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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
始章

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10/17

料理を教えてもらうようになってから4日、アレクがこの家に来てから20日が経過した。

料理が日々上達しているのを感じているが、料理ができると言えるレベルにはまだ達していない。

しかし、あの壊れていた魔道具の修理はあと少しで完了する。

これが直ったら、アレクはここから出て行ってしまうのよね…

直したく、ないな。


「ルミア、入っていいか?」


三回のノックと共にアレクが私の書斎に訪れた事を知らせた。

扉をあけて彼を中に入れる。


「どうしたの?夕食を作り始めるには少し早いと思うけど」

「実はずっと聞きたかった事があったんだ」

「何?」


アレクの口から飛び出した質問は、予想していた物とは大きく違った。

私はてっきり、あの魔道具はどうだ?とか聞かれるものだと思っていたのだけれど...


「病気と治療法に詳しかったりするか?」

「…どういう訳か聞かせてくれる?」


私が聞くと、彼はなぜこんな事を聞いたかと、母の罹っている病気について話した。

一度、アレクがこの家に来た時にその理由、彼の母親について軽く話してくれている。

そもそも彼がここに来たのは、お金を稼いで母の高額な治療費を賄うためである。

彼の母親が患っている病気は衰弱病と呼ばれているらしい。

体に緑の斑点が現れ、衰弱する。

その斑点が全身に広がると、死に至る恐ろしい病気だ。

しかし、罹った時点からの余命は10年と言われるほど、病気自体の進行は遅い。

ただ、病気が進行するにつれ体がどんどん衰弱していくので、食べ物が食べられなくなったり、水が飲めなくなったりして、栄養失調や水分不足で死ぬ例が多い。

アレクが頑張ってお金を稼いで母の世話係を一人雇い、対抗薬を買って飲ませてきたおかげで、彼の母親は病気に罹ってから20年生きているという。

私が魔女だとわかった時、私ならその病気の治療法を知っている、もしくはその治療薬を持っているのでは、とアレクは考えた。

ただ、何の対価も無しにこの家に泊めてもらっているので、これ以上私に貸しを作るのが申し訳なくて言い出せなかったらしい。

私は別に、タダでアレクを泊めていたつもりは無いんだけど。

料理とか作ってもらってたし。

それに、もっと早く言って欲しかった。


「私、その治療薬作れるわよ」


それを聞いたアレクの表情は、喜び、安堵の色を見せた後、不安の色へ移った。


「対価は?」

「...質問を質問で返すようで悪いのだけれど、アレク、衰弱病の薬の原材料が何か知ってる?」

「ククリ草だろ?大陸だと中央山脈の頂上付近にしか生えていない希少な薬草の」

「そう。実はそれ、北の大地にも生息してるの。ここは積み重なった氷と雪のせいで標高が高いから、所々から飛び出ている岩の高さが大陸でいう中央山脈の頂上位の高さになるの。だからククリ草が生えてるんだと思う。きちんと調べたことは無いから、本当かどうかは分からないけどね」


そう言いつつ、私は証拠として瓶に保存してあったククリ草を見せた。


「アレク、貴方は対価が要ると思っているようだけれど、私はこれ以上何も要らないわ。十分貰っているもの。というか、料理と肉体労働以外に、貴方から差し出せる物は無いのよ」


私が要らないと言っても、アレクなら絶対に何か対価を払おうとするに決まっているので、そもそも差し出せる物など無いと念入りに言っておく。


「本当に、何も要らないのか?」

「要らないと言っているでしょ?材料もすでにあるし、こっちで勝手に作っておくから」


そう言って机に向き直ろうとした時、アレクは私に頭を下げた。

顔を見ると、彼は見た事無いほど朗らかな表情をしていた。

今まで普通だと思っていた顔は、緊張していたというか、かなり強張っていた状態のものだったのだろう。


「作るのにかなりの集中力を要するから、少しの間出て行ってくれないかしら?」

「ああ、分かった。本当にありがとう。夕食ができたらまた呼びに来る」


私はアレクが出て行って、ドアをしっかりと閉めたのを確認した。

治療薬の作成には少し特殊な技能が要求される。

通常の薬であればただ抽出するだけでいいのだが、衰弱病の治療薬の場合、二つの抽出口に対して同時に魔法をかれなければならない。

原材料が高価かつ、魔法を扱える者を二人雇わないといけないので、この治療薬は貴族でも手が出せない超高級品になるという訳だ。

だが私ならどちらも問題にならない。

原材料であるククリ草はすでに持っているし、二か所同時に魔法をかけるのも、私の能力、術式加算であれば可能。

能力というのは魔力の保有量が多い者が稀に発現する固有魔法の事。

私の術式加算はある一つの魔法を最大3つまで同時に使用可能というもの。

例えば、風魔法に術式加算を使用すると、通常一つの風魔法しか展開できないところ、同時に2つ、もしくは3つを展開・発動することができるのだ。

埃をかぶっていた専用の醸造装置を取り出し、机に設置する。

書斎に何故そんな物が置いてあるのか。

それについては他に置く場所が無かったからと答えておこう。

風魔法で埃を軽く飛ばしてからきちんと動作するか確認をしてから、ククリ草を醸造装置上部にある二つの瓶の中へ一つずつと、蒸留水を入れた。

醸造装置を起動し、加熱が始まった醸造瓶内のククリ草の変化を注視する。

蒸留水にククリ草の成分が溶け出し、管を通って今にも下の薬瓶に注がれようとしている。

その前に二つの注ぎ口に対して安定化の魔法を術式加算で同時にかけた。

薬を完成させるにはこの状態を後3時間維持する必要がある。

夕食に、間に合うといいのだけど_


結局、完成したのは作業開始から3時間半後だった。

完成した薬をしっかりと薬瓶に詰めるのに時間がかかってしまった。

まぁ失敗して全て台無しにする訳にはいかないしね。

醸造装置に対して洗浄魔法を発動し、今回の薬品生成で付着した成分を洗い取った。


「ルミア、晩飯ができたぞ」


示し合わせたかのようなタイミングでアレクが夕食の準備ができた事をドア越しに知らせた。

いつもなら匂いで分かるのだが、料理の香りが届かない程薬品の匂いがこの部屋に充満しているようだ。


「わかったわ。すぐ行く」


使い終わった醸造装置をしまってから書斎を出る。

辺りには食欲を刺激するいい香りが漂っているが、以前として私の鼻腔には薬の匂いがこびり付いたままである。

完成したばかりの夕食をアレクがテーブルに運んでいたので、私はフォークなどのカトラリーを用意した。


「アレク、薬が完成したから渡しておくわね」


テーブルの中央に治療薬を置き、牽引魔法の術式に流れる魔力を逆流させて治療薬をアレクの手元までスライドさせた。

受け取った彼は少し震えた声でただ一言、「ありがとう」と言って頭を下げた。

これがアレクではなく他の誰かであったなら「それだけ?」と少しばかり圧をかけていたところだが、彼がこの状況で多くを喋れるほど器用で無いことも、籠りすぎた感情が故、一言だけになってしまったことも、私にはわかっていたので何も言わないでやった。

アレクは顔を上げて薬をしまった。

私は彼の表情に少し違和感を覚えた。

あの薬を受け取ってからアレクの表情が優しくなったような、そんな気がする。


「アレク、そんな顔をしてたんだ」

「何だ、急に。嫌味か?」

「違う違う。気づいてないの?貴方、その薬が手に入ってから表情がかなり柔らかくなってた?」


その言葉を受けて、アレクは顔を触って表情の変化を確認した。


「そうか?自分ではイマイチよく分からないな」

「私の気のせいかもしれないけどね」

「確かにルミアの言う通り、少し体が軽くなったのは事実だな。肩の荷が降りたからなのか、生きる理由が無くなったからなのか…」

「深く聞きはしないけど、軽くなったのならいいんじゃない?生きる理由なんて後からいくらでも探せばいいんだし」

「はは、それもそうだな」


彼はそう言い、優しく微笑んだ。

なんだかそれが嬉しくて、私もつい笑ってしまった。

この時、私は本当のアレクを知ったような気がした_


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