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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
変章

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15/19

隣がいつもより少し寒い

私は目をむくませた状態で帰宅した。

たくさん泣いて、たくさん後悔して、やっと少し落ち着いた。

暖炉前のイスに座り、全身から力を抜く。

すると私は、泣き疲れたのか眠りに落ちてしまった。


目を覚ましたのは2時間後、丁度昼食の時間だった。

イスから立ち上がり、保存箱の中を漁る。

中には地下野菜と、干し肉がいくらか入っていた。

アレクと出会う前の私なら、この中から干し肉だけを取ってそれを昼食にしていただろう。

あの頃の私にはそれ以外の選択肢が無かったからだ。

だが、今の私には料理するという選択肢がある。

特に何かを作ろうとした訳では無いが、無意識的に地下野菜と干し肉を取り出し、それらを炒めて塩を振りかけた。

地下野菜と干し肉の塩炒め、あの日私が初めて食べたアレクの料理。

習慣で2つ皿を取り出したが1つ戻し、カトラリーも合わせて用意する。

出来上がった物を調理器具から皿へ移し、机に運んで席に着く。

そして一口。

あの時感じた舌鼓を打つような美味しさは感じなかった。

硬い干し肉に水分を含み過ぎている野菜、そして申し訳程度の塩味。

お世辞にも美味しいとは言えない。

けれど、心に沁みた。

涙が零れた。

こんなできの悪い料理を食べたからこそ、アレクの事を意識してしまう。

散々泣いて落ち着いたと思っていたのに、また、私の心に重い何かがのしかかる。

食卓を涙で濡らしながら料理を完食し、手の甲で涙を拭ってから洗浄魔法を使って食器を綺麗にしてからそれらをしまった。

もう、何もする気になれない。

少し、寝よう。

そう思ってキッチンを離れると、体は自然とアレクが使っていた部屋へ向かった。。

扉を開け、中を渡す。

つい2日前までアレクが就寝していたので、未だ生活感が残っている。

捲れた掛け布団、窓際に置かれた鉢に植わっている一輪のノルメラ、床に落ちているボロボロの服。

そのどれもが私にアレクを意識させる。

捲れている掛け布団の中へ頭を埋め、目を閉じた。

心にのしかかった何かが、徐々に軽くなっていく。

安心する匂いに包まれた私は、それから間もなくして眠りについた。


満たされたお腹が再び空腹になる頃、私は目を覚ました。

出たくないという気持ちを抑えながらベッドから立ち上がり、部屋を出た。

食欲に従い保存箱の中を見る。


「肉が無い…」


野菜だけでは味気ないし、何より腹が満たされない。

調達しないと。

私は自身に保存魔法を付与してから、玄関を出て極寒の中へ足を踏み入れた。


【飛行魔法】


保存魔法に加えて、毛皮で作られたこの服と膝下まであるコートが私を寒さから守っている。

入口付近にホワイトベアの足跡がある洞窟を見つけたので、そこに降り立ち中へ入った。

私は探知魔法と発光魔法を発動し、洞窟の奥へ進んでいく。

中は相変わらず氷に覆われていて、吹雪いている外よりもいくらか温かい。

まだ入り口付近だが、探知魔法に2つの反応があった。

反応のあった方へゆっくり歩みを進めていくと、ホワイトベアが2頭が居るのを確認できた。

どうやら外で狩ったスノーラビットを持ち帰っている道中のようだ。


【術式加算 凍結魔法 追尾氷槍×3】


こちらに背を向けている2頭に対して、1本ずつ放ち、残りの1つは仕留められなかった時のために空中で待機させた。

追尾氷槍はそれぞれ適格にホワイトベアの背中に突き刺さったが、仕留めるには至らなかった。

奴らは不意を突かれて腹に風穴を空けられたにも関わらず、振り向いてこちらへ向かってくる。


【風魔法 風刃】


私は片方に待機させていた氷槍で頭を貫き、もう片方には新たに生成した風の刃で首を刎ねた。

…終わった。

体がまだ少し気だるいし、さっさと持って帰ろう。

私はホワイトベアの死体それぞれに浮遊魔法を付与した。

持ち上げる前にふと、手のひらを見つめる。

もし、この風の刃を《《私に首に当てたら》》…

その考えを首を振って否定する元気が、私には無かった。

ホワイトベアを持ち上げる時、氷の壁に映った私の顔が目に入った。


「ほんと、酷い顔」


あまりここに長居すると、血の匂いに反応して洞窟の奥に居る他のホワイトベアもやってきてしまうので、私は狩った2頭のホワイトベアを持って早々に立ち去った。

かなり気温が下がって来たので、飛行速度を上げた。

北の大地の上空には年中ぶ厚い雪雲が漂っており太陽の光が地上に届く事は無いが、それでも日中は夜に比べて温かくなる。

ので、日が暮れるとかなり冷え込み、保存魔法に加えてコートを着ても寒さを防ぎきれなくなってしまうのだ。

加工場にある入口から帰宅し、作業台に持ち帰ったホワイトベア2頭を置いた。

風魔法で手元に渦巻く風の刃を作り出し、ホワイトベアを1頭解体した。

魔法で解体したので毛皮は使えなくなったが、肉は綺麗に取り出す事ができた。

使えなくなった部分や要らない部分を処分してからもう1頭に取り掛かる。

魔法で解体し始めようとした時、何となくナイフで解体しようと思ったので、岩石魔法で小さめのナイフを再現した。

ホワイトベアの腹に刃を当ててそのまま横に動かし、解体を始めた。

得られた物は決していい出来ではないけれど、なんだか少し嬉しかった。

新しい事に挑戦して成功したからか、アレクと同じ事をしたからなのか。

理由が何なのかは分からなかった。

でも、それのおかげで落ち込んでいた気分が少しだけ回復したような気がした。

解体して得た物を保存箱に入れた後、一休みするために暖炉前のイスに座った。

気が済むまで休み、地下野菜と取って来たばかりの肉を使って料理を始める。

作ったのは最初に教えてもらったホワイトベアの肉と地下野菜の炒め物。

このメニューを選んだのに特に深い意味はない。

理由を付けるとするなら、何を作るか考えていた時に思い浮かんだから、あの時は失敗してしまったので料理が上手くなった今、もう一度作りたかったから、といった感じだろう。

あの時はとは違って肉は薄切りで肉、野菜共に火がしっかりと通っており、野菜は食べやすい位に柔らかくなっている。

美味しい。


「アレク、上手く出来たよ」


私以外誰も居ない家で、そう呟く。

ただの食事なのに、私はゆっくりと時間をかけて料理を完食した。

食器類を片付けようとした時、花畑に水をやっていない事に気付いた。

私は片付けを後回しにして足早に家を出て、花畑へ向かった。

出来るだけ早く飛行し、花畑の入口の前に降り立つ。

急いで中の様子を確認すると、幸いにもまだノルメラは枯れておらず、鮮やかな青紫色を保っていた。

中央の水晶球に触れて魔力を流し込み、空間内に雨を降らせた。

その雨に濡れた無数に咲くノルメラ達はとても嬉しそうだった。

防御魔法を展開して雨を防ぐ事も出来たが、私はただ上を向いて雨を浴びた。

ああ、なんて心地良いんだろう。

ずっと、こうして居たい。

結局、私は水晶球に込められた魔力が尽きるまで雨を浴び続けた。

その後、洗浄魔法をかけて全身に付いた水を落としてから帰宅した。

夕飯を食べてからそこそこの時間が経ったというのに、昼間に寝たせいかまだ睡魔が襲ってこなかった。

本を読めば眠くなるかもと思い、書斎に入って適当に本棚から1冊取った。

それを開く時、しまい忘れていた衰弱病治療薬が目に入った。

本をそばに置いて、それを手に取った。

もうアレクは居ない。

なら、これはもう…

それをゴミ箱へ投げ入れようとした時、アレクが話していた彼の母の事を思い出した。

それと同時に、1つの考えが思い浮かんだ。

私は、師匠も、アレクも救えなかった。

でも、まだ生きている人なら、アレクの母なら救えるかもしれない。

もちろん、彼の母がどんな姿をしているかも、生きているかも、どこに居るかも知らない。

それでも、試す価値はある。

助けてくれた恩を、貸しを返すためにも。


行こう、帝国へ_


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