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他人に害をなすのだから、せめて悪人であろう  作者: りょっぴー ぴあ
始章

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出会い1

私がエルフの村から逃げ出して、北の大地に移り住んでから200年程経過した、私が北の魔女と呼ばれるようになった頃。

太陽を忘れたこの大地が、生命の息吹すら忘れようと吹雪の勢いを強めた日だった。

1人、赤髪の男が私の住む隠れ家にやって来た。

いや、やって来たと言うよりも家の前に倒れていた。

ここは極寒の土地。

当然、死んだ生物の死体は分解されることなく凍ったままずっと残ってしまう。

私は家の前に氷漬けの人間を飾るような趣味は無い。

この家は認識阻害の魔法で覆われており、ここに家があると分かっていないと発見することができない。

そのため、この男はここに助けを求めてやってきたという訳ではないと思われるが、まだ息もあったのでとりあえず私の隠れ家で休ませてやる事にした。

暖炉前に横たわらせ、毛布をかける。

その過程で男を観察すると手足の一部が凍傷を起こしており、栄養失調なのか少しやつれていた。

死んでもらっては困るので一応手足をお湯に漬けて凍傷だけは治す。

加えて、男が身につけていた短剣は念の為取り上げておく。

男が目を覚ましたのは2日程経った頃だった。

まだ上体を起こすのもやっとの様で、体に負ったダメージがかなり大きいようだった。


「すまないが、もう一晩泊めてくれないだろうか」


最初は生意気だと思った。

いきなりやって来て一晩泊めろなんて、そんな怪しい奴の要求を呑む訳が無い。

だが、今はそれよりも、何故この男がここに来たのかが重要だ。

他人と接するので、少し口調を変えて話す。


「貴方、何故このような所へ?」


私がそう問うと、男は家のドア付近に座り込んで語り始めた。

男はここ、北の大地より少し南にある帝国で冒険者業を営んでいたという。

帝国ではそこそこ有名だったらしく、指名で依頼が来ることもあったらしい。

男がいつも通り依頼をこなしていたある日、男の元に一風変わった依頼が舞い込んだ。

その内容は北の大地、魔女の領域の調査。

しかもその依頼内容は一切外部に漏らしてはいけないという怪しさ満点の物。

通常、この手の依頼は受けないようにしていたらしいが、報酬が高いこともあって男は母の高額な治療費を稼ぐために受ける事にした。

男は船を使って帝国のある中央大陸からこの北の大陸に渡航。

寒さ対策の衣服や魔道具を持っていたが、北の大陸に魔物が生息していることは知られていなかったため、北の大地探索中に魔物に遭遇し食料紛失、魔道具破損の大損害を被った。

そうして身一つで彷徨っていたところ、偶然私の隠れ家にたどり着いてしまった。


「なるほど。それで、私に何を要求するつもりなの?」


こいつがここに来たという事は、魔女である私に何か求めてきたという事。

まぁ、それが何であれ引き受けてやるつもりは無いけど。


「さっきも言ったが、もう一晩ここに泊めてくれ」

「それだけ?それだけで良いの?」

「ああ、それだけで良い。何か不都合があったなら今すぐ出ていくが…」

「…問題ないわ。どうせこの広い家の部屋を持て余していた所だし」


この男は私が魔女だという事を知らないの?

白銀の髪に紺碧の瞳のエルフ、という特徴は流石に知られていると思うのだが。


「俺はまだ歩けない。申し訳ないがこの場所で寝させていただく」

「駄目」

「へ?」


男は呆けた顔で私を見つめた。

拒否されると思っていなかったのでしょうね。

だが、この二日間、暖炉前がなんだか窮屈で嫌だったの。

私は男を空き部屋に持っていくために魔法で浮かせた。

その姿は何とも情けなく、非常に滑稽であった。


「お、おい!何すんだよ!」

「お前を空き部屋に連れていく」

「でもこれじゃあ男の尊厳ってもんが...」

「歩けないと言っていたじゃない」

「それは…確かにそうだが」

「ならこうする他選択肢は無いわよ。もし貴方が自力で移動するという選択をしていたなら、動けなくてもがいてるお前を暖炉前でくつろぐ為の足置きにしていたわよ」

「足置き…」


男を黙らせた所で二階の空き部屋に連れて行き、長い間洗われていないベッドに洗浄魔法をかけてから彼を放る。


「今日の食事はこっちで出してあげるわ。大人しく寝てなさい」

「ありがとう。感謝する」


私は一階に降りて本棚の本を適当に取って暖炉前へ戻った。

...あの男、もう一晩と言っていたが、たった一晩で直ると本気で思っているの?

治りきっていない状態で吹雪に身を曝せば確実に死んでしまう。

まぁあんな男、どこで野垂れ死んでも私には関係ないわ。

私はこの極寒に包まれているだけで良い。

余計な変化なんて_

手に持った数えきれない程の回数読んだ本を今日もまた読んで時間を潰す。

ふとした時、腹の虫がうるさくなってきたのでキッチンに足を運ぶ。

そういえば今日はアイツの分もご飯出さなきゃ。

キッチンの隣にある保存魔法が付与された木箱から干し肉を二人分取り出す。

保存用干し肉の残りが少し心もとなくなってきたわね。

北の大地での主な食糧は生息する魔獣の肉と、この家の地下室で育てた野菜が少しばかり。

生活するのは私一人なのでこのくらいで足りるのだ。

今日は二人だけど。

何だか野菜までアイツに出すのは嫌なので、干し肉だけ持っていく。

もちろん私のご飯も干し肉だ。

少ないと思うかもしれないが、実際に私はこれで200年ほど生きている。

それにこういう食事には、慣れているわ。

だから問題ないの。

太らないし。

二階へ上がり、一応ノックをしてから男のいる部屋に入る。

男は上体を起こして窓の外をボーっと見ている。


「これ、干し肉」


私が必要最低限の言葉だけを発して部屋を立ち去ろうとすると、男に引き留められた。


「なぁ、もうちょっと体に良さそうな物はないか?」

「客人のくせに生意気ね」

「すまない。でも栄養をしっかり取る事ができなければ、十分に回復することができない」


何、この男。

家にはこれしかないわよ?

男はどうしても諦めきれないのかベッドから立ち上がり私に近づいてくる。


「もう立てるようになった。これ以外の物が無いというならキッチンを貸してくれないか?自分の分は自分で作るから」


 「頼む」と私に頭を下げる。

そこまで言うのには何か理由があるのかな?

...まぁわざわざ断る理由も無いか。


「いいわよ。肉はあまりないけれど、文句は言わないでよね」

「恩人に文句など言う訳が無いじゃないか。感謝する」


男はまだおぼつかない様子だったが、軽く歩いたり階段を下りる事は出来た。

キッチンにたどり着くと、保存魔法が付与された木箱を漁って私がまだ加工していない生肉を取り出した。


「さっき肉はあまりないって言ってたが、野菜は置いてないのか?」


男は生肉だけでなく、野菜も要求してきた。

気持ち的にはコイツに貴重な野菜など渡したくないけれど、丁度いいし、この際収穫してもらいましょうか。


「ある。ついてきなさい」


私は前と同じように魔法で男を持ち上げ、地下にある畑へ向かう。


「魔法を使わなくたって俺はもう歩けるぞ?」

「貴方のペースに合わせるの面倒なのよ」

「…すまん」


キッチンのそばにある階段から地下室へ向かう。

畑はそれほど大きくなく、一回の収穫で一人分の野菜1か月分が取れる程度のものだ。

男にかけた魔法を解除し、私は先に上へ戻る。

放っておけば勝手に収穫して勝手に戻ってくるでしょ。

あいつが何しようが私には関係ないし、戻って読書でもしようかな。

私は片手で晩飯ほしにくを食べながら暖炉前に座り本を読む。

ごはんを食べ終わり、読書に集中し始めた頃、キッチンの方からなにやら食欲のそそられるいい匂いが漂ってきた。

そちらを見ると、男がフライパンで生肉と畑で取ってきた野菜を炒め、それに干し肉のアレンジ用に置くだけ置いて一切使っていなかった塩をかけていた。

...美味しそうだなぁ。

いやいや、さっきも言ったでしょ⁉

あの男が何をしようと関係ないって!

関係ない関係ない関係ない。

男が皿に盛ってフライパンの横に置く。

関係ない関係ない関係ない。

師匠と暮らしていた時以来嗅いでいなかった料理というものの匂いが、私の鼻腔を占拠する。

関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない。

彼はフォークを取り出し、口へと料理を運ぶ。


「あのー、そんなに見られると食べにくいんだけど」

「み、見てないわよ!貴方が自意識過剰なだけじゃないの⁉」

「言い過ぎだろ」


無意識に目線が活字から彼の料理へ移っていたようだ。

関係ない関係ない関係ない!

男が二口目を食べる。

関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない!

必死の抵抗も空しく腹の虫の大きな声がその場に鳴り響いた。


「...食べるか?」

「いいの?」

「まぁ、ちょっと作りすぎたし」


まぁ、私はこの家の主だし、料理を食べる権利くらいはあるわ。

そう、これは家主として当然の権利。

恵んでもらうとか、そういうんじゃ無いから。

権利・・だから。

私はフライパンに残っていた全てを皿に盛り、フォークを突き刺して口に運ぶ。

200年ぶりの料理の味!

唾液が出る、食欲が溢れ出る、幸せで満たされる。

美味しい!


「はは、どうやら気に入ってくれたようだな」


男は私を見つめながらそう言った。


「う、うるさいわね。ただ干し肉よりおいしかっただけよ」

「まさか、今までずっと干し肉だけで生活してたのか?」

「そうだけど、何?」

「おいおい、毎日しっかりとした物を食べないと早死にするぞ」

「別にいいわよ、早死にしても」

「そうかよ」


男は私が食べ終わるのを待ってから、私の皿も一緒に洗い、その後部屋へ戻った。

その日、それ以降男を会話をする事は無く、いつも通りの静寂であった。


次の日、朝起きてすぐに男が出発すると言った。

当然、たった一晩で体が完全に回復する訳も無く、依然としてボロボロのままである。


「本気?そんな体で発つなんて」

「ああ、約束だからな」

「どこへ行くの?」

「任務を果たしに」


この男、この大陸の探索を再開するつもりなのね。

彼は別れの挨拶をしてドアを開け、破損した魔道具とボロボロの衣服を身にまとい吹雪に自ら包まれに行った。

何だろう、この、さっきから胸を締め付けるような緊張感は。


本当に彼をこのまま行かせていいのかしら__?

この作品は毎日8時と20時の2回更新です。

完結まで一気に駆け抜けます。

最終話更新は2月17日の午前8時を予定しています。


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