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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
変章

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14/19

後悔

「何で、そんなに嬉しそうなの…?」


私が目覚め、結界が解かれてから最初に目に飛び込んできたのは、嬉しそうな表情で凍り付いている、アレクだった。

胸が締めつけられ、喉が締まるような感覚を覚えた。

まただ。

また、私の手が届く所で、大切な人が死んだ。


ーー


「師匠!今日は沢山取れましたよ!」


私がこの家に来てから丁度5年経ったある日、私はいつも通り近くの森でいくらか魔獣を狩って家に持ち帰った。


「頑張ったわね、お疲れ様」


師匠もいつも通り私を出迎え、手際よく魔獣を風の刃で解体する。

毛皮は保存箱へ、肉は食糧庫へと持っていく。

肉を焼いただけの簡単な昼食を取り、魔法の練習を始める。


「師匠、今日は何をするんですか?」

「どうしましょうか。ルミアの学習能力が凄いから、もう教えられる魔法がほとんど無いのよね」

「えー、そんなぁ」


この頃の私は魔法という物の実技的な部分にも、学問的な部分にもどっぷりと浸かっていた。

そのおかげか、通常習得に時間がかかるような魔法もすぐに使えるようになってしまったのだ。


「これを教えるつもりは無かったのだけれど、仕方ないわね」

「え、なになに?」

「私のとっておき、牽引魔法よ」

「牽引魔法?それって、あの荷物とか引っ張るやつですよね?」

「ええ、そうよ。でもね、今から教えるのはただの牽引魔法じゃないわ。生物を適応範囲に含めた牽引魔法よ」


一般的に牽引魔法と呼ばれている魔法は生物に対して発動することができず、対象は物体に限られる。

この日、師匠が教えてくれたのは魔法の術式に対象を生物にまで拡張するよう手が加えられている牽引魔法もどきというべき代物だった。

魔獣の肉をアレクと調達しに行った時に、私がホワイトベアに対して行使した魔法である。

結果から言うと、この魔法の習得には大して時間がかからなかった。

術式に手を加えているといっても、ほとんど牽引魔法と一緒なのだ。

魔法の練習が終わると、師匠は自室に籠り、私は本棚にある本を読む。

活字に集中してその本を楽しんでいると、いつもは静かな師匠の部屋から大きな物音が聞こえた。

それが何なのか気になり、師匠の部屋のドアを叩く。


「師匠、何かあったんですか?」


聞こえていないのかなと思い、再度声量を上げて声をかける。

そうしても返事は聞こえない。

「入りますよ」と言ってからドアノブを捻る。

ゆっくりドアを押して中を覗き見る。


「し、師匠?」


胸の辺りで左手をギュッと握りしめ、膝を抱え丸まりながら横たわっている体。

右腕を頭の下に敷き、呼吸がしやすいよう真っ直ぐにしてある首。

師匠が、倒れていた。


「師匠!」


私はそれが目に入った瞬間反射的にドアを強く押し、師匠のそばへ駆け寄った。

彼女の体を揺らしながら声をかける。

よく耳を澄ますと、苦しみながらも小さな声で返事をしているのが聞こえた。


「もういい、もういいのよ…」

「何言ってるんですか、絶対助けます!」


このままではまずいと思い、彼女に浮遊魔法を付与して近くにあったベッドへ移した。

そののち、苦しそうにしている胸のあたりを重点的に治癒魔法をかける。

おかしい。

治っている感覚が無い。

そう思った私はまだ制御の怪しい術式加算を用いて治癒魔法の数を増やし行使する。

しばらくそれを続けていると、少しだけ苦しみが和らいだのかこわばっていた彼女の表情筋から力が抜けた。

苦痛も落ち着いたようで、彼女はゆっくり呼吸をしながら目を閉じて体を休めている。

その間に私は綺麗な布切れと水を入れた器を用意した。

すると師匠が目を開け、気力を振り絞って私に話しかける。


「ごめんなさい、ルミア」

「どうして、謝るんですか?」


私がそう問うと、師匠は体を起こして私の手を握った。


「こうなる事が分かっていたのに、心配をかけたくなくて貴方に何も言わなかったわ」


自分の中に一つの疑問が生まれたのと同時に師匠の目を見ると、この人は死ぬ覚悟ができている、そう思わされた。


「わかってたって、どういう事ですか?」


私はその疑問を自身の胸の辺りに魔法を使用している師匠に投げかけた。

すると彼女は私の手を引っ張って自分の胸に当てた。


「ルミア、貴方ならわかるでしょう?」


最初はどういう事か分からなかったが、5秒程経って手の感覚が冴えてきた頃、異変に気付いた。

おかしい、魔力以外何も感じない。

彼女の体の中で魔法が発動している事に加え、彼女の心臓が止まっていた。

私の治癒魔法は?

治癒魔法で治ったから師匠が体を起こして話せてるんじゃないの?


「し、師匠…これは?」

「私は今、呪いによって心臓が止められて、どうにか魔法だけで命を繋いでいる状態なの。そうね、あと、1分くらいかしら」


その1分が一体何を指すのか。

わざわざ聞かなくても分かった。

しかしその情報を、脳は拒んだ。


「ルミア、聞いて。私が死んだらそこの引き出しに入っている手紙と地図、お金を持って、どこか貴方が安心して暮らせるような場所を探しなさい」

「師匠が何を言っているのか、分かりません」

「賢い貴方ならわかるはずよ」

「分かりません!だから私、ここから出て行かないです。絶対に」


私にとって、師匠と暮らしたこの家は自分が人として接してもらえる唯一の場所。

安心できる場所だった。

ここを離れたら魔女に逆戻りする、そんな気がしていた。

そんな私の心を見透かしたかのようにそれに対する返答を、もう喋ることすら難しくなったその体で静かに発した。


「いい?貴方は魔女ではなく、ルミアよ。ルミアにはルミアの人生を歩く権利があるの。その道は緩やかかもしれないし、茨の生えた険しい道かもしれない。けれど、その先には必ず幸せが待っているの。だからその当然の権利を行使して、幸せになりなさい。これは、師匠としてではなく、貴方の親、エファリアとしてのお願いよ」


「聞いてくれる?」と私の手を両手で優しく包みながら目を閉じ、彼女は語りかける。


「狡いですよ、それは」


私はすっかり力が抜けた彼女の手を両手で握り、心配させないように精一杯微笑んでこう返した。


「仕方ないですね、聞いてあげます、そのお願い。師匠が羨ましがるくらい幸せになってやりますよ!」


その言葉を言い終わった時、師匠の体から魔法の反応が消え、力が抜けるようにベッドへ倒れた。

作っていた笑みが崩れ、全身に恐怖が押し寄せる。


「し、師匠?」


今まで寿命の長いエルフ以外と接することが無く、死というものの概念しか知らない私に、それを経験するにはあまりにも突然すぎた。

握っていた手を離し、まるで作り物のようになった師匠の顔に触れる。


涙がこみ上げ、頬を伝った。

溢れて、零れて、止まらなかった。


ーー


あの時は涙が自然と溢れてきたのに、今は涙が出てこない。

こんなにも、悲しいのに。


【強化魔法 身体能力】


私は雪で埋もれたアレクの体を掘り起こし、それを持ってとりあえず家へ向かった。

強化魔法を施しても凍り付いたアレクの体は重く、触れている所が冷たくて、痛い。


【飛行魔法】


その道中でふと花畑の事が頭によぎり、そちらへ空を飛んで向かう事にした。

ぶ厚い氷と積雪に覆われているこの大陸でも、きっとそこならアレクも心地よく眠ることができると考えたからだ。

アレクを落とさないよう普段より少し速度を落として飛行する。

花畑へと続く洞窟はとても暗く、花畑の明かりは眩しく感じた。

花畑の中央付近に、アレクを埋めた。

簡易的だが、岩石魔法で作り出した墓標も設置した。

そうして完成したアレクの墓をみた瞬間、私はその場に崩れ落ちた。

それは、疲れによるものでも、肉体的なダメージによるものでもない。

ただ、その瞬間にアレクが死んだという実感が湧いて出たからだ。


「なんで、どうして、どうしてアレクが…」


最初、家の前で倒れていたアレクを見た時、この味気ない毎日が変わるかもしれないと、心のどこかで期待していた。

でも彼は、期待していた以上のものを私にくれた。

アレクと過ごす日々はとても楽しかったし、彼がこの服をくれた時は本当に嬉しかった。

私にそんな風に接してくれる人は師匠以外、今まで居なかったから。

だからこそ、嘘を吐いてまで彼を引き留めてしまった。

私が大人しく彼を帰していれば、こんな事にはならなかったかもしれない。

私がもっと早く、あの魔道具を直していれば_

そんな後悔が、心の内がら次々と溢れ出てきた。

こんな事になるのなら、早く私の気持ちを伝えておけばよかった。


「アレク、私も貴方の事が、大好きよ_」


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