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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
始章

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13/17

アレク3

【術式加算 風魔法 風刃ウインドカッター×3】


先ほど突風で騎士を分断したので、アレクと若い騎士の1対1を作り出す事に成功した。

私の前方で騎士と接敵しているアレクへの援護として、術式加算を用いた風の刃を騎士に向かって3つ飛ばした。

が、それらは全て騎士の装備している鎧に効果を薄められ、剣で弾かれてしまった。

どうやら彼らが着ている鎧には魔法効果減衰の刻印が刻まれているようだ。


「アレク、右肩の辺りに付いてる装飾品を破壊して」

「…了解」


普通この距離では分からないが、一度私の魔法がその影響を受けたおかげで、それが刻まれている箇所を把握することができていた。

私はそれの位置を素早くアレクに伝達し、再度魔法発動の準備に取り掛かる。

アレクの方は若い騎士と1対1で斬り合っている。

彼は振り下ろされた剣をナイフで受け流し、右肩の関節を守る部分に取り付けられていた装飾品を破壊する事ができたようだ。

私の魔法によってここから離されていた残り3名の内、致命傷を負った者以外が徐々にアレクの元へ接近している。

もうすぐ今斬り合っている若い騎士と連携を取ることが可能になりそうだ。

術式への魔力充填を2秒で完了させて発動する。


【術式加算 風魔法 風刃×3】


今度は一人に全ての刃を放つのではなく、一人に付き一つ。

向かって来ている騎士2人には魔法効果減衰の刻印があるので、直接狙うのではなく、足元を攻撃して雪を巻き上げ足止めした。

そしてアレクと交戦中の騎士は、直接首を狙う。

ナイフと剣を交わして競り合っている状態からアレクが強く弾き、構えが崩れた瞬間、私の放った風魔法の刃が若い騎士の首を捉えた。

咄嗟に避けようと首の位置を動かしたせいか首を刎ねるには至らなかったが、大量の血液を噴き出させる結果となった。

それを見たアレクは言葉を発することなく、目配せだけで次に狙う騎士を私に知らせた。

同時に、彼は老いた騎士の方へ駆けだした。


「アレク、引き寄せる」


私が伝わる最低限の言葉を発してから、牽引魔法を発動し、アレクの目の前へ体勢を立て直したばかりの老いた騎士を引っ張った。

突然の事で反応が遅れた老騎士は、体に対して平行に検身を構え、防御態勢を取った。

が、アレクはその防御の隙間を縫って的確に鎧の関節部分をナイフで切り裂く。

その攻撃は脇、股関節、膝裏に浅いながらも傷を負わせた。

老騎士も負けじと反撃に出るが、それもアレクにいなされ、ナイフの一突きで肩に付いていた魔法効果減衰の刻印を破壊されてしまった。

その衝撃で老騎士は地面に倒れ伏した。

「ルミア、後は頼んだ!」とだけ言って傷だらけの関節で立てなくなった老騎士の剣を奪って、アレクは最後の騎士の元へ向かって行った。


【凍結魔法 冷却】


もうすでに動けなくなった者をいたぶるような趣味は私にはないので、ただ冷やす魔法でゆっくりと老騎士の体温を下げていく。

私は過去に、人間のせいで何度も死にそうになった事がある。

そのせいなのか、人間を殺す事に不思議と抵抗は無い。

アレクと最後の騎士が接敵した方を向き、魔法術式に魔力を充填する。

最後に残った騎士はアレクと打ち合い、時々反撃をしている。

私でも分かる。

最後の騎士は、さっき倒した2人よりも強い。

何やら背後に気配を感じ、慌てて後ろに振り向く。

すると私がその者の姿を捉える前に剣が振り下ろされた。

私は反応することが出来ながったが、あらかじめ体に纏っていた結界のおかげでその斬撃を防ぐことができた。

剣が弾かれたのを見て、私は咄嗟に後方へ跳んでソイツから距離を取った。


「貴方、その体…」


背後に現れた騎士の姿を見て、私は目を疑った。

その騎士は体の欠損部位を魔力で構築し、代用していたのだ。

通常、魔力で体の一部を補おうと構築してもそれは見た目だけで、機能を再現することはできない。

この騎士がこんな芸当を可能にしている理由はただ一つ。


「そんな能力、初めて見たわ。良ければその能力の詳細を教えてくれないかしら?」

「すみませんが教えられません。戦いの最中に自分が不利になるような事はできないので」

「…そう」


つまり、その能力には欠点があるという事か。

魔力を充填していた魔法術式をアレクへの援護ではなく、目の前の騎士に向かって発動した。


【術式加算 凍結魔法 追尾オート氷槍ブリザードランス×3】


空中に3つ、氷の槍が生成され、それらが一斉に目の前の騎士へ向かって発射される。

しかし、それらは刻印の力によって効果を減衰させられ、振り下ろされた剣によって砕かれてしまった。

やはりあの刻印をどうにかしないと、魔法では大した成果を得られないと考えた方がよさそうだ。

少し危険だけど、不意を突いて物理的に壊すしかない。


【風魔法 風刃】


私はその魔法を女騎士の足元めがけて飛ばした。

彼女はそんな魔法などお構いなしに私との距離を詰める。

が、魔法は無事に足元に着弾し、積もっていた雪を巻き上げることに成功した。

しかし女騎士は足を止める事は無く、額に腕を当てながら舞い上がった雪をかき分けて迫ってくる。

魔法の発動に集中していたので気付くのが遅れたが、彼女はアレクや他の騎士と比べてかなり足が遅い。

どうやら体の一部を魔力で代替しているとはいえ、体に穴が空いているためか、動きがかなり鈍くなっているようだ。

彼女の視界が悪い今がチャンス。


【牽引魔法 生体牽引】

【術式加算 強化魔法 全身強化×3】


私は牽引魔法で女騎士をこちらへ引っ張ると同時に、術式加算を用いた強化魔法で最大限身体能力を強化した。

そして、牽引魔法によって体勢を崩している彼女の肩の装飾品めがけて拳を振るった。

結果として、私の拳は装飾品だけでなく鎧の一部を破壊し、彼女の右肩の骨を折るに至った。

よし、後は離れて魔法を__

そう思い距離を取ろうと後ろへ跳ぼうとした瞬間、肩の骨が折れまともに動かないはずの右腕を伸ばし、私の腕を掴んだ。

これは…自らの骨を魔力に代替したのか!

強化魔法のかかった腕を思いっきり振って手を払い、後方へ逃げるために足に力を込める。

が、私が彼女の間合いから離れきる前に剣は振り下ろされた。

剣の切っ先は私の左半身を切りつけ、そのまま積雪に突き刺さった。

距離を離すチャンスだったのだが、攻撃を受けたせいで足がもつれ転倒してしまった。

痛い、痛い。

斬られた箇所に手を当てうずくまる。

手に触れた流れ出る血液は火傷しそうな熱かったが、直後、傷口から熱が逃げていくのを感じた。

どうやらこの傷口には治療阻害の呪いが付与されているようだ。

これでは短時間で再び戦闘可能になるまで治療するのは不可能だ。

こういう傷は時間をかけてゆっくりと治癒魔法を呪いの隙間を縫って治すしかない。

それに加えて、どんどん体温が逃げていく。

つまりもう、私は動けない。

女騎士はその血に塗れた剣を、横たわっている私にとどめを刺すため、ボロボロの体に鞭を打って構えた。


「ルミア!」


少し離れた場所からアレクの呼びかけと共に言葉が聞こえてくるが、何と言っているのか分からなかった。

初めて感じる物凄い痛みが全身を襲っていて、それどころではなかったのだ。

痛みに苦しむあまり強く閉じてしまっていた目蓋を開けると、女騎士が私に向かって剣を突き刺そうとしているのが見えた。

ごめん、アレク。

私、もうダメみたい。

静かに目を閉じ、死を受け入れる準備を整えた。

1か月前、アレクが家の前で倒れていたのを発見した時、この干し肉を食べて本を読むだけの単調な毎日が変わるかもしれないと、心のどこかで期待していた。

だから、アレクと過ごす少し変わった日々は楽しかった。

一緒に魔獣の肉を調達しに言った事、新しい服をくれた事、料理を教えてくれた事、薬を作ってあげた事、互いの過去について話した事、一緒に、花畑を作った事。

そのどれもが、私の心に深く刻まれた。

アレク、私に人並みの幸せをくれて、ありがとう_


女騎士の構えを見てから数秒後、目を閉じている私には、何の攻撃も加えられなかった。

恐る恐る目を開けると、私を庇うようにしてアレクが四つん這いになっていた。

ゆっくりと視線を下に向けると、彼の胸の辺りから剣の切っ先がこちらを覗いていた。


「ア、レク?」


彼は吐血しながら、私に語りかけるようにして言葉を発する。


「だ、いじょうぶ、か…?」


そう言うと、彼は私に覆いかぶさるような形で、力なく倒れた。

まだまばたきをしているものの、その瞳からは次第に光が消えていっている。

この状況を理解する事を、私の脳は拒んだ。

だが、その後すぐに理解できてしまった。

アレクが私を庇い、体に剣を突き刺されたのだと。


「ああ、あああ__」


私の口からは意図しない声が出た。

そしてその後すぐに、心の底から何かどす黒い油のような物が湧き出てくるのが分かった。

それは動けなかったはずの肉体を動かし、私を立ち上がらせた。

不思議なことに、左半身の切り傷はそれほど痛くなくなっていた。


【術式加算 風魔法 風刃×3】


私は目の前の、剣を支えにして立っている女騎士に対して、敢えて死なない程度に攻撃した。

攻撃を受けた女騎士は腹の底から出たような、濁点交じりの低い叫び声を上げた。

ああ、そうか、これが、怒りか。

1歩1歩ゆっくりと近づき、手のひらを彼女に向けて魔力を込める。


【風魔法 風刃】


風の刃をくらった彼女の体がら血が噴き出し、辺りの積雪を真っ赤に染めて、膝から崩れ落ちるようにして倒れた。

…彼女を殺しても、この心のどす黒い油は湧き出続けている。

きっと、アレクと戦っていたもう一人の騎士を殺していないからだ。

そうに違いない。

私は後ろへ振り向き、女騎士が殺されるのをただ傍観していた騎士に問うた。


「何故、仲間が殺されるのをじっと見ていたの?魔法を行使している隙を突いて、私を後ろから刺し殺す事も出来たはずよ」


その騎士はアレクに斬られたであろう右腕をぶら下げて、私と目を合わせた。


「もう、任務は完了した。それが理由だ」


凍えてまともに動かない舌と唇を動かしそう告げると、彼は片腕で剣を構えた。

アレクに残された時間は無い。

手際よく、殺す。


【術式加算 凍結魔法 追尾氷槍×2】


1つ目は右腕が使えない状態の騎士ではギリギリ防ぐことのできる程度の強度で放ち、目論見通り、彼は剣で氷槍を弾いた。

そしてその隙に、私は彼の視覚外からもう1つの氷槍で、的確に心臓を鎧ごと貫いた。

私はその騎士が死んだのを確認することなく、すぐさま倒れているアレクに駆け寄る。


「アレク、アレク!」


凍えた手で体を揺さぶりながら声をかけた。

するとそばに座り込んだ私を見て、私の名前を呼んだ。

まだ喋る事はできる様だ。


「アレク!良かった、生きてて…今すぐ家の中に_」


私が言葉を言い終える前に、魔力を込めていた腕をアレクに掴まれた。


「…もう、いい。俺は、助からない。ここから家に向かったとしても、間に合わない」


吐血しながらそう言ったアレクに対して、私は怒りがこみ上げた。


「何言ってるの!勝手に諦めないで!」

「…ルミアと出会った時、言葉は強いし、足置きにするとか言うし、嫌な奴だと思った。でも、俺が出て行った時、心配して助けに来てくれたルミアを見て、本当は優しい奴なのかもしれないと思ったんだ」

「ねぇ、やめて、やめてよ_」


そんな最期の言葉みたいなこと、言わないで_


「本当に、楽しかった。ありがとう、ルミア。加護無しの俺と、普通に接してくれて」

「楽しかったなんて言わないで!貴方は生きて、これからも楽しい生活を続けるの!」


アレクと触れている手に魔力を込めて治癒魔法を発動し、呪いの隙間を縫って体を治療していく。

幸い、急所は避けられている。

まだ助かるかもしれない。

魔法により、少しずつアレクの体が再生し始めたが、そうしたことで分かってしまった。

アレクの受けた呪いが、深すぎる。


「ルミア、俺は、もう長くない」

「どうしてそんな事が言い切れるの⁉︎まだ大丈夫よ、きっと魔法で治せるわ」


私は何故か、嘘を吐いてしまった。

助かる訳が無いのに。

その嘘に、アレクは凍えてほとんど動かない口角を上げてこう返した。


「…意識が朦朧としてきてるんだ。だ、からルミア、助からない俺なんか放って、温かい家の中に…」

「嫌!私、もう貴方のいない生活なんて考えられない…貴方のいない生活なんて、送りたくないの!ここでアレクと別れるくらいなら、私も、私も一緒にここで_」


アレクはその言葉を遮るようにして私の頬に手を当てた。


「アレク?」

「お願い、だ。頼むよ」

「嫌よ!嫌嫌嫌、イヤ!」


子供が駄々をこねるように言う私に彼は微笑みかけ、頬に当てていた手をずらして指先でノルメラの髪飾りに触れた。

そして「あんまり、使いたくなかったんだけどな」と、今にも消えてしまいそうな小さな声でアレクが呟いた。

すると、その髪飾りの金属部分に刻まれていた刻印が発動した。

私の足元から徐々に丁度人1人を包めるほどの大きさの強力な結界が構成され始めた。

髪飾りに刻まれた刻印の術式を読み解くと、この結界は封印と言い換えても差し支えないような代物であり、機能している間、中にいる人物に治癒魔法が行使され続けるというような複数の魔法術式を組み合わせた複合魔法だということが分かった。


「何、これ」


呼吸のリズムが乱れてきたアレクにそう掠れそうな声を漏らすと、アレクが髪飾りに触れていた手を下ろし、息継ぎしながらなのにも関わらず、不思議と聞き取りやすい話し方で私に語り掛ける。


「加護の、無い、俺だから感じられる、死に際に生物が発する死の魔力。本来は、それに反応して、ルミアを守る保険、として渡したんだが、俺から溢れる、死の魔力で、発動させた」

「アレクは?ねぇ、アレクはどうなるの?」


私の問いに対するアレクの返答を遮るように、結界が背を伸ばす。


「待って、待ってよ!置いて、逝かないで…」


結界越しにそう呼びかける私に、彼はただ一言。


「ルミア、君の事が大好きだ_」


それは、母親以外に愛した事も、愛された事も無い彼にとって、血の繋がっていない他人に囁ける最大限の愛の言葉。

その言葉を聞いた直後、私と外界は結界によって完全に遮断された。

まるでベッドに寝転がっているような安心感があり、数分もしない内に私は眠りに落ちてしまった。

目が覚め、結界が解かれたのはそれから丁度2日後だった__


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