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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
終章

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北の魔女

時は少し遡り、ルミアが帝都の城を襲撃する3日前。

家の近くの洞窟で、目の前のホワイトベアを愛でていた。

特筆すべき点があるとすれば、背中に特殊な器官が備わっていることだろうか。

以前は完全に食料としか見ていなかったホワイトベアやスノーラビットも、飼い始めると愛着が湧いて可愛らしいと思うようになった。

愛でるのをやめて振り返り、整列された大量のホワイトベアとスノーラビットを見て呟く。


「ごめんね、私の目的の為に利用しちゃって。この借りは必ず、貴方たちの子孫に返すと約束する」


私はアレクが言っていた死の魔力をヒントに研究した。

その結果そもそも死の魔力とは、世界が生物の魂を回収するためのシステムのようなもの。

そしてこの200年で私が見つけ出した方法は、このホワイトベアやスノーラビットで人間を殺し、それらの魔獣に取り付けた特殊な器官で魂を消滅へ導く死の魔力を遮断して魂を回収するというものだった。

誰も苦痛を感じることなく魂を回収する方法を見つけられたら良かったのだが、私では見つけられなかった。

これは完全に私の実力不足だ。

研究を続けるにしても私に後どのくらい時間が残されているか分からない以上、決行するしかない。


「貴方たちの出番がもうすぐ来る。だから、それまで待ってて」


研究している際、あの水晶球の側面にこんな文を見つけた。

『この魔法が二度と行使されませんように。しかし、私のように大切な人を失った人がいたのなら、その人の役に立ちますように。 ナルタ』

このナルタという人物は存じ上げないが、この人もきっと大切な人を失ったのだろう。

ありがとう、ナルタさん。

研究は済んだ。

魔獣たちの準備も出来た。

帝国領土内に拠点となる場所も設置した。

後は、行動に移すだけ。

私は一度家の寝室へと戻り、しまってあったアレクに作ってもらった服を取り出した。

手に持って懐かしい肌触りを感じる。

ただ触って、元の場所に戻した。

これをもう一度着るのは、アレクと再会する時。

まだ、我慢だ。

研究の合間に自分で作った、顔を隠せるフード付きの上着を手に取る。

それまでは、こっちだ。

私は早速家を出る準備をした。

そして、今あるかもわからない帝都へ向けて、飛行魔法で飛び立った。


かつてミミナ村があった場所には広大な農地と一軒の家があるばかりで、他には何もなかった。

ミミナ村と帝都を結ぶ道は街道と呼べるほどに整備されており、他の村に行く人も利用するようで大変賑わっていた。

それに沿ってしばらく南下していると、目の前に帝国旗が掲げられた大きな城塞都市が見えてきた。

間違いない、帝都だ。

帝都の北の検問所は昔よりも一回り大きくなり、検査も魔力の波長を記録する水晶に触れ、記録した波長に犯罪歴が記録されていたなら追い返す、というかなり高度なものになっていた。

帝都に着いた私はとりあえず目に入った本屋に入り、帝国の歴史書を購入した。

人に聞いて回るよりもこういうのを読んだ方が、多少の脚色が入っているものの比較的マシな情報を得られると思ったからだ。

早速本を開き、中の情報に目を通す。


第8代皇帝 アルフレート・イル・サイル

帝国歴381年~466年。

歴代皇帝の中で最も在任歴が長く、帝国の立て直しに奔走した皇帝として知られる。

この頃の帝国は内戦寸前だったため各地に赴いて貴族との面談や、事務作業などが多かったため、帝国民の前に姿をあまり見せなかった。

余談だが、彼が一度過労で倒れた際に、今の労働者保護法の元となる法律が出来た。

歴史学者中には彼の事を過労帝と呼ぶ者も多い。


アイツ、過労で一回倒れたのか…

ざまあみろ。


皇妃 アルシェミラ・イル・サイル

帝国歴386年~466年。

皇妃に就任以降、一度出産の後に隠居するが、帝国歴422年に復帰。

後にその生まれ持った能力で皇帝を支え、今の倫理教育の元となるような、亜人種や加護無しに対する意識改革を試みた。

また、聡明な皇妃であった事でも知られ、今でも子供に名付ける時、彼女から名前の一部を貰う人は多い。


アルシェさんはアルシェさんなりに行動を起こしたようだ。

その意識改革の中に銀髪のエルフが含まれていないのは、私が将来10万の命を奪う事を知っていたからだろうか。

聡明なアルシェさんの事だ、きっと私が計画を行動に移せば、他の種族に向いていた差別意識が銀髪のエルフに集まって、結果的に平和になる、とか考えてやったのかも。

そういえば、アイツ、後継をどうしたのだろうか。

そう思って、第9代皇帝の欄を見る。


第9代皇帝 ハイサント・イル・サイル

帝国歴423年〜490年。

分数しかけていた帝国を一つにまとめ、その隙に領土を得ようとしていた外国勢力に立ち向かった。

優秀な人間を身分問わず臣下に起用し、当時の帝国内の問題をほぼ全て解決した事から、最も優秀であった皇帝と歴史学者に評価されている。


これだけに留まらず、その下に彼の成したことがみっちりと羅列されている。

流石に出生の詳細については書かれていなかった。

帝国の寿命は短いとか言っておきながら、自分の子供が優秀すぎて存続しているじゃん。

賭けは私の勝ちだ、クソ野郎。

勝ち誇った気分で本屋を出ると、向かいの店の看板が目についた。

理由は一つ。

その店の名前に、懐かしさを感じたからだ。


「シェーン商会、か」


その名前を見ると同時に、彼女と交わした言葉が思い起こされる。


『ありがとうございます!これを元に、立派な商会を持てるよう頑張ります!』


シェーン商会の販売店舗がある建物は、かつて訪れたミドラの商会よりも豪勢であった。

歴史書を抱えたまま、私はシェーン商会の販売店舗に足を踏み入れた。


「いらしゃいませー」

「あ、ど、どうも」


店員の声に少しびっくりしつつも、店内に並べられている商品を見てみる。

日用品、本、野菜や肉などの食料品まで。

そろっていない物の方が少ないのではないかと思わせる程、色々なものが取り揃えられていた。

その中に一つ、ショーケースに入れられた一枚の布切れが目に入った。

値札が付いていないので、商品というわけでもなさそうだ。

布の中央に刻まれている刻印を見た瞬間、思い出した。

これは、シェーンにあげた、保存魔法の刻印だ。

少しその周りを歩いてみると、丁度反対側に説明書きを見つけた。


保存魔法の原本

これは初代会長シェーンが通りすがりの魔法使いに貰ったとされる、今流通している全ての保存魔法の原本。

これにより、初代会長は肉や海産物などの生物の流通に革命を起こし、帝都でも新鮮な状態の生物が食べられるようになった。

今となっては、魔法品としての価値は無いが、シェーン商会発展のシンボルとなっている。


別に感動とか、後悔はしていない。

だけど少し、200年という時の長さを改めて実感しただけ。

店を出ようとしたが、これだけ店内にいたのに何も購入せずに出るのは失礼かなと思い、200年前にミドラから貰ったお金で、魔力を流すと水が生成される魔法の水瓶を購入してから、店を後にした。

後は城に向かうだけ、なのだが、その前に行きたい所がある。

かつて、アルシェさんとアレクが過ごした家のあった場所だ。

200年も経っていれば道を忘れていそうだったが、以外にも、私は覚えていた。

少し綺麗になった冒険者協会を通り過ぎ、200年前にパン屋があったであろう場所で角を曲がる。

結果から言うと、その家があった場所には別の建物が建っていた。

当然だ。

寧ろあんなボロボロの家、早々に取り壊されて然るべきと言える。

なんとなくその建物をボーっと見ていると、通りすがりの男にコートを引っ張られ、男めがけて飛んできている見た事の無い魔法に向けて突き出された。

正直、何が起こったのか、正確に把握できていた訳ではない。

200年前の私だったなら、そのまま何も出来ずに魔法を食らっていたと思う。

このいきなりの事に反射的に対処できたのは、柄にもなく魔法の鍛錬というものを200年間していたからだ。

飛んできた魔法には防御魔法を、男には捕縛魔法を使った。

それから間もなくして、何らかの制服と思しき服を着用した、金髪が特徴的な少女が駆けてきた。

そのそばには護衛の騎士が居て、魔法の練度的にかなりの時間をかけて学んでいるようなので、どこかの貴族の娘とかだろう。

その子とは、私に魔法を当てた代わりにその電撃魔法とやらを教えてもらった後、騎士に怪しまれているように感じたのでその場から立ち去った。


「部屋、空いているかしら」

「ああ、空いてるよ。1泊15サイルだ」


私は今、宿屋にいる。

城に行かなかったのは、行く先々で想像以上に時間を消費してしまっていたからだ。

提示された料金を支払い、私は部屋でベッドに横たわった。

別にふかふかという訳ではないが、心地よく感じている。

どうやら思っているよりも疲れているようだ。

そうしていると段々と眠気が襲ってきたので、私は抵抗する事なく眠りに落ちた。


目を覚ますと、部屋に設置されてある時計が午前5時を指していた。

早寝すぎたし、まぁ当然か。

結局夕食も食べずに寝てしまったので、何か朝食をと思ったのだか、早朝なのでどこの店も開いていない事に気づき、ベッドから立ち上がる事をやめた。

今代の皇帝と会ったら、どうやって契約を飲ませるかでも考えておくか…

備え付けの鏡と魔法で身支度を整えつつ、それを考えていると3時間時間を潰す事に成功した。

この時間、パン屋なら開いているかも。

昨日、宿屋に来る道中にパン屋を見かけたので、フードでしっかりと隠せているか確認してから宿屋を出た。

そのパン屋は特に装飾を施すでもなく、ただ扉の前に営業中とあるだけだった。


「いらっしゃいませ」


私は城に行った後、すぐ帝都を離れなければならない事を考えて、朝食分に加えていくつかパンを購入した。

このパン屋は中で購入したパンを食べる事ができるようだったので、店内で朝食を済ませた。

店を出て、城に近づくにつれ喉の奥が胃液でピリピリとしてきたので、昨日買った魔法の水瓶の水を流し込んだ。

私はその後も、城の周辺を無意味に歩いてみたり、用も無いのに付近の店に立ち寄ったりして、計画を決行しかねていた。

こうして最初の1歩を踏み出せるその時が来ているのに、ずっと足踏みをしてしまう。

200年という時間は、準備をするには十分な時間だったが、決めた覚悟を固めるのには少し足りなかったようだ。

結局、3時間ほど足踏みをして、私はやる覚悟を固めた。

飛行魔法で飛び立ち、衛兵が見るはずもない空から城に侵入した。

そして探知魔法で城内部の人間の位置を把握し、おそらく謁見の間であろう場所を見つけた。

そこの壁に触れ、中の人間を傷つけないよう、最低限の威力で魔法を放つ。


【術式加算 風魔法 風弾ウインドショット×2】


壁が崩れ、私はそこへ着地する。


「誰だ、貴様!」


騎士が一人、私に向かってそう威嚇してきたが、明らかに皇帝ではないので無視する。

騎士に守られている人物が3人。

その中でもより多くの騎士に守られている人物に声をかける。


「貴方が、今代の皇帝?」


男は、少し震えた声で答える。


「あ、ああ、そうだが…」


冷たい声色で言えるよう、深呼吸してからフードを外して口を開く。


「私は、北の魔女。第8代アルフレート・イル・サイルとの契約を果たしてもらいに来たわ_」

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