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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
変章

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17/17

人間との出会い

「あ、あの、助けていただいてありがとうございます」

「…お礼を言われる程じゃないわよ」


私は何故、見ず知らずの人間を助けているのだろうか。

別にコイツが死のうが私には関係ないのに。

私が何故ここに居るのかというと、あれからすぐに少しの干し肉とお金、魔道具を持って家を出た後、帝都の方角へひたすら真っすぐ飛行魔法で移動した。

北の大地を3時間ほどで抜けて、そのまま休むことなく飛行してたのだが、偶然、一人の少女がブラックウルフに襲われているのを発見した、うっかり助けてしまったという訳だ。

ほんと、私が北の魔女だとバレるリスクを負ってまで助けなくて良かったのに。

何やってるんだろ、私。

飛行魔法を解除して着地し、橙髪の少女のそばに歩み寄った。

彼女に何があったのか聞くと、自分は商人でブラックウルフに襲われたと状況説明をした後、背中の痛みを訴えた。

どうやら背中を強く打ったせいで、足の力が入らなくなっているようだ。


「治してあげるわ。動かないでね」


せっかく助けたのだから最後まで面倒を見ようという気持ちになったので、治癒魔法をかけてやった。

私としては、一度に治癒魔法をかけすぎると本人の体力が消耗してしまうので、せいぜい歩けるくらいまで回復させたつもりだった。

なのに、彼女は歩き回れるようになるまで回復した。

この子、見た目によらずかなり体力があるみたいだ。

その後、流石商人というべきなのか、回復してすぐに近くあった馬車の様子を確認しに行った。


「やっぱりダメかぁ」


そう落胆の声を漏らした彼女の視線の先を見ると、大量の箱が馬車の中で潰れていた。

こんな所にいつまでも彼女を居させる訳にもいかないので、潰れていない荷物を探し始めた彼女を手伝った。

下の方に積んでいた比較的大きな箱だけが潰れていたため、見ためよりも実際はかなりマシで、小さな荷物はほとんど潰れていなかった。

重要な荷物や商品はほとんど小さな箱に入れてあったそうで、依頼に大きな影響は無いという。


「まぁでも、馬車と大部分の食料品類がダメになって、馬も死んじゃったので、損失は無視できないですけどね」

「そう。まぁまだ命があるのだし、いくらでもこれから取り返せるわよ、きっと」

「はは、確かに、そうですね。取り返せるように、いや、この損失を含めたとしても有り余るくらい儲かってみせます!」


彼女を真っ暗な空を見上げて、そう高らかに宣言した。

彼女は馬車が壊れ、損失が出てもめげていないようだ。


「魔法使いさん、こんなに手伝っていただいてありがとうございます!帝都に着いたらお礼させてください!」


お礼…お礼か。

…多分だけど私が最後に帝都を訪れてから200年くらい経ってるから、色々と変化しているはず。

私には、今の情報が無い。

丁度良い機会だし、この子から色々聞かせてもらおう。


「貴方、帝都まで行くのよね?」

「はい、そうですが、それがどうかしました?」

「貴方の馬車を直すから、貴方と一緒に帝都まで行ってもいいかしら?道中で色々と聞きたい事があるの」


私は目の前の少女にそう提案した。

結果から言うと、私の申し出を赤髪の少女は快く受け入れてくれた。

それから私は、また魔獣が襲ってくる前に馬車を家や花畑で培った技術で素早く直し、それを牽引魔法で引っ張って、彼女と共に帝都へ向けて出発した。

普通なら半日程で帝都に着くそうなのだが、馬を殺されてしまい徒歩での移動になってしまったので、3日ほどかかるのではないかと、少女は言った。


移動1日目。

彼女について分かった事が一つある。

彼女は、かなりおしゃべりな人だ。

そのおかげで退屈はしないからいいんだけど。

3時間程歩いた所で丁度いい岩を発見したので、それに腰掛けて休憩している時、今更ながら彼女に名前を聞いた。


「あー、確かにまだ名乗っていませんでしたね。あんな事があったとは言え、商人失格ですね。えー、コホン_私はシェーンと申します。いつか自分の商会を立ち上げるという夢を持っているしがないひよっこ商人です。よろしくお願いします!」

「ええ、よろしくね、シェーン」


名前を聞けたので、馬車に牽引魔法をかけなおそうと立ち上がろうとした時、シェーンに呼び止められた。


「あの、もしよろしければ魔法使いさんのお名前を教えていただけませんか?」

「私は__エファ」

「わぁ、素敵なお名前ですね。あと少しの旅ですが、改めてよろしくお願いします!」

「え、ええ。よろしくね…」


私は咄嗟に、師匠の愛称を名乗った。

どうして私は、ルミアと名乗らなかったのだろうか。

この子が本名を名乗りたくないような嫌な奴だから?

違う。

この子が、人間だから?

違う。

被差別者じゃないから?

違う。

アレク以外に、名前を知られるのが嫌だから?

……


「エファさん、どうかしましたか?」

「い、いえ、なんでもないわ。それより、そろそろ移動を再開しましょう」

「はい、了解です!」


互いの名前を把握した所で、私とシェーンは移動を再開した。

その後も数回休憩を取りながら、日が暮れ始めるまで移動し続けた。

牽引魔法に加えて浮遊魔法で重量を軽減しているおかげか、シェーンの予想よりも速いペースで進んでいるらしく、1日で予想2日分の距離を移動することができた。

日が暮れた後は森を抜けてすぐの所にある平原で野宿することになったのだが、その際結界を張って欲しいとお願いされた。

シェーンは普段、雇った護衛に見張りを頼むか魔獣除けの魔道具を使ってから野営するのだそう。

しかし今回は護衛が雇えず、魔道具も壊れてしまった為、野営の際身を守る手段が無いらしい。

私が居なかったらどうするつもりだったんだろう…

一晩中結界を張る程度、大した負担にはならないので、いい香りする魔法もおまけとして付けて結界を張った。


「おやすみなさい!エファさん」

「ええ、おやすみ。また、明日」


エルフの長耳を見られないように、フードを深く被れている事を確認してから、私は目蓋を閉じ、眠りに落ちた。


翌日。

私はシェーンよりも先に目を覚ました。

このアレクが作ってくれた服のおかげか、野宿したとは思えない程心地の良い目覚めだった。

朝食は腰に引っかけておいた小さな袋の中にある、干し肉一つである。

…最近ちゃんとした料理ばかり食べていたので、久しぶりに口にした干し肉はより一層味気なかった。

別に美味しくないって訳じゃないんだけどね。


「エファさん…おはようございますぅ」


私が不満を抱きながら干し肉を食らっていると、シェーンが目をこすりながら目を覚ました。


「おはようシェーン。大分眠そうね」

「はぃ、初めてこんな距離歩いたからか、疲れがまだ少し残ってて…エファさんは疲れてないんですか?」

「私は大丈夫…よ。強化魔法を使いながら歩いてる…歩いているから」


しばらく口調を戻していたせいか、時々素で喋りそうになる。

別に素で喋ってもいいんだけど、師匠からの言いつけだし、何より自分の身を守る為でもあるから、この口調をやめるつもりは無い。

まぁ、身を守る必要が無いと思ったらやめるかもしれないけど。


「ふわぁ。まだ少し眠いですけど、歩き始めましょうか、エファさん」

「わかったわ、シェーン」


2日目はそんな調子で移動を開始した。

帝都に近づくにつれ、段々と温かくなってきた。

このコートを着ているのも、流石に熱く感じ始めた。

そこで私はシェーンに見られないようこっそりコートを一度脱ぎ、袖に腕を通さず肩にかけて一番上のダッフルボタンだけ留めた。

そうしてフードを被ることで、耳を隠す事ができ、熱さの問題もなんとかなった。


「エファさん、そのコート脱がないんですか?帝都が比較的北の方にあるとはいえ、流石に熱いと思いますよ?」


馬車を魔法で引っ張りながら歩いていると、シェーンにそう質問された。


「大丈夫よ。着ているというよりも羽織っているだけだから」

「そうですか?まぁエファさんが大丈夫ならいいんですけど」


適当な答えをしたと、私は思うのだが、彼女はどこか納得がいっていないようだった。

耳を隠すためだなんて言えないし、今後の為にも何か理由を作っておいた方が良いかもしれない。


「確かに段々と熱くなってきたけれど、これは魔法の行使を補助してくれる魔道具なの。だから常日頃から着ておく必要があるのよ」

「へぇ、そうなんですか。魔法の事はよくわかりませんが、世の中にはそんな物もあるんですね」


シェーンがそう言った後、ピタリと喋らなくなった。

おしゃべりな彼女が黙るなんておかしいと思い、横を見ると、私のコートをまじまじと見つめていた。


「ど、どうかしたの?」

「エファさん、これと同じ物、多少劣るものでも良いです。作る事はできませんか?」

「…?」

「私、魔法の補助をする魔道具なんて聞いたこと無いんです!だからこれ、絶対お金になると思うんです!」


おしゃべりで、どこか抜けたところがあるから忘れてたけど、そういえばこの子、商人だったっけ。

どうしよう、咄嗟に言った嘘だなんて言えない。

というよりも、嘘を吐いたら彼女の雰囲気が私を罪悪感で苦しませるような気がする。


「ごめんなさいシェーン、これと同じものはもう作れないの」


私は少し考えて、結局嘘を吐くことにした。


「そ、そうですか…」


そう言ってしょんぼりと肩を落とした彼女を見て、私の予想通り少しだけ罪悪感を感じた。

「こういうのだったら…」とつい、干し肉を包んでいた保存魔法の刻印が刻まれた布切れを取り出してしまった。


「何ですか、これ」

「これは…物の状態を維持する魔法が刻まれた布よ」

「え、何ですかそれ、そんな魔法聞いたことないですよ!?」


アレクはしれっと受け入れていたが、保存魔法は私オリジナルの魔法だ。

地下野菜の良い保存方法が無くて、試行錯誤してたらなんか出来てしまったんだよね、新しい魔法が。

この魔法が帝国に知られたところで不利益が生じるわけでも無いし、シェーンには色々と帝国の事を教えてもらった恩がある。

保存魔法の刻印くらいは渡してもいいだろう。

これを活かせるかは彼女次第な訳だし。


「これは貴方にあげるわ。色々と教えてもらったお礼よ」

「い、良いんですか?」

「ええ、もちろん」


私がそう答えると彼女はその布切れを受け取り、ガラスを扱うかのような丁寧さでそれをしまった。


「ありがとうございます!これを元に、立派な商会を持てるよう頑張ります!」

「そう、頑張ってね」


これで、色々と教えてもらった借りは返した。

借り…か。


「エファさん、見えましたよ!」


そこそこの大きさの丘を登り切った所で、シェーンがその向こうを指差しながらそう言った。

もう、そんなに歩いてたんだ。

以外と早かったな。


「エファさん、あれが帝都です!」


シェーンの指した先には、大きな城壁に囲まれた特徴的な白と金のコントラストが映える城と、その城下には入り組んだ街並みがある都が在った。


「ここが、帝都_」


アレクの生まれ育った場所。



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