表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
始章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/16

出会い2

男がこの家を出て行ってから2分が経過した。

私は今、もっと時間が経過しているんじゃないかと思えるような錯覚を起こしている。

ただ、時計が2分だと、そう言っているのだ。

ドアの前をうろついてみたりして、どうにか心を落ち着かせようとする。

だがいくらそうしたところで、私の心が落ち着く事は無い。

ああ、もう!

なんで私がこんな事!

私はドアを開けて吹雪の中男を追いかける。

男の位置は追跡魔法で確認できる。

この身を凍てつかせるような極寒は保存魔法の応用で軽減できる。

それでも、あくまで軽減できるだけで完全な防寒にはならない。

普通に寒い。

飛行魔法で空を飛び男の反応がある場所へ向かう。

彼はまだ近くにいるようで、移動速度も非常にゆっくりだ。

すぐに彼の近くまで来られた。

魔法では大まかな位置しか分からない。

この吹雪の中では空から地上の様子が見えないため、飛行魔法を解除して探索する。

非常に視界が悪い中男が歩いた後と思われる足跡を発見した。

北の大陸では生物の足跡はものの数分できれいさっぱり無くなってしまう。

まだこれがあるという事は、アイツがまだ近くにいるということ。

見つけなきゃ。

私は歩く度に沈む足を必死に動かして進んでいく。

すると前方にあの男がいるのを確認できた。

私よりも遅いスピードで歩いている。


「ちょっと、待ちなさい!」


精一杯声を張るが、ここ200年間ほとんど喋っていなかったせいであまり声量が出なかった。

再度、あのボロボロの衣服と壊れた魔道具だけ持って出て行った男に声をかける。

そうしてやっと、彼は私に気づいた。

男は迷う事無く踵を返す。

私が急いで彼に駆け寄ろうとすると、躓いて積雪に埋もれてしまった。


「随分と寒そうだが、大丈夫か?」


男はそう言って私に手を差し延べる。


「大丈夫じゃない!家を出てからずっと寒くて、体が冷えて凍えそう。これも全て貴方のせいよ!」

「お、俺のせい?」


彼の赤くなった冷たい手を取って起き上がり、服に付いた雪を払う。


「そうよ!貴方がそんな装備で依頼を続行するなんて言うから_」

「俺が死ぬんじゃないかって心配してくれたのか?」

「馬っ鹿じゃないの!?そんな訳無いじゃない!ただ顔見知りが家の近くで死んでたら目覚めが悪いってだけよ!」


私はそう言葉を一方的に押しつけ、男に浮遊魔法、自分に飛行魔法を付与して早々にその場を飛び去った。

空を飛んでいる時、男が何か言っているような気がしたが、強く吹き付ける雪交じりの風のせいでよく聞こえなかった。

30秒程で帰宅し、私は男を暖炉前に放り投げた。


「痛ってェ!」

「貴方、北の寒さを舐めてるの?そんな装備で生き残れると本気で思ってるの?死ぬ気なの?ねぇどうなのよ?」

「そんなに詰問しなくても十分反省してるし、心配かけて申し訳ないと思ってる」

「心配ぃ?そんなもの私はしてない!」


なんだかとてもむしゃくしゃしたので、暖炉前に投げられて尻餅をついている男の横腹を蹴った。


「理不尽だ…」

「理不尽?この程度で済んだことに感謝するべきでしょう?」

「この程度…」

「私、その気になれば貴方を粉微塵にすることだってできるのよ?」


男は私の蹴った横腹をさすりながら立ち上がる。


「それは、凄いな」

「私は魔女よ?そのくらいできて当然だわ」

「魔女…?」


つい流れで言ってしまった。

まぁどうせいつかバレた事だし、私から自白した方が幾分か印象が良いでしょう、きっと。

今までに私が魔女だと知った者は例外無く恐れ、ある者は逃げ出し、ある者は私を追い出した。

きっとこの男もそうする。

…言わなければ良かった。

目の前の男は私の予想と裏腹に、私を鼻で笑った。


「君みたいなちょっと魔法が使えるだけのかわいらしい女性が?」

「ちょっとって...私、その気になれば山一つ消せるのよ!?」

「ははは、面白い冗談だな」


何なのこの男。

私が魔法を行使するところを見たよね?


「冗談で言ったつもりは無いのだけれど。一般的な感覚を持つ人間なら、相手の魔力量が本能的にわかるはずよ」

「ああ、それ、俺には無いんだ」

「無い?それはどういう事?」


男は服の袖をまくってその少し寒さで赤みがかった右腕を私に見せた。


「言っただろ?俺は帝国でも有名な冒険者だったって。もちろん、悪い意味でだが」


無い。

紋章が、無い。

この男には、人類種なら誰もが持っている魔法神の加護が無い。


「俺はこの世に、魔法神の加護を持たずに生まれてきた。俺には魔力が無いんだ。だから他人の魔力量もわからない。魔女さんがいくら俺を怖がらせようとしても無駄なんだ」

「怖がらせようとしてる?私が?」

「無意識にかもしれないけどな」


男は立ち上がり言葉を続ける。


「君程長く生きてる訳じゃ無いが、ある程度わかるんだ。魔女さん、あんた俺と同じ、嫌われ者だろ?だからわざと嫌われたり、恐れられるような事をしたりして、自分に降りかかる差別に巻き込まないようにしてるんじゃないのか?」

「ち、違う。私は」

「仮にそうじゃなくて、単に俺を脅かしたいだけだとしても俺には効かねぇ。俺に魔力は感じられない。加えて、俺はもうとっくに差別されてる。俺が魔女さんと一緒に居たって何も変わりはしないぞ」


怖がらせようとしてる?

巻き込まないようにしている?

何それ。


「ムカつく」


私はそう吐き捨てて男から逃げるように書斎へ入った。

ドアの鍵を閉め、部屋の角にある本棚から本を取り出す時の踏み台用のイスに腰かけた。

何なのアイツ。

私の何を知っているというの?

生意気。

そば置いてあった本と手に取り、適当なページを開いて顔に被せ深呼吸する。

今、ここ200年で一番感情が昂っている。

落ち着け、私。

彼の言う事は、被差別者であるという点は間違っていない。


今から250年程前、私は南方にあるエルフの村に、村長の娘として生まれた。

生まれた時は村中のエルフが祝福した、私の髪色が白銀に変化するまでは。

エルフの村には昔から伝わる伝承があった。


『その昔、エルフの村に白銀の髪を持つ者が生まれた、普通一つしかない魔法神の加護の紋章を2つ持って。彼女は皆の寵愛を受け順調に育ち、やがて村中のエルフに現人神として崇められるようになった。しかしある日、白銀の少女の様子が急変した。両方の腕に刻まれた二つの紋章が光り輝き、同時に魔法をいくつも操り、辺り全てを無差別に攻撃した。同時に多くの魔獣を従え、周囲の村々を襲わせた。それは三日三晩続き、辺りは焦土と化した』


伝承の内容としては、大体こんなものだ。

この伝承のせいで、白銀髪のエルフは魔女として恐れられている。

私は確かに白銀の髪で生まれてきた。

でも、魔法神の加護の紋章はみんなと同じ、1つ。

瞳の色だってきっと違う。

なのに世界《彼ら》は、私を悪魔の子として迫害した。

私が一体何をしたというの___

そんなもうとっくに忘れようと決めたはずの過去を思い出しながら、私は眠りに落ちた。


『ほら、今日の飯だ』


冷ややかな声色でそう言った男は、私の目の前に青い斑点の付いたパンを、薄汚れた器にのせて放り投げた。

私はそれを拾い、男に感謝の言葉を述べる。


『ありがとう、おとーさん』


それを聞いた男は目に見えて機嫌が悪くなった。

男はその腹いせなのか速足で私に近づき、地べたに座る私に踏みつけるようにして数発蹴りを入れた。


『痛い、痛いよおとーさん。私何か悪いことした?』


『二度と、俺をお父さんなどと呼ぶな_』




「あれ、私いつの間に...」


どれだけ寝たかわからない程深く眠った私を起こしたのは、ドア越しに漂ってきた食欲を刺激する良い香りだった。

窓の外を見ても吹雪が吹き付けるばかりで、時間を推測する事は困難だ。

お腹がとても空いているし、いつも昼食を食べるぐらいの時間かしら?

...それにしても、良い匂いね。

また、アイツが料理しているのかしら。

書斎を出てキッチンを覗き見ると、やはりあの男が昨日のように料理をしていた。

美味しそう。


「よう、魔女さん。機嫌は直してくれたのか?」


隠れて見ていたつもりだったが、気づかれてしまった。


「そんな訳ないでしょ。まだムカつくわ。だから詫びとしてその料理を寄越しなさい!それで機嫌を直してあげる」

「そう言うと思って、魔女さんの分も作ってあるよ」

「なっ...ああ、もう!ホントそういうとこムカつく!」


なんなのこの男!

さっきから私の心も、過去も、見透かして!

ホントムカつく!


「もうすぐできるから、魔女さんは椅子にでも座って待ってな」

「…早くしてよね」

「へいへい」


彼に言われた通りそばの椅子に座って待つ。

それから1分ほどで料理が完成した。

彼はそれをすぐさま2つの皿に盛り、テーブルへと運んだ。

これは昨日の塩で味を付けただけの炒め物とは違い、地下で栽培していた植物から作った調味料で味を付けたスープだ。

互いに言葉を交わす事も無く、黙々と料理を口に運ぶ。

残りが半分近くになった頃、男が口を開いた。


「魔女さん、俺は結局、ここに居て良いって事なのか?」

「ええ、良いわよ」

「そうか、感謝する。だが、いつまでもここにいる訳にはいかない。俺は、帰らなくちゃいけないんだ」

「私だって貴方をいつまでも居候させるつもりは無いわよ」

「ははは、確かにそうだ」


でも、彼の言う通り、彼をここから帰す方法を考えなきゃいけない。

現状、彼はボロボロの衣服と衣服と壊れた魔道具しか持っていない。

衣服はどうしようも無いけど、魔道具なら...


「ねぇ、ちょっと魔道具貸して」


私がそう要求すると彼はポケットから壊れた魔道具を取り出し、私に手渡した。

それをよく観察すると、魔道具の動力となる魔石の破損と、その周りを囲う魔法陣が刻まれた鉄板の歪曲が目立った。

その他の事は分解してみないとわからないけど、壊れた主な原因はその2つでしょうね。


「うん、これなら直せそうね」

「直せるのか?」

「もちろん。ただかなり時間を要するわ」

「どのくらいだ?魔女さん」

「できるだけ急ぐけれど、早くても1ヶ月はかかると思うわ」


それを聞いた彼は帰れる目処が立って安心したようだった。


「ありがとう、魔女さん」

「このくらい良いわよ。それと、私の名前は魔女じゃくてルミアよ」

「そう言えば互いに名前すら名乗って無かったな。俺の名前はアレクだ。よろしくな、ルミア」

「これから私の食事番として働いて貰うから、覚悟してよね、アレク」


こうして私とアレクの、奇妙な共同生活が始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ