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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
変章

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21/47

アレクの為なら

「元、皇妃?」


アレクから話を聞いていた事もあり、この人には何か秘密があると思っていた。

だが、それがこれほどまでに重く、必死に隠さなければならない物だとは考えもししなかった。

アルシェさんが元皇妃。

つまりアレクは…


「アレクは、あの子は、サイル帝国の元皇太子、アレクライト・イル・サイルよ」

「…その事をアレクは?」

「あの子がまだ1歳の時にここに来たもの。覚えていないはずだし、私は伝えてないわ。だからあの子は知らなかったはずよ」


じゃあつまり、アレクは訳も分からないまま騎士に襲われ続けていたって事?

そんなの、アレクが可哀そう。


「…どうして、伝えなかったんですか?」

「贅沢な暮らしから今の貧しい生活になったと知るより、最初から貧しい家庭だと状況を受け入れる方が、あの子の気が楽だと思ったからよ」

「そう、ですけど…」


アルシェさんが100%善意でそうしていた事が伝わってきたので、少し文句を言ってやろうという気も失せた。

そしてふと、前々から気になっていた事を思い出したので、アルシェさんに質問した。


「アルシェさんが元皇妃だったのは分かりましたけど、どうしてそんな人が花に刻印を刻む方法を知っているんですか?」


アレクがこの髪飾りをくれた時、彼はその技術を母から教わったと言っていた。

それは元皇妃だから、では説明になっていない。

何か別の理由があるはずだ。


「話せば長くなるのだけど…そうね、簡単に説明すると、親しかった帝国魔法研究所の研究者が居たのだけれど、その人が私に花に刻印する方法を教えてくれたのよ」

「なるほど」


それなら納得がいく。

研究者が教えたものなら、200年前の知識で止まっている私の知らない技術を知っていても不思議じゃない。


「その人が言うには、魔法術式の刻印は、それ単体でも効果の発動が可能らしいの」

「単体でも?」


どれほどの効果を持たせた術式を発動させられるかは、それが刻まれた素材に依存する。

例えば、私の家の外壁の素材は、保存魔法を刻めば発動する事が可能だが、凍結魔法追尾氷槍などのレベルの高い魔法を刻むと爆発してしまう。

それが私の魔法術式の刻印の知識だ。


「ええ、術式を刻む物体を完全に魔力から隔離してから刻印を刻めば、理論上どんな素材でも全ての刻印を刻む事ができるそうよ」


思わぬ所から以外な知識を得る事ができた。

家に帰ったら早速試さないと。

その後も少し、その事についてアルシェさんが知っている限りの事を教えてもらった。


「そもそもの話なんですけど、どうして皇妃だった人がこんな所に居るんですか?」


私はふと思い浮かんだ疑問をアルシェさんに投げかけた。

彼女は記憶を辿っていくように、少しずつその理由を話し始めた。


「私は帝都に住居を構える、皇族の次くらいに権力を持ったアインベルズという貴族の家に生まれたの。両親は優しくて、何でも出来る天才の兄と、努力家の弟が居た。私、とっても幸せだったの。でも、私が成人する少し前に、皇太子、今の皇帝の婚約者だとそこで初めて知らされたわ。まぁ、しっかりとした後継ぎが居る家だったから、誰かと政略結婚させられるのは想定内だったけれど、まさか皇太子と政略結婚させられるなんて、その頃の私は思いもしていなかった」


彼女の語る話が進むにつれ、言葉の途中で思い出す時間が無くなり段々と話が速くなってきた。


「初めてあの人と顔を合わせたのは、婚約を発表するために開かれた舞踏会だった。あの人を初めて会った時、私は、なんていい加減な男なんだろうと思ったの」

「いい加減?」

「ええ、そうなの。あの人は将来の皇帝には思えないくらいいい加減で、失礼な人だった。初対面の私に向かって思ってたより背が小さいな、とか言うくらいにはね」


彼女は文句を言っている割に、とても楽しそうな表情をしていた。

一体何が楽しいのか、私には分からなかった。


「結婚してしばらくの間、私が様々な雑務をこなして、彼が公務と最終的な判断を下すという生活を送っていたの。そうしていると段々ね、分かってきたのよ。彼がただ不器用な人なんだって」

「は、はぁ…」


何故皇族を追い出されたかを聞いたつもりなのに、いつの間にかアルシェさんの惚気話を私は聞かされている。

私はどういう顔で聞いていれば良いのだろうか…

私は反応に困ったのでとりあえず彼女の話が落ち着くまで待っていると、自分が若干暴走していた事に気づいたアルシェさんはコホンと咳払いをして、話の話題を元に戻した。


「ご、ごめんなさい。えぇっと、私が皇妃をやめてこんな所に居る理由だったわよね?」

「は、はい、そうです」

「簡単に言うと、私があの子を産んだからよ」

「アレクを?」

「ええ、少し嫌な言い方をすると、加護無しを皇族から出してしまったからなの」


一族から加護無しを出した罪で追放される。

ありきたりで、容易に想像できる話だった。


「でもこの追放は、私とアレクを追い出すために取られたものではないの」

「…どういう事ですか?」

「皇帝は私とアレクを守るために私達を、こんな場所に隔離したのよ」


アルシェさんはとても簡潔に事の詳細を説明した。

当時、帝国内では反皇帝派と呼ばれる貴族達がその勢力を拡大していた。

皇帝派は弱みを作らないよう、半皇帝派に弱みを知られないよう慎重に立ち回っていたらしい。

そんな中、アレクが生まれた。

アルシェさんは加護無しである事を隠して育てるつもりだったそうだが、もし皇太子が加護無しだと反皇帝派に知られれば大きな弱みを握られる事になり、最悪の場合、忌み子とその生みの親として磔にされる可能性すらあったそう。

それほどまでに反皇帝派が力を付けていたのだ。

皇帝はそれを避けるために、アルシェさんとアレクを皇族から遠ざける適当な理由を考えていた時、アルシェさんが衰弱病に罹患した。

突然アルシェさんに余命が宣告されたようなもので、これ以上無い不運だった。

が、好都合でもあった。

皇帝はアルシェさんとアレクを衰弱病罹患の為、その地位及び権限の大部分を停止して隔離、と公表した。

そうしてアルシェさんとアレクは、この家にやって来た。


「それじゃあアルシェさん、まだ皇妃の地位とか剥奪されていないんですか?」

「まぁそういう事になるわね」

「それって、今戻れば皇妃に戻れるんじゃないですか?」


シェーンに聞いたところによると、皇帝は皇妃が姿を見せなくなった後も誰一人として女性との関係を持っていないらしい。

衰弱病が治った今、彼女が戻らない理由は無いだろう。


「それは出来ないわ。だってあの人が実子を殺す、という判断をしたのはきっとどこからか私達の情報が洩れて、反皇帝派の貴族達がアレクを人質に、あるいは皇帝の実子が加護無しである事を公表して皇帝への不満を民に抱かせるでしょうね。そうなれば帝政への反発が強くなり、現在の統治制度が脅かされる、なんて可能性があるもの」


妙に細かい説明を聞いて思った。


「それは、聞いたんですか?」

「ええ、そうよ」


アルシェさんは私の問いに、間髪入れず答えた。

少し経ってから、おかしいと思った。

あまりに自然に言ったものだから、私もそれを当たり前の事として受け入れてしまっていた。


「アルシェさん、帝政が大きく乱されるからって、自分の子供を殺すのは良いんですか?」

「あの子がまだ12歳くらいの頃、反皇帝派の一部の貴族に正体がバレてからずっと刺客を送られてきたもの。覚悟は出来ていたわ」

「それじゃあつまり、皇帝が殺すために送って来た騎士は、北の大陸に来た奴らだけって事ですか?」

「ええ、そうよ。情報を付け足すなら、北の大陸の調査依頼を出したのも、皇帝でしょうね。北の大陸に送っても死ななかったから、騎士を送った、という感じかしら」


ここにきてしれっと新事実が判明した。

私はてっきり、昔からアレク殺害を目論んでいたものかと思っていた。


「じゃあアルシェさんは、アレクが死んでも、何とも思っていないんですか?」

「もちろんあの子が死んでとても悲しいけれど、仕方ない事だと思うわ」


アルシェさんは表情一つ変えずそう言った。

聞き間違いでなければ彼女は今、自分の息子が殺された事を仕方ないと言った。

私は思わず少し声色を強めて聞き返した。


「仕方ない?仕方ないって何ですか?」

「帝政が乱れれば、今の状況的に内戦だってありえるわ。一人を殺して内戦を防ぐのと、放っておいた実子が貴族に酷い目にあわされた上、内戦が起きて大勢の死人が出るの。どっちを取るかなんて決まってるじゃない」


私はそれに反論出来なかった。

なぜなら彼女が、何一つ間違った事を言っていなかったからだ。


「人をただの数として数え、より合理的な選択肢を取る。悲しいけれど、それが国という集団なの」


アルシェさんの言っている事は正しく、決して私に理解出来る事ではなかった。


「やっぱりアルシェさん、皇妃に戻った方が良いですよ。そんな考え方が許されるのはそういう立場の人だけですから」


そう皮肉っぽく言ってしまったが、彼女は何ら気に留める事無く会話を続けた。


「ふふ、それもそうね。それでルミアさん、あなたはこれからどうするの?」

「私は、アルシェさんが完全に回復したのを確認したら北の大陸へ帰ろうと思ってます」

「そう、良かったわ」

「良かった?」

「ええ、ルミアさんに皇帝があの子を殺したって伝えたら、魔女として帝国と敵対してしまうんじゃないかと心配していたの」

「はは、私にそんな力はありませんよ。私に出来るのはせいぜい城一つ吹き飛ばすくらいです」

「…安心するのはまだ早いみたいね」

「私、そんな事しませんよ」


そう、私は別に全ての人間が嫌いという訳では無いのだから、そんな事をしようとは思わない。

必要に迫られればするかもだけど。

大体、私に帝国と敵対出来るくらいの力があるなら、私はアレクを生き返らせ_

そう思った瞬間、私にある考えが浮かんだ。


「ルミアさん、どうかしたの?」


アルシェさんが急に喋らなくなった私を心配して声をかけてくれたが、私はそれを無視してひたすらその考えがどうすれば実現できるのかを考え続けた。

それから少し経ち、一つアルシェさんに質問した。


「もし、アレクを生き返らせる方法があったら、それがどんな方法であれアルシェさんは実行しますか?」


突然そう聞かれた彼女は少し考え、はっきり「ええ、帝国を揺るがしかねない方法で無ければ」と答えた。


「その帝国は、今の帝国という意味ですか?100年、200年後の帝国ではなく」

「…ええ、そうね。そんな先だと帝国が残っているかどうかも分からないもの」

「ならアルシェさんは、私が未来の帝国に何をしようと、咎めないという認識で良いんですね?」

「どういう事かしら」


花畑の地下にある魔生石に刻まれた術式。

見つけた時は費用対効果が釣り合ってなさ過ぎて、何の為にそんな魔法が作られたのか分からなかった。

けど、今なら分かる。

きっとそれは、私と同じように大切な誰かを亡くした人が必死にその人を求めたからなのだろう。


「アルシェさん。私は、10万の人の魂と引き換えに一人を生き返らせる術式が刻まれた魔生石を持っています」


私がそう言うと、アルシェさんは机に強く手を突いて立ち上がった。

足に当たって倒れたイスなど気に留めず、彼女はただ私と目を合わせた。


「あの子が生き返る可能性があるのは嬉しい、嬉しいけれど、あなたのさっきの質問と、今話してくれた術式とやらの性能から察するに…ルミアさん、あなた、帝国国民10万人を殺す気?」

「はい、そうですね。まぁ魂を集める方法を見つけないといけないので、数百年先の事ですけど」


私がその質問にスッと答えると、彼女は深いため息を吐いた。


「ルミアさん、それは本気?」

「はい、本気です。アルシェさんは良いんですか?私を止めるなら今しかないですよ」

「…止めないわ。というか、私が止めてもあなたはやるのでしょう?」

「そんなの、当たり前じゃないですか」


ほんと私って、歪んでる。

私の答えを聞いて彼女は再度深いため息を吐き、天井を仰ぎ見る。


「あの子のためにやると言うのだから、強く止めはしないわ」

「それなら一つ、教えてほしい事があるんです」

「…何?」

「皇帝に会うには、どうすれば良いですか?」


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