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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
終章

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28/47

汚点

「北の魔女、だと?」


私を含め、その場に居た魔女以外の全員が、驚きのあまり言葉を失っていた。

北の魔女。

白銀の髪のエルフで災いをもたらす者、と歴史を習う際、教科書の1ページに描かれており、どうしてわざわざエルフや亜人、一部の人間に忌み嫌われている存在の事を歴史で習うのか不思議に思ったので記憶に残っている。

それに、第8代皇帝との契約と彼女は口にした。

歴史の教科書に北の魔女の項目を入れるよう決めたのはアルシェミラ皇妃のようなので、その頃の帝国と魔女には何か関わりがあったのだろうか。

私がいつもの癖で考えに耽っている間に、魔女が魔法空間から一枚の羊皮紙を取り出し、それを何等かの魔法でお父様の目の前まで飛ばした。


「これは?」


比較的冷静なお兄様がそう問うと、魔女はそれは契約書だと言った。

お父様は恐る恐るその契約書に目を通している。


「こ、こんな条件、飲める訳が…」


今にも消えてしまいそうな小さな声で呟いたお父様をみて、私もその契約書を見ようと立ち上がると、私を制止しようとしたジェイドに腕を掴まれたが、それを振り払って駆け寄った。

私はお父様が手に持っていたその契約書を取って、そばに居たお兄様と一緒に目を通した。

そこには、目を疑いたくなるような事が書いてあった。


【この契約書が使用される未来においてサイル帝国が存在していた場合、帝国民10万人を北の魔女に無条件で差し出す契約を交わした事を、これを以て証明する。   第8代皇帝 アルフレート・イル・サイル】


私は文字通り、頭を抱えた。

サインが彼の自筆のものかは判断のしようが無いが、押されている印鑑が本物である事は分かってしまった。

アルフレート皇帝…!

なんて契約を…

よく見ると、主文の下に小さく【すまない】とだけ書かれていた。

アルフレート皇帝は、一体どんな気持ちでこの契約を結んだのだろうか。

私には、想像できない。

こんな時、誰に判断を仰ぐべきか。

私じゃ経験が足りないし、お父様は冷静を欠いている。

お兄様しかいない。

そう思い隣に立つお兄様の方を向くと、表情は取り繕えておらず、瞳孔が揺れていた。

この事について判断できる者が全員、動揺してまともな判断ができない状態に陥っていたのだ。


「ちょっと、この騎士たちを大人しくさせてくれない?さっきから私の周囲を囲むようにしながら距離を詰めてきて、不愉快なのよ」


目の前の契約書の内容に驚くあまり周りが見えていなかったようで、いつの間にかジェイドを中心に魔女を捕らえようと陣形を組んで迫っていた。


「この契約書は正式な物、つまり彼女は正式な来客だ。帝国騎士たちよ、直ちに剣を収めよ!」


お兄様が騎士らに命令し、剣を収めさせた。

騎士たちは不満そうだったが、契約書が正式な物である以上、彼女を一方的に害する事は許されない。

そういう決まりなのだ。


「それで、どういった日程、方法で引き渡してくれるのかしら?」


騎士たちが全員魔女から離れた時、魔女が追撃するように具体的な履行の方法について私達皇族に質問した。

ジェイドを含む騎士らは魔女に向けて少し離れた位置から剣を向け、私達は必至に思考を巡らせている。

その場は数分間、静寂に包まれた。

後にお兄様がそれを破り、魔女に一つ提案する。


「北の魔女、これは我々にとってあまりにも突然の事ですので、その方法などを検討するお時間をいただけませんか?」

「…当然の要求ね」


その提案について、魔女は理解を示した。

一見、お兄様の言葉からは契約を受ける気がある様に見受けられるが、それはこの場しのぎの嘘だと、私は汲み取った。

ので、私もそれに乗じて魔女に話しかけようと目線をを向けた瞬間、信じられない事象を目にした。

そのせいで、すっかり頭が真っ白になってしまい、二人の会話を聞いている事しか出来なくなった。


「それで、検討する時間としてどのくらい必要なの?」

「そうですね。何せ10万もの帝国民が動く事ですから、そうですね…1か月ほd」

「3週間」


お兄様が1か月と言った直後、魔女が少し圧をかけながら3週間と訂正した。


「…分かりました。では、3週間という事で」

「ええ、お願いね。それじゃあ私はこれで失礼するわ」


そう言った魔女は最後に「3週間後に使いを送るから、その時に方法について、聞かせて頂戴」と言い残し、見た事も無い魔法術式を使い、どこかへ飛び去ってしまった。

それを確認すると、ジェイドが私のそばに駆け寄ってきた。


「皇女様、ご無事ですか⁉」


今まで私は、この目の情報を元に悪人を裁いてきた。

この目の映る魂がその人の善悪であると信じて。

魔女の魂は、10万の民を差し出せなどと言うのだから、当然黒いものと思っていた。

でも、違った。

彼女の魂は、白かった。

もし、魂の色がその人の善悪で決まっているのではなく、もっと別の基準で決まっているのなら_

その考えが浮かんだ途端、呼吸が荒くなり、苦しくなった。

もしかしたら、私は今までに極悪人を善良な人として世に放ってしまったり、全く関係のない善良な人を有罪にして、刑を執行してしまっ_


「皇女様!」


罪悪感に押しつぶされそうになった私を、ジェイドが強く声をかけて思考を止めてくれた。


「ああ、ごめんなさい。私は大丈夫です」

「ご無事で何よりです」


それぞれの騎士が無事と安全を確認すると、お兄様が私とお父様に声をかけ、壁が崩れた謁見の間は危険という事で、別室にて魔女に対する今後の対応について話し合う会議が行われた。

部屋の中はつい先ほど魔女に襲われたばかりという事もあり、いつもより警備の騎士を増員しているため、いつもより窮屈に感じた。


「ナナミラ、大丈夫か?」


部屋を移動する際からずっと黙り込んでいた私を心配してか、お兄様が声をかけてくれた。


「ええ、大丈夫です…」

「そうか、なら良い」


こういう時、お兄様は無理に踏み込んできたりしない。

適切な距離を保って当人が解決するのを待つ。

時と場合によっては悪い方向に働いてしまいそうだが、今はありがたい。


「それでは、会議を始めましょうか。まず、魔女がアルフレート皇帝と交わした契約を履行するかどうかですが…」

「そんな契約、破棄するに決まっているじゃないか!」


お父様が、珍しく大声を出した。

帝国民10万人を差し出す契約について、お兄様が履行する可能性を一瞬でも示唆したからだろうか。


「…分かりました。契約の破棄を魔女に対し宣言した場合、彼女との敵対、彼女が何らかの軍勢を持っていたなら、戦争になる可能性があります」

「軍勢?」

「ええ、南方の亜人地域を回っていた際、魔獣を従える、といった趣旨の伝承を耳にしたので、その可能性も考慮しておいた方が良いでしょう」


そのような内容の話し合いが2時間続いた。

決まった事としては、魔女の契約は破棄する事。

戦争になる場合も考え、軍を動かす準備をしておく事。

魔女がエルフだった事から、何か知っていそうなエルフの村へ、北の魔女の情報収集へ向かう事。


「それで、父上には軍の編成を。ナナミラ、お前にはエルフの村へ行ってもらいたい」

「ああ、承知した」

「分かりました、お兄様。すぐにでも出立致します…ですがここを立つ前に、一つ伝えておかねばならない事があります」


会議で話していると、魔女のせいですっかり頭から抜けていた事を思い出した。

私は昨日捕まえた悪党から引き出した情報を元に推測した事を伝えた。


「穀物の価格上昇はアイゼルド王国の仕業である可能性がある、か。分かった、そちらは契約破棄時の対応を考えるのと並行で、俺が調べておこう」

「お兄様、ありがとうございます。それでは、会議ももう終わりのようなので、私は急ぎエルフの村へ向かいます」


私はそう告げ、ジェイドを連れて部屋を出た。

そしてすぐさまジェイドに馬車を用意させ、1時間もしないうちに彼とその他の騎士数名を引き連れて出発した。

馬車の中にてジェイドが、


「皇女様、エルフの村へ情報収集へ向かうとのことですか、それだけなら私どもだけでも良かったのでは?」


ジェイドの疑問はもっともな物だった。

確かに、普段ならその方が安全だし、そういう任務に慣れた者しかいないからスムーズに進むだろう。

そう、普段なら。


「普段ならそれでもいいのですけど、今回は違います。時間が3週間しか与えられていません。亜人の方達は法律上は帝国民ですが、中には帝国に不満を持っている者もいます。倫理教育がなされたとは言え、今だに差別意識は根強く残っていますからね。もし今騎士だけを送れば、教えてもらえなかったり、嘘を吐かれたりする可能性があります。ですので、亜人の皆さんには申し訳ないですけど、皇族である私が自ら赴き、協力しなかったり嘘を吐いたりすれば何か罰が課せられるのではと思わせて、無理にでも情報を引き出そう、という訳です。正直、あまり乗り気ではありませんが」

「なるほど、そういった理由があったのですね」


3週間しか無い以上、少し強引でもやらなければならない、という事ですよね、お兄様。

帝都から南方にあるエルフの村には2日かけて到着した。

到着した途端、馬車の周囲にエルフたちが集まってきた。

あまり人が出入りしないらしいので、きっと珍しいからなのだろう。

馬車を下りて、騎士の準備が整った事を確認するとジェイドが口を開く。


「我らはサイル帝国の代表としてやって来た!」


その言葉から始まり、建前としての令状を読み上げた。

すると集まっているエルフの中から一人、年老いたエルフが近づいてきた。


「お待ちしておりました。この村の村長をやっておる者です。北の魔女の件でしょう?」


その老エルフは、建前には入っていないはずの、魔女の件について口にした。

このエルフの魂は白い。

悪人ではなさそうだ。

…だけど正直、私は今この目を信じられていないので、悪人ではないという情報を信頼できるものかは怪しい。


「何者だ?何故それを知っている?」


ジェイドがやや高圧的に質問すると、老エルフは少し溜めてから答えた。


「北の魔女は、私の汚点こどもですから_」

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