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【悲報】俺が力を隠してこっそり魔王を倒したら、婚約者の聖女(ヤンデレ)がブチギレて王国を滅ぼしかけた件  作者: ledled


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6/8

俺はパーティの兄貴分。勇者と聖女様がくっつくと思ってたんだが、なんか様子がおかしい

俺、ガイ・ブレイブハートは、勇者パーティの戦士だ。

騎士団じゃそこそこ名を知られた存在だったが、魔王討伐という大義のため、ガラじゃねえとは思いつつも、このパーティに加わった。


メンバーは、異世界から来たっていうチャラい勇者ユウト。

見るだけで目が潰れちまいそうなほど美しい聖女セレスティア様。

そして、セレスティア様の幼馴染だっていう、物静かな魔法使いのアレン。


正直、最初にこのパーティを見た時は「大丈夫かよ」と思ったもんだ。

リーダーであるはずのユウトは、とにかく軽い。口を開けば「俺最強!」「セレスティアは俺の嫁!」だ。まあ、勇者ってからには自信家なのはいいことかもしれねえが、もう少し落ち着きってもんが欲しい。

セレスティア様は、もう、あれだ。天上の人だ。俺みたいな汗臭い戦士が気安く話しかけちゃいけねえような、神聖なオーラがある。彼女が戦場にいてくれるだけで、不思議と力が湧いてくるんだから、聖女様ってのはすげえもんだ。

で、問題はアレンだ。

悪い奴じゃねえんだが、とにかく地味で影が薄い。戦闘でも後方からファイアボールを撃つくらいで、正直、戦力として数えていいのかわからねえ。雑用とかは真面目にやるから、まあ、いないよりはマシか、くらいの認識だった。


旅が始まると、ユウトの奴が意外とやるんで驚いた。

あいつの放つ聖剣技は、マジで一撃必殺の威力がある。俺が前線で敵を抑えている間に、ユウトがボス格をドカンと一発で仕留める。それが俺たちの勝ちパターンだった。


「どうだ、ガイさん! 俺のスターダストブレイク、マジでやばくなかった?」

「おう! さすがは勇者様だ!」


俺はいつも、そう言ってあいつの背中を叩いてやった。まあ、パーティの兄貴分として、若いやつらを盛り上げるのも仕事のうちだからな。


でも、今思えば、おかしなことは最初からたくさんあったんだ。


ミノタウロスの大将と戦った時のことだ。あいつの斧の一撃、普通なら俺の腕ごと持っていかれてもおかしくなかった。なのに、なぜか「重いけど、耐えられる!」って感じで受け止められたんだ。あの時、一瞬だけ風が俺を押し返してくれたような、不思議な感覚があった。


魔女が撃ってきた呪いの弾幕もそうだ。セレスティア様が障壁を張る前に、なぜか全部消えちまった。ユウトは「俺の覇気で消えた!」とか言ってたが、んなわけあるか。


何度か、死んだと思った場面があった。

背後からの一撃。避けられないはずの魔法。そのすべてが、なぜか俺たちには届かなかった。

俺はそれを、「これが勇者パーティに与えられた神の御加護ってやつか」なんて、都合よく解釈していた。本当に、俺は鈍感な大男だったんだ。


ユウトがセレスティア様にしつこくアプローチしてるのは、見ていて少しハラハラした。

セレスティア様は、俺にとっても憧れの女性だ。あんな美しい人が、もし自分の嫁さんになってくれたら……なんて、夢に見ねえ戦士はいねえだろう。

だが、ユウトのやり方はあまりにも強引で、見てるこっちが恥ずかしくなることもあった。


「聖女様も大変だな」


ある晩、見張りをアレンと交代する時に、俺はついそんなことを漏らした。


「ユウトのことですか?」


アレンは、いつも通り感情の読めない顔でそう返した。


「おう。まあ、あいつも悪気はねえんだろうがな。セレスティア様、困ってねえかな」

「……大丈夫ですよ。彼女は、ああいうのに慣れてますから」

「そうか? ならいいんだが……」


アレンはそれ以上何も言わず、闇の中に消えていった。

あの時、あいつの言った「慣れてる」って言葉の意味を、俺はもっと深く考えるべきだったんだ。


俺はてっきり、ユウトとセレスティア様が最終的にくっつくもんだと思ってた。

勇者と聖女。物語の王道だ。アレンはまあ、セレスティア様の良き「幼馴染」として、二人の結婚を祝福する役回りなんだろう、と。完全にそう信じ込んでいた。


だから、王都での祝賀会で、国王陛下が二人の婚約を発表した時も、「おお、ついに来たか!」と思っただけだった。

ユウトがガッツポーズを決めて、セレスティア様の元へ駆け寄っていく。

うんうん、めでたいこった。


だが、その後の光景は、俺のこれまでの常識をすべて、木っ端微塵に破壊した。


セレスティア様の顔から表情が消え、広間全体が凍りつくような圧に包まれた。

そして、あの地味な魔法使いだったはずのアレンが、壇上に上がってこう言ったんだ。


「彼女は、俺の婚約者です」と。


頭をガツンと殴られたような衝撃だった。

ユウトがアレンに斬りかかる。だが、アレンは指一本動かさずにユウトを吹き飛ばした。

騎士たちがアレンを取り囲む。だが、アレンは一言呟いただけで、歴戦の猛者たちを全員無力化した。


俺は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

旅の道中での、数々の不可解な出来事が、頭の中で一気につながっていく。


ミノタウロスの斧を受け止められたのは、アレンが風の魔法で威力を殺してくれたからだ。

魔女の呪いが消えたのは、アレンが魔法を打ち消したからだ。

俺たちが一度も死ななかったのは、アレンが誰にも気づかれずに、ずっと俺たち全員を守り続けてくれていたからだ。


あいつは、雑用魔法使いなんかじゃなかった。

それどころか、俺たちが束になっても敵わない、とんでもない実力者だったんだ。

そして、俺たちの旅は、あいつの手のひらの上で転がされていただけだったんだ。


「……まさか……あの魔王との戦い……四天王との戦いも……」


俺の口から、震える声が漏れた。

そうだ。あの戦いも、すべてはアレンが仕組んだ舞台だったんだ。俺もユウトも、あいつの書いた脚本通りに踊らされていただけの、ただの役者だった。


そして、極めつけはセレスティア様だ。

王都の上空に、国を滅ぼせるほどの光の槍を無数に出現させたあの姿は、俺が知っている慈愛に満ちた聖女様ではなかった。あれは、神だ。怒れる女神そのものだ。

その女神が、アレンのことを「旦那様」と呼んだ。

その時の彼女の顔は、俺が今まで見たどんな表情よりも、幸せそうに見えた。


ああ、そうか。

俺は、何もわかっていなかった。

一番大事なことを、何も見えていなかった。


ユウトとセレスティア様? 違う。

最初から、この物語の主人公は、アレンとセレスティア様だったんだ。

俺たちは、ただの脇役。いや、背景ですらなかったのかもしれない。


二人が去った後、広間は異様な静寂に包まれていた。

俺は床に転がったユウトの聖剣を拾い上げ、壁にもたれて呆然としているあいつの元へ歩み寄った。


「ユウト」

「……なんだよ、ガイさん」

「……完敗だな、俺たちは」


俺がそう言うと、ユウトは悔しそうに顔を歪め、それから力なく笑った。


「ああ……完敗だ。俺、馬鹿みてえだな」

「全くだ」


俺たちは、二人して天井を仰いだ。

これからどうなるのか、さっぱりわからねえ。だが、一つだけ確かなことがある。


俺は、とんでもない奴らと一緒に、命がけの旅をしていたらしい。

そして、俺の鈍感力も、なかなかのものだったようだ。


「……なあ、ガイさん」

「ん?」

「俺、これからどうすりゃいいんだろうな……」


弱々しく呟く元・勇者に、俺はガシッとその肩を組んでやった。


「さあな。だがまあ、とりあえず酒だ。やけ酒に付き合ってやるよ、相棒」


俺はそう言って、ニッと笑って見せた。

兄貴分として、落ち込んだ弟分を慰めてやるのも、仕事のうちだからな。

たとえ、その弟分が、世界で一番盛大な勘違い野郎だったとしても、だ。

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