、我々には数が減った時に出来たいかなる犯罪を犯そうと同族を殺してはいけないという掟がございまして、それは出来ませんでした。それに加えて、成人するまでは村から出してもいけないという掟もございました。ですので、とりあえずカビが生えてしまった食料などを与えておりました。餓死させるのは掟を破ることになりますが、病気で死ぬ分には掟を破った事にはなりませんからな」


白い魂を持った人物から詰まる事なくスラスラと出てくる過去の所業。

不思議とか不気味とか、そんな感情を通り越して、怖くなった。


「でもアレは成人するまで死ななかった。だから成人した瞬間に村の対魔獣結界にアレを拒絶するよう細工をしてから追い出してやったのです。ですがまさか、アレが生き延びてしまうとは。北の魔女の噂を聞いた時、絶望したものです。まだアレは生きているのかと。あの時、掟を破ってでも殺しておくべきでしたな」


出来る事なら今すぐここから逃げ出して、静かな場所でこの世から誰も居なくなるまで寝てしまいたい。

しかしそれを、皇女にのしかかった重い責任が許してはくれない。


「あの、えっと、その」


私がうまく言葉を紡げずにいると、代わりにジェイドが村長と話を進めてくれた。

彼が私のように動揺したり恐怖を感じたりしないのは、相手の魂が見えないからなのだろうか。

それとも、ただ彼の発言に何ら違和感を覚えていないだけだろうか。


「他に何か知っている事はありますか?」

「と、言いますと?」

「例えば、魔女は誰に魔法を教わったか、などですね」


最初から魔法が扱えた場合、魔女が立ち去る際に用いた魔法以外にも、私達人類種が発見していない魔法を扱える可能性が高い。

ジェイドの質問はそういった意図があってのものだろう。


「…アレに魔法を教えたのは亜人種ではない事は分かります。あの髪を見て、そんな事を考える馬鹿は居ませんからな」

「そうですか。他に何か知っている事は?」

「申し訳ない、これ以上の事は…」


ジェイドからも質問が出なくなった所で、村長が一つ思い出したかのように、


「ああ、そういえば、ずいぶんと前に命じられたはぐれエルフの回収はもうじき終わりそうですと、陛下にお伝えください」


村長が言ったその言葉を皮切りに、村での聞き取りは終了した。

私は一足先に馬車に戻り、村のエルフに聞き込みをしていた騎士を戻らせ、その日のうちに帰路についた。

私は、人という生物が分からなくなっていた。

この目は、その魂は、その人が善い人であると示しているのに、出てくる言葉や行動がそれと一致しない。

私は一体、何を判断基準にして、目の前の他人を信じればいいの?


「どうかされましたか?」


ジェイドは私の異変に気付いて心配してくれたのか、声をかけてくれた。


「ジェイドは、村長の事、どう思いましたか?」

「…教育に翻弄された、可哀そうな老人だと、思いました」

「そう、ですか」


教育、か。


「…ジェイドは、悪人じゃないですよね?」


私は心の声を漏らすようにそう聞くと、彼は胸に手を当て、自身満々にこう答えた。


「もちろんです!」


彼の魂は白く、光っている。

私はその言葉を、信じられなかった。

少し前までなら、無条件に信じられていたであろう言葉なのに__


ーー


ナナミラ・イル・サイルの護衛の騎士の一人が、馬に跨りながら通信魔法を発動する。


『こちら、帝国魔法研究所通信部』

『先日そちらの所長から実験対象の件で依頼を受けた者だ』

『ああ、そうでしたか。それで、調査結果の方は?』

『見つけたよ。エルフの村がある森の東部に墓をな』

『誰でしたか?それも一応報告しなきゃなので』

『えーっと確か、”エファリア・フランローズ”だったか』

『それはまた大物を…分かりました、ありがとうございます。報酬は帝都に着いてからという事で。それでは_』

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