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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
変章

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18/47

邂逅

シェーンから聞いた話によると、帝国以外の国では検問の際、厳しい持ち物検査などを行うらしいのだが、帝都ではそういった厳しい検査は行われていない。

不用心だと思ったが、帝国がその治安と有事の際の軍による制圧力に自信を持っている事の現れなんだそう。

いくら自信があるからといって警戒を怠るのはどうかと思うけど、まぁそれが帝国人の民族性なのでしょう。

その緩さと治安が、帝国内のみならず諸外国から沢山の商人を呼び込んでいる。

そのため、検問所は常に混雑している。


「でもエファさんはラッキーですね。今日はいつもより人が少ないです」

「え、これで?」


私達は検問所の前に出来ていた長蛇の列に並び、2時間が経過していた。

並び始めた時はせいぜい300人規模の列だったのが、今では500人規模になっている。

2時間経って、私達はようやく列の前の方、後40人で順番が回ってくるところまで来た。

連日の疲れもあってか、膝の関節が痛くなってきた。

強化魔法で強化しているとはいえ、普段歩きもしない私の足に限界が来たようだ。

少しの間片足だけで立ってみたり、曲げ伸ばししてみたりしてどうにか痛みを軽減できないか試してみる。

結局、そんなことをしても気休めにしかならず、私の膝関節は痛いままだった。

元が弱いと強化魔法の効きが悪くなるし、少しは運動した方が良いのかも。

治癒魔法を使えば痛くなくなるかもしれないけど、治癒魔法は対象の体力を消耗して回復させるから、物凄く疲れるのよね。

そういえば、アレクは治癒魔法をかけられてもちっとも疲れてなかったっけ。

こういうふとした瞬間に彼の事を思い出すと、私は彼に依存しかけていたんだなと感じさせられる。

…人間を見下しているくせに、私も人間と大して変わらないじゃない。


「エファさん、どうしたんですか、ボーっとして。私達の番が回ってきましたよ」

「あ、ごめんなさい。すぐに行くわ」


牽引魔法で馬車を引っ張り、検問所をくぐった。

その際、出身地と帝都に来た目的は聞かれたが、それだけで検問を通過する事ができた。

こんなにも検問が緩い理由の一つに、帝国には明確な敵国というものが存在していないから、というのもあるだろう。

それでもこの緩さはおかしいと思うけど。


「エファさん、この後はどうされるんですか?というか、エファさんは何のために帝都へ?」


馬車をシェーンがよくお世話になっているという商会の前まで運ぶと、彼女にそう聞かれた。

正直、どうするかなんて考えていなかった。

アレクの母を助けるという事しか決めてこなかったからだ。

馬車から無事だった荷物を下ろしている彼女を手伝いながら、私はそれに答えた。


「私はある人を探しに来たの。正直どうやって探せばいいか分からないのだけど、とりあえずこれから人のいる所へ行って、聞き込みでもしようかと思っているわ」

「なら!ここの商会長に会ってみませんか?」

「商会長に?」

「はい!ここの商会長、ミドラさんっていうんですけど、ミドラさんここで商会を営んで長いから、きっと帝都の人はある程度知ってると思うんです。どうですか?」


商会長、ミドラ。

どんな人物か分からないけど、アレクが自分は帝都で有名みたいな話をしていたし、その母の事も何か知っているかも。

それに、シェーンが他人に紹介するくらい信頼を寄せているから、悪い人間ではなさそうだ。


「シェーン、その人に会ってみるわ。案内、お願いできる?」


私がそう答えると、彼女は嬉々として私の手を引いて、商会の中へ私を案内した。

商会の中は所謂お金持ちの豪邸のような装いで、その装飾品一つ一つに金が施されていた。

商会、と言うから、もっと人が居るものかと思っていたが、今のところ私とシェーン以外に、使用人らしき人としかすれ違っていない。

ここは本当に商会なのだろうか。

しばらく中を練り歩いた後、一際大きな扉にたどり着いた。


「着きました!ここがミドラさんのお部屋です。エファさん、ちょっと待っててくださいね」

「ええ、分かったわ」


シェーンは一足先に大きな扉の部屋に入った。

おそらくミドラとやらに私が来ている事を知らせるためだろう。

少しして、中から「もう入っても大丈夫ですよ!」とシェーンさんが私に呼びかける声が聞こえた。

一応の礼儀として、3回ノックをしてから扉を開けて中に入った。


「シェーンから聞きました。彼女を助けていただいたそうですね。ありがとうございました」


部屋に入るとシェーンのそばに立っていた男に開口一番、感謝を述べられた。


「別に100パーセント善意で助けた訳ではないから、感謝する必要は無いわ」


男の懐に一瞬金袋が見えたので、そう丁寧にお礼をお断りしたのだが、「それでも、命を救っていただいた事には変わりありませんから」と私にその金袋を押し付けた。

帝都の情報を聞くためにシェーンを助けたのに、そのお礼としてお金を貰うのはいい気分ではないけど、もう手に持ってしまったし、ありがたく受け取っておこう。


「それでエファさん、人を探しておられると聞きました」

「ええ、そうよ」


私が北の大地から来た事や魔女と呼ばれている者である事が知られてはいけないので、ここからは慎重に伝える情報を選ばなければならない。

そうして数秒間、何を伝えるか考えていると、ミドラの表情が次第に変わり、神妙な面持ちへと変化した。

そして彼はそばに居たシェーンに話しかけた。


「シェーンさん。エファさんと大事なお話がしたいので、少し席を外していただけませんか?」


大事なお話?

まだ何も言っていないのに、どうかしたのだろうか。

一瞬、私が北の魔女だとバレてしまったのではと思ったが、耳はしっかりフードで隠しているし、紺碧の瞳もフードの陰で暗い藍色に見えているはずなので、バレる可能性は低い。

シェーンもまさかそう言われるとは思っていなかったようで、少し驚きながらも彼のお願いを受け入れた。


「え、あ、はい、わかりました。じゃあ外で待っておきますね」

「ええ、お願いします」


ミドラはシェーンが部屋の外に出て、扉を完全に閉めたのを確認してから口を開いた。


「魔女なんて、エルフ達の与太話だとばかり思っていたのですがね…」


その言葉を聞いてすぐ、私は術式を構築して凍結魔法、氷槍を展開した。

どうしてバレた?

どこからもその情報は漏れていないはずだし、そもそも私は漏らしていない。

ミドラは私のその焦りに答えるようにただ一言。


「そういう能力を持っているのですよ、私は」


私も能力持ちだというのに、能力によって看破される可能性を考えていなかった。

私が、知られてしまった以上、最悪の場合ここでこの男を、と考えた瞬間、ミドラは両手を挙げて自分に害意が無い事を示した。


「…別にエファさんをどうこうしようと思って心の声を聴いたわけではありません。ただ、私の能力は際限なく他人の心を読んでしまうので、聞こえてしまっただけです。もし不快な思いをされたのであれば謝罪させていただきます」

「そういう理由で魔法を展開したわけじゃないわ。私が_」

「もちろん、あなたが魔女であるという事は誰にも話したりは致しません」


ミドラは真っ直ぐこちらに目を向けてそう言った。


「仮にそうしたとして、貴方には何の得があるの?魔女が帝都にいるという情報を使えば、色々とできるはずよ」

「それは…誰かに言いふらせば、あなたに殺されてしまうでしょうし、何より、あなたの心の色が、魔女とは思えない程澄んでいるからです。私にはあなたが、エルフの言うような悪魔には思えません」


その言葉には妙な説得力があるように思えた。

私は待機させていた氷槍を解除し、ミドラも両手を下げた。

ミドラの能力はおそらく、心の知覚だ。

過去に同じ能力が発現した人間が、その能力について研究した資料を読んだことがある。

周囲の人間の心の声が断片的に聞こえ、その心の色や形を視覚情報として認識できる能力。


「貴方も災難ね。そんな能力を生まれ持ってしまって」

「いえ、私は寧ろ、この能力を持っていて良かったと思っていますよ。商談の際役に立ちますしね。エファさんは、そうは思っていないのですか?」

「私は…」


術式加算という能力は、白銀の髪のエルフが持つ能力だと、私は考えている。

エルフに伝わる伝承にも、同時に複数の魔法術式を操ると記されているので、ほぼ間違いないと言っていい。

そんな能力が、つまりは、私が白銀の髪を持っていて良かったと思っているかなんて、答えは決まっているじゃない。


「こんな髪、私は_」


嫌い、と言いかけた時、アレクがこの髪を一度だけ綺麗だと言ってくれた事を思い出した。

もし、この髪が白銀色じゃなかったら、アレクに褒めてもらえなかったかも、アレクと出会えていなかったかもしれない。

そう考えると、私は_

私はつい考え込んでしまい、少しの間ミドラを放置してしまった。

考えにひと段落ついた所で、彼はそれを察知し、話を始めた。


「エファさんは、人を探しに帝都へ来られたのでしたね」

「ええ、この帝都に居る、魔法神の加護を持たない男の母親を探しているの」

「ああ、加護無しの母親ですか」


ミドラは顔色一つ変えることなくそう言って、そばにあった一枚の紙きれに何かを書き始めた。

5秒も経たないうちにそれは終わり、その紙きれを私に手渡した。

アレクの母が住んでいる家の場所を示した簡易的な地図のようだ。


「この人はここ5年程目撃情報がありません。ですので、すでに死んでいるかもしれませんが、それでもよろしければ」

「構わないわ」


アレクは死んだなんて言っていなかった。

だから少なくとも1か月前までは生きていたはず。


「…そうですか。ここは帝都で有名ですから、家に入る際には極力他人に見られないようにしてください。目立ってしまうので」

「…分かったわ。ありがとう」

「シェーンさんを救っていただいたお礼ですよ」


ミドラとはその後会話することなく、シェーンと共に商会を後にした。

シェーンは冒険者協会に用があるらしく、アレクの家もそちらの方向なので、そこまでは馬車で送ってもらうことにした。


「そういえばエファさん、探している人の居場所は分かったんですか?」

「ええ、ミドラに教えてもらったわ」

「そうですか、それは良かったですね!」


アレクの事は知っているの?と聞きたかったが、シェーンの口から加護無しという単語が飛び出すのが怖くて聞けなかった。

いや、怖いというよりもこんないい子に加護無しなどという単語を口にして、そこらの人間と同列になってほしくなかったのかもしれない。

そんな事を思いながらも御者席で会話をしていると、あっという間に冒険者協会の前に到着してしまった。


「エファさん、またどこかで会いましょう!」

「ええ、またね」


軽く別れの挨拶をして、冒険者協会に入っていくシェーンを背にアレクの家へ向かう。

人相の良い女性が営んでいるパン屋を通り過ぎて、狭い路地に入る。

するとすぐそこに、家があった。

外壁は見るからにボロボロで、蔦がそのほとんどを覆っている。

私はドアの前に立ち、深呼吸してから3回、ノックをした。


「今出ます」


そう簡潔に返事をした声は透き通っていたが同時に、弱々しくもあった。

ドアが内側引かれ、中から出てきたのは水色の髪をした、瘦せ細った女性だった。


「あなたは、誰_?」

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