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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
始章

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11/17

アレク1

アレクがこの家に来てから30日が経過した。

私の料理の腕も見違えるほど上達し、新たにメニューを開発できるまでになった。

加えて、例の花畑も今ではすっかり一面を覆っている。

そんな今日、遂に預かっていた魔道具の修理が完了した。

いや、完了してしまった。

これが直った事を知れば、きっと彼は帝国へ帰ってしまう。

それは、嫌だ。

できる事ならずっとこのまま_


「ルミア、昼食ができたぞ」


私は慌ててその魔道具を机の引き出しに隠し、やってきた彼の方を向く。


「そう、分かった。すぐ行く」


自分が帰れるようになったとも知らず、アレクはいつも通り私と時間を過ごす。

昼食を食べ終わり本でも読もうと書斎のドアを開けた時、中で私が魔道具修理に使った後机に置いたままにしていた魔法検知装置にアレクが触れた。


「何してるの?」

「そういえばあの魔道具、どこまで直ってるのかなってさ。もしかしたらここに置いてあるかもしれないと思って」


もう、隠していても意味がないか。

そう思い、机の引き出しを開けようと近づくと、視界に映ったその装置に気を取られ、体の動きが止まってしまった。


「アレク、貴方、何か魔法をかけられてるわよ?」

「え、そうなのか?」


本人にも自覚は無いようだが、今アレクが触れている魔法検知装置は赤く光っている。

それが魔法を探知した印だ。


「その魔法が何なのか調べてもいい?」

「ああ、調べてくれ」


アレクの許可を得た所でさっそく彼の手を握り、深く集中してその体にあるであろう魔法術式を探る。

すると、アレクの背中あたりに一つ、私でもこうしないと発見できないほど巧妙に隠された生体反応監視術式が付与されていた。

この事を伝えると、彼は驚きと共に、何故そんな魔法が付与されているのか分からいと言った。


「そもそも、その生態反応監視術式?とやらはどんな時に使う魔法なんだ?」

「この魔法は対象の位置と生体反応、心臓の音とかがわかるって代物なの。例えば病人の体調管理とか、罪人が逃走した時にそいつが生きているかどうかの確認のために使われるらしいわよ」

「らしい?」

「本にそう書いてあったって事よ。私そんな魔法使った事無いし」

「なるほど」


魔法神の加護を持たないアレクにこの術式が刻まれているのは、きっと無意味じゃない。

誰かが、何らかの目的を持って刻んだはず。


「そういえばアレク、暗殺者に襲われたみたいな事言って無かったっけ?」


そう質問すると、そういえば、とふと思い出したように襲われた時の事を語り始めた。


「そうそう、あの暗殺者らしき集団、定期的に現れては俺を殺そうと襲ってくるんだ。森の中、洞窟、宿屋、街中でも、所構わずにな」

「暗殺者らしきってどういう事?そんな事してるんだから暗殺者じゃないの?」

「いや、それが変なんだよ」


「変?」と私が聞き返すと、アレクは手を使いながら説明する。


「普通暗殺者って、飲み物とか食べ物に毒を盛ったりするだろ?でも俺を襲ってくる奴らに毒を盛られた事なんて無いし、そいつらの装備は暗殺用の短剣ではなく騎士が持つような長剣なんだ」

「確かに暗殺者らしき奴らと言わざるを得ないわね。というか貴方、そんなに狙われてるのにどうして生き残ってるの?」

「俺、魔法無しの戦闘だったら世界で一番強いからな。強化魔法を使った近接戦闘を仕掛けてくる騎士っぽい奴4人位なら返り討ちにできるんだよ」

「へー」

「信じてないだろ」

「うーん、2割くらい?」

「信じてないに等しいな、それ」


アレクのどうでもいい嘘などさて置いて、なぜ彼がそんなにも狙われるのか、その原因が加護無しだとは言い切れなかった。

それだけならば、それほどまでに殺そうとする訳が無いからだ。

それにアレクに刻まれた生体反応監視術式を目印にして、彼らは襲撃していると考えられる。

流石にここを襲撃することは無いと思うけど、アレクが出ていく前に対策を考えておかないといけないかもしれない。


「これ消せないのか?」

「今すぐには無理。少し準備が要るの」

「そうか」


会話が途切れた所で私は開きかけていた引き出しを閉め、淡く光っている魔法検知装置を取り上げた。

そしてアレクに告げる。


「まだあの魔道具は直ってないわ。もうちょっと待って」


それを聞いた彼は「分かった」とだけ言って書斎から立ち去ろうと背を向けドアへ向かって歩いていく。

はぁ、私って本当に、最低ね。

アレクと別れたくないからってあんな嘘吐くなんて。

でもこれで、あと少しはアレクと一緒に暮らせる。

…良かった。

アレクが書斎から出て行った後、私は彼から貰った髪飾りの花に刻まれている刻印を研究して夕食まで時間を潰した。

その後、私が夕食を作り、二人で食卓を囲み会話していると、あのノルメラ畑の話題になった。


「あの花畑ってさ、放っておいても勝手に水やりとかされるのか?」

「あ」

「あってなんだよ。まさか、忘れてたのか?」

「…これ食べ終わったら水を撒きに行ってくる」

「おう、ノルメラは油断するとすぐ枯れちゃうから気を付けろよ」


アレクからの注意を適当に聞き流しつつ、夕食を口にかきこんで椅子から立ち上がる。


「アレク、食器洗っといて」

「え、俺魔法使えないんだけど」

「事態は急を要するの。できるでしょ?」

「無理、できない。やったこと無いし」

「貴方に付いてる立派なその手は観賞用なの?」

「…実用、です」

「じゃあできる。お願いね」


食器洗いをアレクに押し付け、足早に家を後にした。

花畑の事、すっかり忘れてた。

枯れてないと良いんだけど。


ーー


ルミアが花畑に向かってから5分後、アレクは今や完全に魔法化された食器洗いというものを手動で行っていた。

刻印が刻まれた容器から溢れ出る水を使い、食器に付いた地下の植物から作り出された洗剤を水で洗い流す。

水魔法の刻印も、本来であれば魔力を使える者でないと扱えない代物だが、地下の魔成石から絶えず供給される魔力のおかげか、この家の刻印は彼でも扱えた。

アレクは今、食器洗いを初めて経験している。


「はぁ、ルミア、段々と打ち解けてきたと言うべきか、凶暴になってきたと言うべきか…」


誰もいないこの家で、そんな独り言をひっそりと呟く。

食器を全て洗い終わり手を拭いてから再度、その独り言に付け足すようにして。


「まぁ、俺はそっちのルミアの方が好きだけど」


アレクはルミアが気づくより先に、気づいていたのだ。

自分が今、どんな気持ちをもってして相手に接しているのかに。

そして魔道具が完成すれば、自分がここに居る理由が無くなる。

それが分かっているからこそ、どうすれば彼女と一緒に居られるかをアレクはずっと考えていた。


「ルミアは、俺が来いと言ったら_」


帝国へ一緒に来てくれるだろうか。

その全文を言い切ろうとしたが、何らかの気配を察知したため中断した。

数は4つ。

気配からして人間だと思われる物であった。

しかしあまりに奇妙な気配で、何かを狙っているのは確かだが、悪者という訳でもなさそうだ。

この気配、アレクには心当たりがあった。


「こんな所まで追ってきたのかよ_」


例の、暗殺者らしき集団である。

しかしこれまでの奴らとは、強さが違う。

おそらく、帝国でも5本指に入るレベルの強者が4人。

そうアレクは確信した。

先ほど、ルミアに対して冗談交じりに言った「魔法なしの戦闘だったら世界で一番強い」というのは事実である。

それは身体能力が優れているのではなく、卓越した戦闘技術とセンスを持っているからで、その2項目でアレクの横に並び立つ者は居ない。

この気配察知能力も彼の高い能力の内の一つだ。

ただそれは魔力無しで戦ったら、の話である。

相手が魔力を使う、それもルミアの様な中遠距離の魔法を得意とした魔法師相手では下っ端レベルでようやくいい勝負といったところだ。

今まで襲ってきていたのは騎士団で言うところの下っ端レベルで、近距離戦闘を主体とした者ばかりであったため、返り討ちにできていた。


「もう、すぐそこまで来てるな」


どう対処するべきか、脳をフル回転させて考える。

防具に関しては少し心もとないが、ホワイトベアの毛皮で作ったこの服はかなり防御性能が高いはずなので、十分対応できるだろう。

問題は武器だ。

何か鋭利な者でも良い、そう思いながら思考を巡らせていると、解体部屋にルミアが魔法で作り出した解体用ナイフがあったのを思い出した。

駆け足でそれを取りに行き、その後手に持って感覚を合わせる。

そうしていると、気配全てがこの家の前で止まった。

おそらくアレクの位置は生体反応監視術式でわかるが、この家が認識阻害魔法で覆われているため何も無い場所にアレクが居る、彼らにはそう見えているのだろうと推測される。

このまま家の中に居ればやり過ごせるのではないか、と思ったが、ルミアの事が脳裏をよぎった。

もし今ルミアが帰ってきたら、家の前に居る奴らと鉢合わせることになる。

いくら彼女が強いといっても、帝国の中でも上澄みの騎士4人を倒すのは厳しいだろう。

それに、これ以上彼女に迷惑をかけたくない。

俺が、やるしかない。

解体用ナイフをしっかりと握り直し、正面から家を出る。

すると目の前に突っ立っている鎧を着こんだ騎士が4人。

相対し、俺がナイフを持った手を前へ突き出し構えると、リーダーらしき人物が口を開く。


「サイル筆頭帝国騎士アルファード、貴方に安らかなる眠りを届けにやって参りました」


妙に丁寧な口上を述べた後、騎士全員が抜剣し構える。


「少し前までの俺だったら大人しく安らかなる眠りとやらを享受しただろうが、あいにく、今はそんな気分になれない。引き下がってくれないか?」

「残念ですがそれはできません。からの命令ですので」

「…そんなに嫌われるような事したのか、俺」

「いいえ、そうではないと思います。寧ろ_」


その先をアルファードと名乗る騎士が言おうとするのを、後ろに居た騎士が止めた。


「少々喋り過ぎましたね」

「ああ、そうだな」


今の俺には、母親以外にももう一人、大切な人ができた。

絶対にここで、死んでやるものか_


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